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第一章
三十七話
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ロセウスがロゼリアの元へ行っている間、ベルたちはロセウスがいないことを不思議に思っていない、記憶改ざん魔法にかかっていて、気づいてすらいない、という体を装っていた。この作戦を開始した当初は、簡単なことだと軽く考えていた。けれど実際にロゼリアとロセウスが腕を組んで授業に現れたときは、腸が煮えくり返る思いをした。この気持ちの名前は嫉妬。ギルドに行った際の、アーテルに恋をしていたジェシカに対する気持ちと全く同じものだ。それほどベルはロセウスのことが好きになっていた。
これは作戦だから仕方がない。作戦を決行したのはベル自身だ。ロゼリアの傍にいるロセウスを責めるのは間違っている。そう分かってはいても、心はズキズキと痛んだ。なるべくロセウスたちを視界に入れないようにして、授業を進めていく。しかし全く関わり合わないことは不可能で。泣き出したくなるような気持ちを無視して、心を無にして授業に取り組んだ。
授業が終わって、いつもなら三人の召喚獣を連れて家へと帰るのに、傍にいるのはアーテルとアルブスの二人。いつもいるはずの場所にロセウスだけがいない。二人が悪いわけではないのに、寂しくて仕方がなかった。
そんなベルの気持ちを察してか、アーテルとアルブスが今まで以上にベルを甘やかしてきた。ロセウスが作戦中だということもあってか、『異界の湖』に行く前に、帰ってきたらロセウスとやっていたことを自分たちともするとベルに約束をさせていたのに、その気配は全くみられなかった。
代わりに毎晩、リビングの隣にあるベッドルームで一緒に眠った。軽いキス程度の触れ合いはあるが、それ以上は決して触れてこない。ベルに寂しい思いをさせないように、ただ一緒に眠ってくれた。
もちろんロセウスだけに苦労をさせるわけにはいかないので、ベルたちは授業のない日にルークからもらった情報を使って、イトナ・カインドについて調べていた。現在はロゼリアと入れ替わって、魔術師専攻の三年生として授業を学んでいるようだが、どうやら授業についていけず、落ちこぼれとクラスメイトに称されているようだ。本来の彼はノアという狼族の成体の契約獣がいる。落ちこぼれとは真反対の存在だったはずだ。
授業についていこうと頑張っているのに、成果はイマイチ。適正が契約術師なのだから、その結果は仕方がない。それなのに、記憶を改ざんされたイトナが、時には涙していることもあって、その姿を目にして胸が締め付けられた。
精神攻撃魔法というものは、簡単に解ける魔法の類ではない。輝人であるベルでも、そう簡単に解けるものではなかった。特にベルの場合、精神攻撃魔法にかかることがほぼないという前提がある。なぜゲーム中に精神攻撃魔法に詳しく調べなかったのだろうかと後悔した。
だから国王であるエドアルドの許可を得て、アーテルやアルブスにも手伝ってもらいながら王城にある蔵書を片っ端から調べることにした。エドアルドは理由も聞かず、すぐに蔵書の閲覧許可をくれた。これは王族よりも、輝人であるベルの方が位が上だからなのかもしれないが、それでもすぐに閲覧許可が下りたのは喜ばしいことだ。
王城なだけあって、蔵書の冊数は膨大だった。その中から引っかかるワードがある蔵書を全てアーテルとアルブスに持ってきてもらい、ひたすら調べた。
結果、長い時間がかかりはしたものの、ようやく精神攻撃魔法を解除する方法が見つかった。まさに灯台下暗しとはこのことだと、ベルは解除方法をみて口元に笑みを浮かべた。
解除方法が判明した次の日には、ロセウスから新たな情報も入手し、イトナやロセウスのことも考え、なるべく早い方がいいだろうと決断した。そこでベルは、アルブス伝いに授業後に作戦を決行するとロセウスに伝えた。
そして待ちに待った授業後。
ロセウスと恋人同士のように腕を組んで寮へ帰ろうとするロゼリアに声をかけた。
「ロゼリア、ちょっといいかな」
「どうしたんですか? ベル様」
「セ……ロセウスとロゼリアは、二人ともクラスの中でも特に優秀な契約獣と契約術師でしょう? だから今後の授業のことで手伝ってもらいたいことがあって」
思わず普段通りにセスと呼んでしまいそうになり、慌てて言い直す。幸いロゼリアは優秀という言葉が余程嬉しかったのか、ベルの失言に気づいてなかったようだ。
「わかりました。召喚術師のベル様の手伝いなら喜んでしますよ」
「ありがとう。じゃあこの教室でロセウスとちょっと待っていてもらってもいいかな? 教材を取りにいってくるから」
「はい、大丈夫です」
他の部屋でもいいが、教室の方が広いし、何かと都合がいい面がある。他の部屋では警戒される恐れがないとは言えないが、教室ならば誰が入ってくるかもわからない場所。だからロゼリアの警戒も、それほど大きくはならないはずだ。
しかし授業が終わったばかりの教室内には、まだ人がまばらにいる。できればロゼリア一人だけにしたいので、教材という名の人を連れてくることで時間を稼いだ。
これは作戦だから仕方がない。作戦を決行したのはベル自身だ。ロゼリアの傍にいるロセウスを責めるのは間違っている。そう分かってはいても、心はズキズキと痛んだ。なるべくロセウスたちを視界に入れないようにして、授業を進めていく。しかし全く関わり合わないことは不可能で。泣き出したくなるような気持ちを無視して、心を無にして授業に取り組んだ。
授業が終わって、いつもなら三人の召喚獣を連れて家へと帰るのに、傍にいるのはアーテルとアルブスの二人。いつもいるはずの場所にロセウスだけがいない。二人が悪いわけではないのに、寂しくて仕方がなかった。
そんなベルの気持ちを察してか、アーテルとアルブスが今まで以上にベルを甘やかしてきた。ロセウスが作戦中だということもあってか、『異界の湖』に行く前に、帰ってきたらロセウスとやっていたことを自分たちともするとベルに約束をさせていたのに、その気配は全くみられなかった。
代わりに毎晩、リビングの隣にあるベッドルームで一緒に眠った。軽いキス程度の触れ合いはあるが、それ以上は決して触れてこない。ベルに寂しい思いをさせないように、ただ一緒に眠ってくれた。
もちろんロセウスだけに苦労をさせるわけにはいかないので、ベルたちは授業のない日にルークからもらった情報を使って、イトナ・カインドについて調べていた。現在はロゼリアと入れ替わって、魔術師専攻の三年生として授業を学んでいるようだが、どうやら授業についていけず、落ちこぼれとクラスメイトに称されているようだ。本来の彼はノアという狼族の成体の契約獣がいる。落ちこぼれとは真反対の存在だったはずだ。
授業についていこうと頑張っているのに、成果はイマイチ。適正が契約術師なのだから、その結果は仕方がない。それなのに、記憶を改ざんされたイトナが、時には涙していることもあって、その姿を目にして胸が締め付けられた。
精神攻撃魔法というものは、簡単に解ける魔法の類ではない。輝人であるベルでも、そう簡単に解けるものではなかった。特にベルの場合、精神攻撃魔法にかかることがほぼないという前提がある。なぜゲーム中に精神攻撃魔法に詳しく調べなかったのだろうかと後悔した。
だから国王であるエドアルドの許可を得て、アーテルやアルブスにも手伝ってもらいながら王城にある蔵書を片っ端から調べることにした。エドアルドは理由も聞かず、すぐに蔵書の閲覧許可をくれた。これは王族よりも、輝人であるベルの方が位が上だからなのかもしれないが、それでもすぐに閲覧許可が下りたのは喜ばしいことだ。
王城なだけあって、蔵書の冊数は膨大だった。その中から引っかかるワードがある蔵書を全てアーテルとアルブスに持ってきてもらい、ひたすら調べた。
結果、長い時間がかかりはしたものの、ようやく精神攻撃魔法を解除する方法が見つかった。まさに灯台下暗しとはこのことだと、ベルは解除方法をみて口元に笑みを浮かべた。
解除方法が判明した次の日には、ロセウスから新たな情報も入手し、イトナやロセウスのことも考え、なるべく早い方がいいだろうと決断した。そこでベルは、アルブス伝いに授業後に作戦を決行するとロセウスに伝えた。
そして待ちに待った授業後。
ロセウスと恋人同士のように腕を組んで寮へ帰ろうとするロゼリアに声をかけた。
「ロゼリア、ちょっといいかな」
「どうしたんですか? ベル様」
「セ……ロセウスとロゼリアは、二人ともクラスの中でも特に優秀な契約獣と契約術師でしょう? だから今後の授業のことで手伝ってもらいたいことがあって」
思わず普段通りにセスと呼んでしまいそうになり、慌てて言い直す。幸いロゼリアは優秀という言葉が余程嬉しかったのか、ベルの失言に気づいてなかったようだ。
「わかりました。召喚術師のベル様の手伝いなら喜んでしますよ」
「ありがとう。じゃあこの教室でロセウスとちょっと待っていてもらってもいいかな? 教材を取りにいってくるから」
「はい、大丈夫です」
他の部屋でもいいが、教室の方が広いし、何かと都合がいい面がある。他の部屋では警戒される恐れがないとは言えないが、教室ならば誰が入ってくるかもわからない場所。だからロゼリアの警戒も、それほど大きくはならないはずだ。
しかし授業が終わったばかりの教室内には、まだ人がまばらにいる。できればロゼリア一人だけにしたいので、教材という名の人を連れてくることで時間を稼いだ。
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