召喚術師はじめました

鈴野あや(鈴野葉桜)

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第二章

四十四話

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 戦闘開始の合図は特にない。本番にだってないのだから、この方がどちらかといえばちょうどよかった。

 互いの間には適度な距離があり、この距離を詰めた瞬間、戦闘開始となる。だから最初の一歩は慎重にいかないといけない。そんな中、最初に動いたのはコーディリアだった。

 召喚獣は魔術師と違って魔法を使う。だから呪文等の動作は必要ない。そのため予備動作はなく、その魔法が放たれた瞬間、もしくは放たれる前に予測をして動いていかなければならない。

 コーディリアが仕掛けたのは、眩しくて目が開けられないほどの光量。つまりは目くらましだった。コーディリアの得意とする光魔法は、かなり万能な属性の魔法だ。光の刃等攻撃としても使えるし、こうして目くらましにも使える。そして回復もできるのだから、味方であれば頼もしいいが、敵であれば厄介な相手となる。

 視界をベルたちから奪うという所業を軽くやってのけるのだから、直接攻撃しか手札を持たないベルたちにとって、相性がいい相手ではない。

「ま、だからって負ける気はないけど!! セス、向こうの声が私たちに聞こえなくなって、私たちの声が向こうに聞こえなくなるような結界を」

 トトーの攻撃は歌だから、守るべき場所は耳。結界で互いの声を聞こえなくしてしまえば、トトーの攻撃はほぼ無力化できる。

「任せておくれ」

 ベルの役割は司令塔。戦う力は持ち合わせていないが、その分頭に知識を詰め込んだ。だからどんな相手にだって負けるつもりはない。

 にんまりと笑みを作り、次いでアーテルとアルブスに指示を出す。

「アーテ、地面を水浸しに! アルはその水を風で凍らせて!」

「あいよっ」

「りょーかい!」

 ベルと違ってラヴィックは剣の練習をしている。トトーの攻撃を無力化できたとしても、まだ召喚術師であるラヴィックを足止めしなければならない。そして何度もラヴィックと手合わせしてきたというエリオットも当然、剣の心得は幾分かあるはずだ。となれば二人は同時、もしくは個々にベルという攻撃手段を持ち合わせていないベルを狙ってくるだろう。

(でも、私は弱点になるつもりはないんだよねぇ)

 ラヴィックやエリオットのように召喚術師と召喚獣が一対一ならば、第二の攻撃手段として自身が繰り出すのもありかもしれない。だがベルたちは一対三。各々が勝手に動くよりも中心となる人物の元で動く方が、よほど効率よく攻撃することができる。それがベル自身、ゲームだった頃に色々考えた末に落ち着いた結果だった。

 女性の腕力ではどうしても男性には勝てないし、剣術を身につけるよりも、様々な策を練った方が割に合っていると気づいたのだ。

 だからベルの体には戦闘開始直後ロセウスによって、物理と魔法を防ぐ強力な結界がかけられていた。これで相手からの攻撃に物怖じすることもなく、面と向かって攻撃の指揮を執ることができる。ゲーム時代からずっと行ってきた流れだ。

「さて……」

 ある程度の光が収まったところで、ベルの作戦が成功していることを確認する。

「あ、ちゃんと成功したようでなにより」

 ラヴィックたちが動くよりも早くラヴィックたちの足を地面ごと凍らせた。よって四人の足は見事に地面へと縫い付けられていた。なにかラヴィックが文句を言っているようだが、結界によって声が聞こえない。

「ま、どうせ『ずるいぞ!!』とか言ってるんだろうけど……」

 態度で想像できてしまう辺りが、ラヴィックらしいとも言える。

 けれどここで悠長にしてはいられない。相手はベルと同じ召喚術師と召喚獣なのだから。今回はただ、光の魔法による目くらましに続く先手攻撃を防いだだけに過ぎない。

 現にトトーが人間の姿から一旦歌兎の姿へと戻り、氷の足止めからいち早く脱出していた。コーディリアも光の魔法で己とエリオット、そしてラヴィックの氷を割ってすぐにこちらへと駆けだしていた。エリオットとラヴィックの手には、コーディリアが作ったのであろう、光の剣が握られていた。コーディリア本人は二人をサポートするように、その場から魔法を繰り出そうとしている。魔力が集まる元を辿って空を仰げば、そこには数百本もの光の矢がベルたちに降りかかろうとしていた。

「だよね……でも、そうこなくっちゃ!!」

 氷の足止めからすぐに抜け出すのは、もちろん想定内だ。そして次の攻撃にすぐに移ることも。

「アル、空から光の矢が降ってくるから、風で全て吹き飛ばして。セスとアーテは、エリオットとラヴィの相手を」

 冷静に判断し、適材適所を見つけていく。

 トトーに関しては、ロセウスの結界がある限り何も出来ないと思っていい。しかし何かの歌を歌っているのがどうしても気になる。ある程度意識を向けて気にしていた方が良さそうだ。

 この世界に来てからの戦闘は、クライシスとしかしていない。

 こうした命を賭けない、純粋な戦闘訓練は初めてだ。

 だからなのか、頭はとても冷静に回転をしているのに。胸は高揚感で高鳴っていた。
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