上 下
296 / 581
事例3 正面突破の解放軍【事件篇】

30

しおりを挟む
「それをこちらに――」

 少しばかり苛立った様子のライオンであったが、少し間を置いて気を取り直したのか、楠木が持っている鍵らしきものに向かって手を差し出した。認可証による自動読み込み装置などを置いてあるくせに、最後の要となる独房の鉄格子の鍵がアナログとは、これいかに。やっぱり、アンダープリズンは不可思議なことが多い。

 ふと、楠木の視線が自分に向けられていることに気付き、何気なしに視線を合わせると、縁にだけ分かるように楠木がウインクをしてみせた。屈強で図体がでかいだけに、ウインクひとつでも気味の悪いものがある――と、心の中で悪態をつくのはさておき、どうやら楠木には何かしらの考えがあるらしい。

「悪いが、鉄格子の鍵は開けかたが特殊なんだ。ごく一握りの人間にしか知らない開けかたがある。くどいようだが、あの坂田を閉じ込めている鉄格子の鍵だからな」

 それが本当なのか嘘なのかは別にして、上手いことを言ったものだと感心した。解放軍の目的は坂田の解放であり、楠木と縁は坂田を解放するための要員として独房に向かっている。縁の認可証がなければ、独房へと続く何枚もの鉄格子を通過することができない。そして、鉄格子の鍵がなければ、坂田を解放することは不可能だ。

 縁が認可証、楠木が鉄格子の鍵を持っているからこそ、坂田を独房から出すことができる。だが、ライオンにはこの方程式を破ることができる。この場で縁と楠木を射殺し、認可証と鍵を奪ってしまえばいい。むろん、そのような暴挙に出る可能性は低いだろうが、相手は得体の知れぬ解放軍の人間。何をやらかすか分からないからこそ、鉄格子の鍵の開けかたが特殊だとして、事前にライオンが暴挙に出ることを封じたのかもしれない。

「――ならば仕方あるまい。独房へと向かうぞ」

 ライオンは、この場で楠木から鍵を取り上げることをあっさりと諦めると、銃口を廊下の奥に沿ってなぞり、縁と楠木を先に行かせようと促す。同行したのがライオン一人だけであるため、迂闊うかつに背後を見せるような真似はしないだろう。思っていた以上に隙が見当たらない。

 相手がアサルトライフルを持っている以上、下手に抵抗できない縁達は、指示に従ってライオンの前を歩き、今度は独房のほうへと向かい始めた。

 しかし、少し歩いたところで楠木が立ち止まり、ライオンのほうへと振り返った。つられて立ち止まり、同じくライオンのほうに振り返る縁。そこで思わず声を上げそうになったのを、ぐっと飲み込んだ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

突然訪れたのは『好き』とか言ってないでしょ

BL / 完結 24h.ポイント:355pt お気に入り:24

天才は無愛想ながらも優しい

ミステリー / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:0

獣人の恋人とイチャついた翌朝の話

BL / 完結 24h.ポイント:1,164pt お気に入り:32

俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

BL / 連載中 24h.ポイント:6,526pt お気に入り:1,660

悪徳令嬢はヤンデレ騎士と復讐する

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:1,789pt お気に入り:259

仮想空間に探偵は何人必要か?

ミステリー / 連載中 24h.ポイント:127pt お気に入り:5

最愛の人がいるのでさようなら

恋愛 / 完結 24h.ポイント:65,604pt お気に入り:645

処理中です...