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第一章
三十六話
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(早くベルの元へ帰りたい……)
精神攻撃魔法である改ざん魔法によって、記憶を改ざんされたフリをしているロセウスは、掛けてきた張本人であるロゼリアと腕を組んで授業を受けることとなっていた。これがベルならば喜んで何時間でもするが、なぜ好きでもない女性と腕を長時間も組まなくてはいけないのかと、苛立ちが沸き上がってくる。この苛立ちを何かにぶつけたい衝動に駆られたが、これはベルの作戦なのだから、ベルが『流れに身を任せて』と指示をしたから、と何度も自身に言い聞かせた。
ロゼリアのクラスメイトは、改ざん魔法『メモリーズテンパー』にかかっていて、誰もロセウスがロゼリアの隣にいることを不思議に思っていない。むしろ契約獣が二匹いて、片方は完璧な人化までできる優秀な契約術師だと記憶を改ざんされているようだ。
ルークとソフィは、改ざん魔法について情報を得ていたので、魔法には掛かっていないようだ。しかしそのせいで、ルークからは哀れみの視線を、ソフィからは冷たい視線を浴びることとなった。他人からの視線はあまり気にならない質なのだが、まるで浮気をしているところを見つかったような気分になってしまう。これには内心ため息をつかざるおえなかった。
授業が終わり、ロゼリアとともに在籍している寮へ向かった。寮は学院敷地内に建っていて、家が遠い者などが使用しているらしい。といっても、爵位持ちは大体が王都に家を所持しているので、専ら利用するのは庶民だけだ。それでも学院と同じように細かな意匠が凝らされていて、一人一人に宛がわれる部屋も、適度な広さがあった。
ロゼリアについて部屋の中に入ると、扉を閉めた瞬間に抱き着かれた。
(っち……)
基本は温厚な性格の持ち主であるロセウスは、滅多に舌打ちをしたりしない。それでも内心ではあるもののついてしまうのは、好きでもない女性に抱きつかれたからだ。己の身体から引き剥がしたい気持ちを必死に抑えて、辛うじて笑顔を作る。
「どうしたんだい? ロゼリアは甘えん坊さんだね」
「だって、こうしてロセウス様が私の傍にいてくれることが嬉しくて」
「今更何を言っているんだい? 今までいつも一緒だったろう? それにノアもいるじゃないか」
ノアに視線を向ければ、ノアは尻尾を軽く振っていた。
「そうだね。でも私もっとロセウス様に触れたいの。ねぇ、私のことを抱きしめて?」
「全く、困った子だね」
ロセウスは拒絶反応を示す体を無理やり動かして、ロゼリアの背に両腕を回した。
「これでいいかい?」
「うん。でももっとお願いしてもいいのなら、キスして、ロセウス様のことで頭をいっぱいにしたいな」
ロゼリアは小柄で、一般的に可愛いといわれる分類に当てはまる。けれどロセウスからしてみれば、ただの他人。ベル以外を可愛いと思うはずがなかった。そんなロゼリアにキスを要求され、嫌悪感が心の中に生まれる。
「ロゼリア、まだ君には早いよ。ロゼリアがもう少し大人になったら、キスもそれ以上のこともしてあげる。だから今はこれで我慢しておくれ」
「ロセウス様、そんなに私のことを大事に想って……。でも、一度でいいんです。ロセウス様、キスしてください。してくれたら、ロセウス様の言う大人になるまで我慢しますから」
「……仕方がないね」
(ここで断れば、後が面倒くさいね……。全く、損な役割を任せれたものだ。全て終わったあと、ベルには覚悟をしておいてもらわないとね。ふふ、ベルに何をしてもらおうか)
そうでも思っていないとやっていられなかった。ロセウスは内心大きなため息をつき、ロゼリアの額に口づけをした。
「今はここまで、だよ。ロゼリア」
これが最大限の譲歩だ。唇にするより何十倍もマシである。
「ふふふ。はーい。早く大人になりたいなあ」
「そんなに焦らなくでも大丈夫だよ。それより明日も授業がある。今日のところは早く休みなさい」
唇ではなかったものの、ロセウスにキスをされて満足はしたのだろう。頬をほのかに染めて、ベッドの中へと潜り込んだ。ロゼリアが完全に夢の世界へと飛び立ったあと、ロセウスは唇の皮がめくれそうなほどに強く、何度も拭った。
ベルから離れ、一週間。授業をしにやってくるベルの姿を楽しみに、ロゼリアとの生活に耐えていて分かったことが二つある。それはロゼリアの記憶改ざん魔法が、実は人から与えられたものだということ。魔法を与えるという話自体、ロセウスは聞いたことはない。
しかしロゼリアが一日一通、誰かに手紙を送っていたことが判明した。ロゼリアに気づかれないように、夜中にこっそり手紙を開封してみれば、ロセウスを己の契約獣にすることができたことや、ノアの本来の契約術師は自身が契約術師であることを忘れてロゼリアが在籍していた魔術師専攻の三年生として授業を学んでいて、魔法が解ける様子は全くないことなどが書かれていた。どうやらロゼリアは十八歳ではなく、十六歳だったらしい。
手紙を開封したことがばれないよう隠蔽工作をしっかりと行い、ベルの授業があるときに、簡潔に内容を記した紙をベルのポケットへこっそり入れる。ベルはその紙の存在にすぐ気づき、小休憩のタイミングで内容を確認するために席を少し外していた。
何度もベルと、ロゼリアの前で接触をするのはばれてしまう恐れがあるので、アルブス伝いに授業後に作戦を決行すると情報を耳にした。
どのようにベルたちが動くのかはわからない。
でもベルの指示通り、流れに身を任せていれば大丈夫だろうと判断する。
(ああ、早くベルの元へ戻りたい)
ロセウスは誰にも気づかれないように、こっそり口元に笑みを浮かべた。
精神攻撃魔法である改ざん魔法によって、記憶を改ざんされたフリをしているロセウスは、掛けてきた張本人であるロゼリアと腕を組んで授業を受けることとなっていた。これがベルならば喜んで何時間でもするが、なぜ好きでもない女性と腕を長時間も組まなくてはいけないのかと、苛立ちが沸き上がってくる。この苛立ちを何かにぶつけたい衝動に駆られたが、これはベルの作戦なのだから、ベルが『流れに身を任せて』と指示をしたから、と何度も自身に言い聞かせた。
ロゼリアのクラスメイトは、改ざん魔法『メモリーズテンパー』にかかっていて、誰もロセウスがロゼリアの隣にいることを不思議に思っていない。むしろ契約獣が二匹いて、片方は完璧な人化までできる優秀な契約術師だと記憶を改ざんされているようだ。
ルークとソフィは、改ざん魔法について情報を得ていたので、魔法には掛かっていないようだ。しかしそのせいで、ルークからは哀れみの視線を、ソフィからは冷たい視線を浴びることとなった。他人からの視線はあまり気にならない質なのだが、まるで浮気をしているところを見つかったような気分になってしまう。これには内心ため息をつかざるおえなかった。
授業が終わり、ロゼリアとともに在籍している寮へ向かった。寮は学院敷地内に建っていて、家が遠い者などが使用しているらしい。といっても、爵位持ちは大体が王都に家を所持しているので、専ら利用するのは庶民だけだ。それでも学院と同じように細かな意匠が凝らされていて、一人一人に宛がわれる部屋も、適度な広さがあった。
ロゼリアについて部屋の中に入ると、扉を閉めた瞬間に抱き着かれた。
(っち……)
基本は温厚な性格の持ち主であるロセウスは、滅多に舌打ちをしたりしない。それでも内心ではあるもののついてしまうのは、好きでもない女性に抱きつかれたからだ。己の身体から引き剥がしたい気持ちを必死に抑えて、辛うじて笑顔を作る。
「どうしたんだい? ロゼリアは甘えん坊さんだね」
「だって、こうしてロセウス様が私の傍にいてくれることが嬉しくて」
「今更何を言っているんだい? 今までいつも一緒だったろう? それにノアもいるじゃないか」
ノアに視線を向ければ、ノアは尻尾を軽く振っていた。
「そうだね。でも私もっとロセウス様に触れたいの。ねぇ、私のことを抱きしめて?」
「全く、困った子だね」
ロセウスは拒絶反応を示す体を無理やり動かして、ロゼリアの背に両腕を回した。
「これでいいかい?」
「うん。でももっとお願いしてもいいのなら、キスして、ロセウス様のことで頭をいっぱいにしたいな」
ロゼリアは小柄で、一般的に可愛いといわれる分類に当てはまる。けれどロセウスからしてみれば、ただの他人。ベル以外を可愛いと思うはずがなかった。そんなロゼリアにキスを要求され、嫌悪感が心の中に生まれる。
「ロゼリア、まだ君には早いよ。ロゼリアがもう少し大人になったら、キスもそれ以上のこともしてあげる。だから今はこれで我慢しておくれ」
「ロセウス様、そんなに私のことを大事に想って……。でも、一度でいいんです。ロセウス様、キスしてください。してくれたら、ロセウス様の言う大人になるまで我慢しますから」
「……仕方がないね」
(ここで断れば、後が面倒くさいね……。全く、損な役割を任せれたものだ。全て終わったあと、ベルには覚悟をしておいてもらわないとね。ふふ、ベルに何をしてもらおうか)
そうでも思っていないとやっていられなかった。ロセウスは内心大きなため息をつき、ロゼリアの額に口づけをした。
「今はここまで、だよ。ロゼリア」
これが最大限の譲歩だ。唇にするより何十倍もマシである。
「ふふふ。はーい。早く大人になりたいなあ」
「そんなに焦らなくでも大丈夫だよ。それより明日も授業がある。今日のところは早く休みなさい」
唇ではなかったものの、ロセウスにキスをされて満足はしたのだろう。頬をほのかに染めて、ベッドの中へと潜り込んだ。ロゼリアが完全に夢の世界へと飛び立ったあと、ロセウスは唇の皮がめくれそうなほどに強く、何度も拭った。
ベルから離れ、一週間。授業をしにやってくるベルの姿を楽しみに、ロゼリアとの生活に耐えていて分かったことが二つある。それはロゼリアの記憶改ざん魔法が、実は人から与えられたものだということ。魔法を与えるという話自体、ロセウスは聞いたことはない。
しかしロゼリアが一日一通、誰かに手紙を送っていたことが判明した。ロゼリアに気づかれないように、夜中にこっそり手紙を開封してみれば、ロセウスを己の契約獣にすることができたことや、ノアの本来の契約術師は自身が契約術師であることを忘れてロゼリアが在籍していた魔術師専攻の三年生として授業を学んでいて、魔法が解ける様子は全くないことなどが書かれていた。どうやらロゼリアは十八歳ではなく、十六歳だったらしい。
手紙を開封したことがばれないよう隠蔽工作をしっかりと行い、ベルの授業があるときに、簡潔に内容を記した紙をベルのポケットへこっそり入れる。ベルはその紙の存在にすぐ気づき、小休憩のタイミングで内容を確認するために席を少し外していた。
何度もベルと、ロゼリアの前で接触をするのはばれてしまう恐れがあるので、アルブス伝いに授業後に作戦を決行すると情報を耳にした。
どのようにベルたちが動くのかはわからない。
でもベルの指示通り、流れに身を任せていれば大丈夫だろうと判断する。
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