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事例1 九十九人殺しと孤高の殺人蜂【事件篇】

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「まず、プロファイリングはあくまでもこれまでの事件データを集めて作り上げられた統計学にすぎない。つまり、プロファイリングは補足的な情報であって、捜査の補助的な役割しか果たさない。この辺りは、さすがにお馬鹿ちゃんでも分かるよなぁ?」

 ベッドに腰をかけたまま、倉科が事前に渡した資料をめくる坂田。完全に馬鹿にされてしまっている。まぁ、実際にプロファイリングにはうといし、反論のしようがないのだが。

「しかし、その統計学だって馬鹿にはできない。犯人をぴたりと言い当てることはできないし、当然ながらプロファイリングが外れることなんてしょっちゅうある。ただ、犯人像をある程度絞り込むことによって、捜査の効率性を上げることは可能だ。それを踏まえた上で、今回の事件の犯人像を読み解いてみる」

 まるで何かに取り憑かれたかのごとく、淡々と話を進める坂田。普段は狂人でしかないが、一度スイッチが入ると、こうなるのだ。ついさっきまで、焼きプリンをむさぼっていたとは思えない。

「おい女――。お前のプロファイリングだと、犯人は未成年から二十代後半までで、学生の可能性が高いらしいな? その論拠はどこにある?」

 縁は真剣な面持ちで「私の名前は女ではなく、山本です」と、鋭い口調を坂田に浴びせた。そんな縁を見て、倉科はどこか坂田と被るところがあることに気付いた。縁も坂田と同じく、プロファイリングという土俵に上がってから、水を得た魚のように活き活きとしているのだ。さっきまでは倉科の背中に隠れていたというのに、今は堂々と坂田と対話をしている。そんな縁は、髪の毛を指で触りながら理論を展開させる。

「統計学的に見ると、通り魔事件を起こすのは圧倒的に男性が多く、そのほとんどが二十代です。ただ、今回の犯人は運転免許を持っていない可能性が高く、また学生である可能性も否めないため、未成年まで犯人像の幅を広げて考えました」

「では、犯人が学生である可能性が高いという根拠はどこに?」

 話を聞きながら次の展開を読んでいるのか、矢継やつぎ早に縁へと質問を投げかける坂田。しかし、縁も縁で口ごもったりはせず、素早く会話を投げ返す。言葉のキャッチボールではなく、ドッヂボール……互いに互いの意見をぶつけ合うかのように見えた。

「その根拠は犯人が残している唯一の遺留品――。被害者の口の中から見つかったポエムにあります」
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