サキュバスちゃんは、今度こそ人生を謳歌したい

鈴野あや(鈴野葉桜)

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第二十話

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「そ、そんな、こと……」

 声を出すのもやっとなのだろう。顔色は青から白へと変わり、今にも気を失って倒れてしまいそうだ。

「嘘ではありません。私の七貴族【傲慢】の名に誓って証言しましょう」

 上級魔族よりも上に立場であり、魔王に次ぐ地位の持ち主。それが七貴族である。その名の通り、七貴族は七人の魔族しかなることができない地位。

 その名をもらうということは、よほどのことを成し遂げ貢献した、または強大な力を有している者ということになる。その事実に思い至ったのだろう。

「七貴族になったのは私が眠りにつく一週間前だし、知る魔族はあんまりいないけどね。でも約三週間後に執り行われる私とディティラスの結婚式では、きちんと大々的に公表されるらしいけど」

 そうリディアリアが補足を入れる。

「別に私の肩書きを知ったからといって、スノウマリーが態度を変える必要はないよ。その目、その耳で私のことを判断してくれればいい。ああ、でもディティラスのことは渡すつもりはないけど」

 茶目っ気っぽくディティラスのことを混ぜてみるが、スノウマリーの意識はリディアリアが七貴族であったことに向いているようで、ディティラスのことについては触れてくれなかった。

「……わかりましたわ。ですが、さすがに七貴族【色欲】であられる方をサキュバス呼ばわりしていたのは謝りますわ」

「そこかい」

 魔王の妃に対しては随分ないいようだった気がするが、スノウマリーが重要視していたのは魔王の妃以外に対する上下関係のようだ。思わず突っ込みを入れてしまったリディアリアは決して悪くないだろう。

「まあ謝罪は受け取っておくよ。それに判断材料になる魔物がちょうどいることだし」

 今回リディアリアたちがここにやってきた理由がそれだ。スノウマリーと主犯であるアストのいざこざはたまたまだ発見したまでなのである。

「だからさ、三つ目の条件、魔物が近くにいるのに、なぜ魔物は襲ってこないのか。それを教えてほしい」

 真っすぐスノウマリーの赤の瞳を見据える。スノウマリーは言いにくそうに口を何度も開閉していたが、決心をしたのかようやく声を出した。

「今回の魔物は私の妹、スノウリリィです。私まさか魔核を取ったら魔物になるだなんて知らなくて、それで……」

「言い訳はいい。スノウマリーが知らないのはまあ当然といえば当然だから仕方ないからね。魔物が実は魔族だった、その真実が話されるのは魔族が成人を迎えてからだから。多分だけど、スノウマリーはつい最近成人を迎えたのでしょう?」

 スノウマリーはコクリと頷いた。

 魔族の親は成人を迎える年にその真実を子へと伝える。だから成人をしたとしても、まだ知らない二十歳の魔族は少数であるものの、存在する。

「粗方の事情は木々に隠れながら聞いたから、そこの事情はまたあとで詳しく説明して。それよりも魔物のことを教えてほしい」

 普通ならば、魔物は魔核に惹かれてやってくる。そのため、魔核を持つリディアリアたちが到着した時点でこちらへ向かってきてもおかしくはない。なのにその魔物は襲ってくるどころか、向かってもこない。

「スノウリリィに人殺しをさせるわけにはいきませんの。だから私の魔法で身動きをとれないようにしました。とはいっても、何度か失敗してしまいましたから、罪のない動物が何匹も殺されてしまいましたが……」

 スノウマリーは悲しそうに目を伏せた。よくよくスノウマリーの体を見れば、細かな傷がいくつもついている。妹のために頑張った証拠だ。

 報告書に上がってくるタイミングではまだ動ける状態だったが、今はスノウマリーの魔法のおかげで動けない状態。その上、報告書によるといまだ人族、魔族ともに被害者はゼロだという。これは奇跡に近かった。

「案内をお願いできますか?」

「わかりました。ですが、どうかお願いします。魔物となった妹はスノウの種族魔法《アイス》で全身氷漬けにしております。案内はしますが、どうか妹の命だけで助けてはくださらないでしょうか? 妹が元に戻るまで、私が責任を持って魔法をかけ続けますのでどうかっ……」

 案内を頼むライトニングに、スノウマリーが必死に頭を下げていた。

 一人の妹のために魔法を駆使して氷漬けにし、アストから魔核を取り返そうとした。その姿は姉の鏡といってもいい。

 けれど魔物は討伐対象だ。それはスノウマリーもよく知っているはず。

「スノウマリー、普通なら魔物は討伐対象。それに例外はない」

「知っているわ。でも……っ」

「話の続きを聞いて。いい、スノウマリー。今回私は七貴族の力で討伐してほしいと報告書に上がってきた魔物を討伐しにきた。七貴族【色欲】としてね」

「…………」

「というのは、建前。本当はある仮説を確かめにきたの」

「……どういうことですの?」

 瞳から零れそうな涙を、手の甲で拭いながらリディアリアに尋ねてきた。

 リディアリアは先程上着のポケットに入れた魔核を指さす。

「ここに、スノウリリィの魔核がある。だからこれをスノウリリィの元へ戻そうと思う。返したところで、魔物になった魔族が元の姿に戻れる保証はないし、確率も低い。だけどね、やってみる価値はあると思う。だから私たちはここに来たんだよ。ライトニングを連れてきたのも、その確率を一パーセントでも上げるため。実際に魔物一体の討伐くらいなら、七貴族が二人も必要ないしね」

 妹が助かる可能性がある。それがスノウマリーの心を幾分か軽くしてくれたのだろう。肩の荷が下りたのか、顔をくしゃくしゃにして泣き始めた。

「もちろん失敗する確率もある。それをわかったつもりで、妹の元へ案内してほしい」

 真摯な気持ちでスノウマリーに喋りかける。

「わかって、ますわ」

 スノウマリーは、涙をたくさん流したせいで喉の嗚咽が止まらないのか、突っかえながらも、了承してみせた。
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