召喚術師はじめました

鈴野あや(鈴野葉桜)

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第一章

三十五話

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「おーい、お嬢」

「起きて、お嬢」

 目を覚ませば、呑気な声が耳に入ってきた。床に倒れていたはずのベルの体は、アーテルが膝に乗せて介抱してくれていたようだ。周囲を見渡しても、ベルの傍にいるのはアーテルとアルブスのみ。そこにロセウスはいない。

 その事実が作戦成功を告げているのだとしても、心が痛まないわけではない。これはベルの作戦なのだから。

 今回の作戦はロゼリアが、強い契約獣を求めているという点が鍵となっていた。だからロゼリアが望むロセウスをわざと召喚したのである。ヴィータやルークの前情報があったおかげで思いついた作戦だ。もちろん魔法対策はしっかりとしてある。だからロゼリアについていったロセウスも『流れに身を任せて』ついていっているが、実際は記憶を改ざんされることなく、傍にいるはずだ。

 何より作戦が成功した証拠として、ベルの記憶はしっかりと残っていた。頭が割れそうなくらいに痛かったのは嘘だ。あれはただの演技である。ロゼリアが素人レベルのベルの演技に引っかかってくれて、改ざん魔法を使用してくれたときは心底ほっとしたほどだ。そしてこうして眠りについていたのも、自身で引き起こしたことだ。体内の魔力を操れば少しの間の気絶くらい訳ないことである。気絶したフリでもよかったのだが、少しでも気づかれない確率を上げるために本当に気を失うことにしたのだ。

 基本ベルに害はない作戦だが、気を失っている間などに怪我を負う可能性は十分にあった。三人に伝えれば、必ず止められてしまっただろう。だからこうして作戦の内容を告げずに実行をした訳なのだが、ロセウスがベルの意図に気づいて魔法がかかったふりをしてくれてほっとする。

 魔法の類は、召喚術師になる前まで簡単なものではあるけれど使っていた。だからある程度の理論は理解しているつもりだ。

 この世界において攻撃魔法の種類は二つある。それは身体攻撃魔法と精神攻撃魔法と呼ばれる攻撃魔法だ。

 身体攻撃魔法は名の通り、身体に直接ダメージを与えるものである。風の刃や火球など、魔力を四元素である風、火、水、土に変えて攻撃する魔法だ。そして精神攻撃魔法はこれも名の通り精神へ直接ダメージを与えるものである。身体攻撃魔法と違って、精神攻撃魔法は使い手が数千人に一人と言われるほど少ないのに、数十種類以上の魔法があって、まだ発見されていないものもあるまでと言われている。ロゼリアが使用したのは、記憶の改ざんをする精神攻撃魔法だった。

 身体攻撃魔法は、技を見切って避ければいいが、精神攻撃魔法はそうもいかない。対象となった人物は必ず魔法を受けてしまう。だから対処法としては、どのような類の精神攻撃魔法を受けているのか攻撃を受ける前に知っておくこと、としか言いようがない。もしくは相手の魔力よりも強い魔力の持ち主であれば、それを防ぐことができるが、精神攻撃魔法の使い手は総じて魔力が高い。なので防げる者は輝人や同じ精神攻撃魔法を使い手くらいといっても過言ではない。それほどに精神攻撃魔法は厄介な魔法であるのだ。

 今回の場合、ヴィータやルークから事前に情報を得ていた。

 ヴィータからは、ロゼリアが契約獣との契約に失敗し、契約術師になれなかったことから、『異界の湖』までついてきてくれた男性の契約獣、ノアを精神攻撃魔法で奪って自身の契約獣にしたことを聞いた。そして深い森から脱出できたのは、男性とノアを盾にしたからだとも。

 そしてルークには、五学年の生徒の名前が一人違うことを確認してもらった。その生徒の名前はイトナ・カインド。ノアの本来の契約術師の名前だ。ロゼリアの名前は五学年にはなかったらしい。つまりロゼリアは改ざん魔法を学院全体にかけてイトナがいた席を奪い取っていたらしい。なんとも恐ろしいことをしてくれたものだ。

 通常授業などに使用する資料は全てロゼリアの名前に変わっており、イトナの名前が確認できたのは限られた者のみが触れることが許された、歴代の生徒や教師の名前が記されている名簿だった。これにはどんな魔法も弾いてしまう特別な魔法がかかっているらしい。そのことを知らずベルは当初書類を調べてほしいと言っていたのだが、ロセウスたちがこの名簿の存在を教えてくれて調べてもらうこととなったのだ。どのような経緯でロセウスたちが知っているのかは分からないが、知っていたことで真実を知ることができたので感謝の言葉しか出てこない。

 そしてその情報を全員がルーク伝手に知るとともに、ロセウスは内に秘める魔力量が多く、ベルに至っては輝人である。二重の意味で精神攻撃魔法を防げるので、かかるわけがないのだ。といっても、ロゼリアはベルたちが情報を掴んでいることを知らない。それに自分より多い魔力を持つ者には精神攻撃魔法がかからないということは、あまり世間では知られていないこと。ロゼリアもこのことを知らなかったのだろう。

 また、学校全体に改ざん魔法が掛けられているかもしれないが、アーテルとアルブスはロセウス同様に魔力が多く、情報も共有していたことから問題なかったようだ。

「作戦成功。まずは、証拠を掴まなきゃロゼリアを捕まえることができないからね」

「成功はいいが、あんまり危ない真似はするなよ?」

「こっちの心臓が持たない」

「ごめん」

 心配だからこそ、注意をしてくれるアーテルとアルブスに謝りながら、今後の流れを説明することにした。ここからはベルだけではなく、アーテルとアルブスの協力も必要になってくるからだ。説明の合間に入るアーテルたちの意見も参考にしながら、失敗しないためにも綿密に話し合いを進めた。
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