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事例1 九十九人殺しと孤高の殺人蜂【事件篇】

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「恐らく犯人は未成年。もしくは、大きく見積もっても二十代後半くらいまでの男性。運転免許を持っていない可能性が高く、家族と同居しているものだと思われます。住居は第一の事件が起きた現場の近辺である可能性が非常に高い。無秩序型と秩序型で分類するとすれば、間違いなく秩序型。犯行の手口と被害者の口の中に共通してポエムが残されていることから、同一犯の犯行であることも間違いありません。また未成年であると同時に学生である可能性も高いです」

 思わず縁の顔を二度見してしまった。おぼろげながら倉科の頭の中にあるプロファイルよりも、遥かに正確で補足事項が多いような気がする。元々、あまりプロファイリングには頼らないがゆえに、どこまで具体的に縁がプロファイリングをしたのかは比較できないが――。なんにせよ、すらすらと意見を述べる縁に驚いた。

「くくくくくっ。警察にも面白い奴がいるもんだな」

 縁のプロファイリングを聞いた坂田は、実に楽しそうに顔を歪めた。そんなことはお構いなしに、まだまだ言い足りないと言わんばかりに縁は続ける。

「犯人の行動原力となっているのは、恐らく恋愛感情です。ただし、ポエムの内容が一方通行の自己中心的なものであることから、実際に女性との交際経験はないと考えられる。もちろん、結婚はしておらず独身。コミニュケーション能力がやや欠けており、親の愛情が不足した状態、もしくは過干渉な環境で育ったものだと思われる」

 今度は倉科のほうが混乱する番だった。事件現場が苦手で使い物にはならないと思っていた縁が、坂田と対等に向き合っている。しかも専門家顔負けの見立てをしているのだ。キャリアとはいえ新人がここまでの見立てをするなど、普通に考えたらあり得ない。

 縁が口を閉じると、坂田は嬉しそうにまばらな拍手をしてみせた。いつも倉科を馬鹿にしてくる坂田が、何やら縁に感心しているようにさえ見える。

「凄ぇじゃねぇか。警察の馬鹿が出した犯人像より正確、かつ俺の思い描いた人物像に近い。ちょっとだけ見直したぜぇ――。警察にもまともな奴がいるじゃねぇか」

 倉科のほうを一瞥いちべつしてから笑みを浮かべる坂田。まるで縁と比べられたようで面白くなかった。

「まぁ、そこのお馬鹿ちゃん達は訳が分からないって顔をしているし、ひとつずつ改めて犯人の人物像を考えてみるか。くくくくくくっ、お馬鹿ちゃん達にも分かるようになぁ」

 坂田の言うお馬鹿ちゃんとは、倉科と尾崎のことを指すのであろう。どうやら、尾崎も倉科と同じポジションへと落ち着いてしまったようだ。
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