縁仁【ENZIN】 捜査一課 対凶悪異常犯罪交渉係

鬼霧宗作

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事例4 人殺しの人殺し【事件篇①】

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「ちなみにだが、この看護師二人が殺害された理由も、警備員と同じなんだよな?」

 倉科は推測だけで物事を言っているのであるが、ことごとくそれらが当たっているのだろう。部下は戸惑ったかのように頷くばかりだ。倉科自身も、やけに冴えている自分に少し驚いていた。

「その通りだと思われます。恐らくは、目撃されたから、もしくは目撃される恐れがあったからこそ、殺害したものだと思われます」

 この事件の犯人は、病院内に侵入するために警備員を殺害し、そして精神病棟に向かうために看護師を殺害したのだと思われる。すなわち、無差別に人を殺して回っているわけではなく、目的の相手を殺害するために、邪魔な人間を排除したという印象が強い。ざっと話を聞いている段階でも、犯人の行動には整合性と合理性が感じられた。ただ、そこに違和感のようなものが無いわけでもないのだが。

「犯人の目的は、ここに入院している患者だった――ってことか」

 倉科はぽつりと独り言をつぶやいたつもりだったのであるが、一緒にいる部下からすれば、自分に投げかけられた問いかけであると解釈して当然。手帳のページをめくりながら相槌あいづちを打つ。

「えぇ、これも監視カメラで確認できていることですが、犯人と思われる人物は警備員を殺害した後、まっすぐ階段で精神科の入っている階層に向かっています。そしてナースステーションにいた看護師二名を殺害。その後、ある病室へと侵入しています。当然ですが、病室に監視カメラは設置されていません。ただ、しばらくした後、病室から出てくる犯人の姿は確認できています。そのまま犯人はエレベーターに乗り込み、警備員室の前を通って外に出ました。監視カメラの情報からも、精神病棟に入院していた患者の殺害が目的だったことは明白でしょう」

 監視カメラの映像は後で確認するとして、犯人の目的は精神病棟に入院していた患者で間違いないようだ。そして、事前に仕入れた情報が間違っていないのであれば、殺害された入院患者というのは、例の殺人蜂だということになる。

「そうか――。なら、犯人の目的だったであろう入院患者について教えてくれ」

 もはや分かりきっていた。まだ確定ではないものの、倉科の第六感が警鐘を鳴らしていた。今回の事件で犯人の標的となったのは、あの世間を騒がせた連続殺人鬼――殺人蜂であると。部下が少し躊躇ためらったように見えたのは、きっと気のせいではないだろう。

「ここに入院していた患者で、犯人に殺害されたのは岡田克也おかだかつや、19歳。世間を震え上がらせ、逮捕されてからは精神的な不調と身体的な負傷のせいで入院していた――殺人蜂本人です」
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