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事例1 九十九人殺しと孤高の殺人蜂【事件篇】

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 倉科はすっかりと二人の会話に聞き入っていた。どこか自分の次元とは別の次元で行われているキャッチボールだ。坂田ならば納得できるのだが、どうして縁がここまでプロファイリング能力に長けているのだろうか。

「ふーん、ポエムねぇ――。これのどこに根拠があるんだか。俺にも分かるように教えて欲しいもんだ」

 恐らく坂田は答えを知っている。知っている上で縁を試すような真似をして楽しんでいるのだ。真剣な表情に見え隠れしている歪んだ笑みが、それを象徴していた。

「ポエムは一人目の被害者から現在の五人目の被害者まで共通して残されている遺留品。これらを読み解くと、犯人が学生である可能性が高いことも自ずと分かってきます」

「――ん? ちょっと待てよ。これまでの被害者は四人じゃねぇのか?」

 縁の言葉に被せるかのごとく、間髪入れずに問う坂田。縁がこくりと頷くと、明らかな敵意を倉科のほうに向けてきた。思わず引き金を引いてしまいそうになるほどの威圧感だ。

「悪いな、少しごたごたしていて報告が遅れた」

 坂田に手渡してあるのは、四人目の犠牲者が出た段階までの資料である。当然ながら五人目の事件のことは記載されていない。外界から遮断され、もちろんテレビを観ることなどない坂田にとって、事件の情報源は0.5係の倉科しかいない。本来ならば事件が起きた時点で追加の資料を作成し、坂田にも報告しなければならないのだが、尾崎と縁を0.5係に――なんて話が舞い込んでくれたおかげで、すっかり後回しにしていたのである。0.5係としては失格といえよう。

「――まぁいい。こんなに面白ぇ女を連れて来たんだからよ。特別にそれで帳消しにしてやる。五人目の犠牲者の件はお前達の口から聞けばいいだけの話だからな」

 いつもならばヘソを曲げてもおかしくはない事態であるが、どうやら坂田は随分とご機嫌らしい。恐らくではあるが縁のことを気に入ってしまったようだ。決定事項を覆すために坂田と接見をさせたというのに、これでは逆効果である。

「で、そのポエムのどこに、犯人が学生であるという根拠があるんだ?」

 気を取り直すかのように話を元に戻す坂田。縁の話を聞く時は、本当に楽しそうな表情を見せるから気味が悪い。

「一人目の犠牲者の口の中に残されていたポエムの題名は【ずっと見守っているよ】というものでした。そして、本文はこうです」

 続いて縁は、一人目の犠牲者の口の中に残されていたポエムを暗唱した。丸暗記をしているかのごとく、すらすらと縁の口からポエムがつむぎ出される。
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