12 / 581
事例1 九十九人殺しと孤高の殺人蜂【プロローグ】
12
しおりを挟む
倉科は検閲済みの茶封筒を、鉄格子の隙間から投げ入れた。司法取引と言っても、黙殺されているだけで明確な取り決めはない。それに、彼が興味を持ってくれれば、面倒な交換条件を提示する必要もなかった。とにかく、彼の反応を見るほうが先決であろう。しかし、拳銃だけは下ろさない。鉄格子の向こう側にいるとしても、拳銃だけは絶対に下ろさない。これは物理的な威嚇というよりも、倉科の精神安定剤のようなものだった。
「最初の事件は三ヶ月ほど前に起きた。でもって、今月に入って四人目の犠牲者が出ている。捜査本部を立ち上げて捜査にあたっているが、今のところ有力な手掛かりはなしだ」
彼は面倒くさそうに立ち上がると、足枷を邪魔そうにしながら茶封筒を拾い上げ、それを片手に気だるげな表情でベッドの上へと戻った。
「被害者は全員未成年の女性――。決まって若い女が狙われている。被害者の友好関係などを洗ってはみたが、共通点はそれくらいで、全くの赤の他人同士だった。大量殺人をやらかした殺人鬼様だ。これくらいの事件、朝飯前だろう?」
倉科の言葉を丸無視して、彼は茶封筒の中から資料を取り出すと、恐ろしいほどの速さで目を通す。ただペラペラと資料をめくっているだけなのでは――と、何度も疑ったこともあるが、これで彼の頭の中には事件の概要が流れ込んでくるようで、ただ一度目にしただけで、事件の全てを把握してしまう。馬鹿と天才は紙一重というが、彼の場合、狂人と天才は紙一重と例えるべきだろう。
「くくっ……くくくくくくっ。俺が知らない内にシャバも物騒になったなぁ」
「お前が言うな、お前が。むしろ、お前がいなくなって平和になったくらいだ」
資料に目を通しながら肩を震わせる彼の姿に、倉科は大きな溜め息を漏らした。この光景を見ているだけでも、正直なところ気味が悪くて仕方がない。
「――女だ。一晩だけ好き放題できる女を用意しろ。そうすりゃ、この事件のこと……教えてやってもいいぜぇ」
司法取引のことを批判しておきながら、しっかりと自分の要求を提示する彼に、倉科は反吐が出る思いだった。これまで多くの人間を殺害してきた殺人鬼に、誰が女などあてがうものか。
「駄目だ――。だってお前、散々犯した後に殺すんだろ? そんな要求は認められない」
倉科が語気を強めると、彼は特に気を悪くするでもなく、実に不気味な笑みを浮かべる。
「別にいいだろうが……。たった一人の人間が犠牲になることで、これから増えるであろう犠牲者をなくすことができるんだ。安いもんじゃねぇか」
「最初の事件は三ヶ月ほど前に起きた。でもって、今月に入って四人目の犠牲者が出ている。捜査本部を立ち上げて捜査にあたっているが、今のところ有力な手掛かりはなしだ」
彼は面倒くさそうに立ち上がると、足枷を邪魔そうにしながら茶封筒を拾い上げ、それを片手に気だるげな表情でベッドの上へと戻った。
「被害者は全員未成年の女性――。決まって若い女が狙われている。被害者の友好関係などを洗ってはみたが、共通点はそれくらいで、全くの赤の他人同士だった。大量殺人をやらかした殺人鬼様だ。これくらいの事件、朝飯前だろう?」
倉科の言葉を丸無視して、彼は茶封筒の中から資料を取り出すと、恐ろしいほどの速さで目を通す。ただペラペラと資料をめくっているだけなのでは――と、何度も疑ったこともあるが、これで彼の頭の中には事件の概要が流れ込んでくるようで、ただ一度目にしただけで、事件の全てを把握してしまう。馬鹿と天才は紙一重というが、彼の場合、狂人と天才は紙一重と例えるべきだろう。
「くくっ……くくくくくくっ。俺が知らない内にシャバも物騒になったなぁ」
「お前が言うな、お前が。むしろ、お前がいなくなって平和になったくらいだ」
資料に目を通しながら肩を震わせる彼の姿に、倉科は大きな溜め息を漏らした。この光景を見ているだけでも、正直なところ気味が悪くて仕方がない。
「――女だ。一晩だけ好き放題できる女を用意しろ。そうすりゃ、この事件のこと……教えてやってもいいぜぇ」
司法取引のことを批判しておきながら、しっかりと自分の要求を提示する彼に、倉科は反吐が出る思いだった。これまで多くの人間を殺害してきた殺人鬼に、誰が女などあてがうものか。
「駄目だ――。だってお前、散々犯した後に殺すんだろ? そんな要求は認められない」
倉科が語気を強めると、彼は特に気を悪くするでもなく、実に不気味な笑みを浮かべる。
「別にいいだろうが……。たった一人の人間が犠牲になることで、これから増えるであろう犠牲者をなくすことができるんだ。安いもんじゃねぇか」
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる