ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作

文字の大きさ
279 / 391
ケース5 誕生秘話は惨劇へ【出題編】

56

しおりを挟む
 朝食を終え、冥がテーブルの上を片付ける。鯖洲が煙草を吸いに出るというのでご一緒することにした。今や分煙は当たり前の世の中であり、この屋敷の中でも吸っていい場所と悪い場所が分けられているに違いない。右も左も分からない斑目からすれば、慣れているであろう鯖洲について行くのは当然だった。エントランスに出るなり煙草をくわえ、しかし斑目の目があったからなのか、慌ててポケットに煙草を突っ込んだ鯖洲。よもや、適当な場所で吸おうとしていたのではないか――と勘繰るのはやめておこう。

 エントランスから裏口のほうに抜けると、当然ながらそこは外だ。しかしながら、景観にそぐわぬ透明なブースがあった。煙草を吸う人間は外に追いやられ、ホタル族などと呼ばれた時代があったのだが、こちらのホタル族は随分と豪華な設備が整っているようだ。少なくとも雨風はしのげるし、排煙設備まである。

「それにしても、本当にはるばるとこんなところまで――よく来たもんだな」

 煙草に火を点けるや否や、美味そうに煙を吐き出す鯖洲。同じように、食後の一服をやると、斑目は頷いた。

「まぁ、彼とは随分と付き合いも長いですから。こんな時くらい駆けつけなければね――」

 今回の事件については、誰よりも千早が心配していた。もちろん、斑目は自分の意志でこちらに向かったわけであるが、実のところ千早にお願いされた側面もあった。彼女なりに今回の事件は、何か大きな陰謀があるような気がするらしい。普段、あまり根拠のないことは言わない彼女が、そんなことを言い出したのだ。斑目の刑事としての勘も、珍しくこの時は働いていた。

「なんか良く分からねぇけどよ、あいつが周囲に可愛がられてんのは、なんとなく分かるな。なんだかんだ、あいつが来る前は女ばっかの職場だったからな。俺からしても弟分みたいなもんだ」

 鯖洲も鯖洲で、一里之とはうまくやっているようだ。この、自然と周囲のおじさん達を巻き込んでしまうのは、彼の特殊な才能のひとつなのかもしれない。

「弟分か――」

 斑目が呟いたと同時に、ブースの中に人が入ってきた。いかにも執事――といった格好をしている。もちろん、この場で会う人はほとんどが初対面である。どう声をかけていいものなのかと考えあぐねていると、鯖洲が口を開いた。

「おい、さっさと車を表に回したほうがいいんじゃねぇか? こんなところで煙草を吸ってる暇があったらよ」

 喧嘩腰の言葉であるが、しかし男は無視して煙草に火を点ける。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

その人事には理由がある

凪子
ミステリー
門倉(かどくら)千春(ちはる)は、この春大学を卒業したばかりの社会人一年生。新卒で入社した会社はインテリアを専門に扱う商社で、研修を終えて配属されたのは人事課だった。 そこには社長の私生児、日野(ひの)多々良(たたら)が所属していた。 社長の息子という気楽な立場のせいか、仕事をさぼりがちな多々良のお守りにうんざりする千春。 そんなある日、人事課長の朝木静から特命が与えられる。 その任務とは、『先輩女性社員にセクハラを受けたという男性社員に関する事実調査』で……!? しっかり女子×お気楽男子の織りなす、人事系ミステリー!

死者からのロミオメール

青の雀
ミステリー
公爵令嬢ロアンヌには、昔から将来を言い交した幼馴染の婚約者ロバートがいたが、半年前に事故でなくなってしまった。悲しみに暮れるロアンヌを慰め、励ましたのが、同い年で学園の同級生でもある王太子殿下のリチャード 彼にも幼馴染の婚約者クリスティーヌがいるにも関わらず、何かとロアンヌの世話を焼きたがる困りもの クリスティーヌは、ロアンヌとリチャードの仲を誤解し、やがて軋轢が生じる ロアンヌを貶めるような発言や行動を繰り返し、次第にリチャードの心は離れていく クリスティーヌが嫉妬に狂えば、狂うほど、今までクリスティーヌに向けてきた感情をロアンヌに注いでしまう結果となる ロアンヌは、そんな二人の様子に心を痛めていると、なぜか死んだはずの婚約者からロミオメールが届きだす さらに玉の輿を狙う男爵家の庶子が転校してくるなど、波乱の学園生活が幕開けする タイトルはすぐ思い浮かんだけど、書けるかどうか不安でしかない ミステリーぽいタイトルだけど、自信がないので、恋愛で書きます

剣客逓信 ―明治剣戟郵便録―

三條すずしろ
歴史・時代
【第9回歴史・時代小説大賞:痛快! エンタメ剣客賞受賞】 明治6年、警察より早くピストルを装備したのは郵便配達員だった――。 維新の動乱で届くことのなかった手紙や小包。そんな残された思いを配達する「御留郵便御用」の若者と老剣士が、時に不穏な明治の初めをひた走る。 密書や金品を狙う賊を退け大切なものを届ける特命郵便配達人、通称「剣客逓信(けんかくていしん)」。 武装する必要があるほど危険にさらされた初期の郵便時代、二人はやがてさらに大きな動乱に巻き込まれ――。 ※エブリスタでも連載中

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳 様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。 子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開? 第二巻は、ホラー風味です。 【ご注意ください】 ※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます ※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります ※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます 第二巻「夏は、夜」の改定版が完結いたしました。 この後、第三巻へ続くかはわかりませんが、万が一開始したときのために、「お気に入り」登録すると忘れたころに始まって、通知が意外とウザいと思われます。 表紙イラストはAI作成です。 (セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ) 題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております

怪蒐師

うろこ道
ホラー
第8回ホラー•ミステリー大賞で優秀賞を受賞しました。ありがとうございました! ●あらすじ 『階段をのぼるだけで一万円』 大学二年生の間宮は、同じ学部にも関わらず一度も話したことすらない三ツ橋に怪しげなアルバイトを紹介される。 三ツ橋に連れて行かれたテナントビルの事務所で出迎えたのは、イスルギと名乗る男だった。 男は言った。 ーー君の「階段をのぼるという体験」を買いたいんだ。 ーーもちろん、ただの階段じゃない。 イスルギは怪異の体験を売り買いする奇妙な男だった。 《目次》 第一話「十三階段」 第二話「忌み地」 第三話「凶宅」 第四話「呪詛箱」 第五話「肉人さん」 第六話「悪夢」 最終話「触穢」 ※他サイトでも公開しています。

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

処理中です...