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俺の邪魔するな!!

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「キシャァアアアッッ!!」
「わーっ、魔物だ!」
「逃げろーっ!!」

「──やめろ!」

少し遠くで奇妙な叫び声が上がって、それと同時に避難のためかこちらへ押し寄せてくる人々。
俺だけがその波に逆らって暴れる魔物の方へ走る。

「そこまでだ!──トゥインクルチェンジ!!」

腕時計型の変身アイテムを着けた左手首を空へ掲げそう叫べば俺の身体はあっという間に眩い光に包まれる。この時一旦全裸にひん剥かれるけど、ピンポイントで差し込まれる謎の光のおかげで周りに大事な部分を晒されることはない(俺は男なのになぜ乳首にまでこの光が入るのかまでも謎に入ると思う)。

生まれた時から染めたことのない短めの黒髪は銀色の煌めきが足されながらしゅるるっと伸びて両サイドの毛を長めに残したポニーテールになり、
プルパーカーとGパンというラフな服装は寒色系でまとめられた日曜日の朝にテレビで見られる女児向けアニメの主人公が着てるようなリボンとフリルがこれでもかと詰まったものに変わった。
大きめのポンチョの下から申し訳程度に覗くキュロットパンツの星空柄は、まるで本物を切り取ってきたように揺らめいている。

「──弱気を助け強気をぶん殴る!夜空導く星の川!!その名も魔法少年・ミルキーウェイ!!!」

──先週の20歳の誕生日に自宅で一人飲んだくれてたのに何が少年だ。

なんて冷静なツッコミが脳裏を過ぎるけど、いやいや今はコイツをなんとかしなければと仕切り直しに衣装と同じ青系統の魔宝石で飾られたステッキを魔物に向かって振りかざす。

「お前の好きにはさせないぞっ、覚悟しろ!」
「キェエエエエエエエ!!!」

俺の変身が終わるまで律儀に待っていてくれた魔物がそこでまた動き出し襲いかかって来たのをたんっ、と飛び上がって避ける。無防備な背中らしき部分にステッキで一発入れる(ぶっちゃけ魔法使うよりこいつで物理でいった方が早い)と、「ギュエッ!」と不細工な悲鳴を上げて倒れ込んだのでトドメくらいは魔法で刺してやるかとステッキを空へかざし呪文を唱えようとしたその時──

「──あぶないっ!」
「ひでぶっ!?」

ドォン!!

視界の端から飛び込んできた何者かに体当たりをされ、俺の身体は簡単に吹っ飛んだ。

「大丈夫かミルキーウェイ!!」

──裏地に俺の衣装と同じ星空が覗く黒のマント。
──顔の上半分を隠す繊細なレースで編まれた仮面。
──腰に下げられた、月や星などの天体をイメージしたのであろう意匠が施された剣。
──その自信はどこから来るんだと胸ぐらを掴んで問いただしたくなるほど余裕たっぷりに弧を描く口元。

空中で突き飛ばされてビルの壁にめりこみ「ぎゅぅ……」と魔物とそんなに変わらない声で呻く俺を背に庇うようにして、謎のポーズを決めながらその男は名乗りを上げる。

「天の川に導かれ!
瞬く星がやってきた!!
あなたのために煌めきましょう、アストロマスク・推参!!!」

ちょうど男が口上を言い終わったところでべりべりっ、と壁から剥がれた俺は口を開こうとするけど、「無理してはいけない!!」と仮面の男の手によって押し戻される。

「ぐえっ!!」
「ミルキーウェイ、君は健気なところが魅力だがここは私に任せたまえ。とはいえ、そこで見てるのは窮屈だろうからやはり出て来た方が良いだろうか。なぁに心配することはない、君には傷ひとつ付けさせないさ!」

マントの男の手の力がゆるんでようやく壁から離れられた俺は、地味に痛む腰をさすりながら穏やかな微笑みを浮かべる。

そしてすぅーっと息を吸い込んで、言った。



「──────帰れ!!!」


◇◇


俺、日向 蒼人(ひゅうが あおと)が魔法少年になったのは中学に入学してすぐの頃だ。

『僕の星に住む魔物が君の星へ押し寄せてくるきゅゆ!助けて欲しいきゅゆ!!』

突然現れたファンシーな見た目の異世界の妖精的なやつ──正しくは遠い星から来た宇宙人にそう懇願されて、最初は密かに憧れていたあの魔法少女アニメみたいになれるんだ!とルンルンで現れた魔物たちをなぎ倒していったものだけど、高校入試を控えたあたりで嫌気がさし、それでも魔物を倒さないと傷つく人達が増えるからとなけなしの正義感で続けた結果、20歳を迎え大学生をやってる今でも魔法少年として活動している。


「くっそ、あの変態仮面また邪魔しやがって……!」


あの戦闘から一日経ち、大学で本日最後の講義が終わってもイライラが収まらず、出口を目指して早歩きしながら舌打ちがこぼれる。

──なぁにが『天の川に導かれ!』だ!お前を導いた覚えなんてねぇよ!!

最初に俺をスカウトしてきた妖精的なヤツが授かり婚をしたとかで自分の星へ帰ることになり、あのアストロマスクとやらが俺のサポート役としてやってきたのが一昨年の話。
サポート役とかいうけど、アイツが俺をサポートしてくれたことなんてこの約二年の間一度もない、それどころか昨日みたいに邪魔ばっかりしてきていない方が魔物退治が捗るまである。

昨日も颯爽(?)と俺を助けに現れたらしいあの変態仮面は大して戦えないくせに『何があっても君を守ってみせる!』と、目の前をちょこまかし、なんとか隙をついて魔物を倒した俺に向かって『そのショートパンツはもう少し丈を伸ばした方が良いぞ』と余計なお世話にも程がある一言を残して謎の白煙と共に消えてしまった。

「あの変態、次会ったら魔物より優先してぶん殴ってやる……!!」
「何をぶん殴るの?」
「もちろんあのへんた……うわぁっ!?」

思い出したらまた怒りが込み上げてきて思わずそう呟くと斜め後ろから返事があって、足を止めて恐るおそる隣を見る。すると今の俺とは真逆の穏やかな表情を浮かべた綺麗な顔が視界に入ってきた。

「英先輩……!」
「こんにちは」

ぶん殴る、なんて物騒なことを口走った俺に対して不審な様子を見せることなくにこっ、と笑いかけてくれたのは英 誠(はなぶさ まこと)先輩。
青みがかった黒髪に、イケメンの一言で済ますのは申し訳ないくらい爽やかだけど落ち着いた美形。前に『ギリギリ180センチはないんだけどね』、なんて苦笑いしていたけどそれでも目を引く長身は黒のトレーナーと白のワイドパンツというシンプルな格好でもファッション誌に出てきてもおかしくないくらいおしゃれに見せている。
学部は違うけど同じサークルの一個上の先輩で、見た目だけでなく俺が入学した当初から色々気にかけてくれる中身まで綺麗な人である。

「こっ、こんにちは……!」
「何かストレスが溜まってるみたいだね。俺で良ければ話聞こうか?」
「そっ、そんなに大したことじゃないんです!えっと、バイト先で嫌な先輩がいて……!」

魔法少年やってる時に突然現れる変態仮面に困っています、なんて言える訳がなくとにかくこの話を早く終わらそうと適当な理由をでっち上げる(あの変態仮面は俺より早くヒーローの活動を始めてるらしいし、魔法少年として魔物を倒せばちゃんとこの世界のお金で報酬が支払われるのでバイトというのも先輩というのも嘘ではない。命かかってる割にふつうに居酒屋とかでバイトするのとあんま変わらない金額なのはちょっと納得いかないけど)。

「そうなんだね……俺もそれで悩んだことあるよ」

だけど英先輩は俺の話を聞くなり、うーん、と顎に手を当て何やら考え始めた。

──相変わらず、ただのサークルの後輩の俺相手にもこんなに真剣になってくれる……。
──そういうところ、すごい好きだ……!

そういう経験こそはないけど自分は同性に恋愛感情を抱くタイプなんだと早々に自覚していた俺は、このかっこよくて優しい先輩に絶賛片想い中だ。そんな好きな人にはなるべく余計な心配をかけたくないけど、今この瞬間、英先輩の頭の中が俺一色になってると思うとふつうに嬉しい……って、これはさすがにキモいか……。

「……そういう人は、面と向かって毅然と言い返すと意外と怯んだりするよ。意地悪な人は相手を選んで攻撃するからね、日向くん優しいから反撃してこないって思われてるんだ」
「優しいなんて……」

やっぱりちょっと違うふうに解釈されちゃったけど、先輩が俺のために考えてくれたって事実だけで救われた気持ちになる。
──でもそうか、毅然としてた方が良いならほんとにぶん殴るのもアリかもな……。

「とはいえ“ぶん殴る”のは……君が不利になるからあまりおすすめは出来ないけど」
「はは……」

心を読まれたみたいにいたずらっぽく釘を刺されたので乾いた笑いで誤魔化した。

「……あ、ちょっと待ってて」

と、ここで何か思いついたように声を上げた英先輩は、背負っていたボディバッグの中から小さな包みを2、3個取り出して俺に差し出した。

「はいこれ、いつも頑張ってる日向くんにご褒美」
「これって……」

駅ナカのチョコレート屋さんの一粒150円くらいするやつ……!そんな高級チョコレートを惜しげも無く俺なんかに分けてくれるなんて神にもほどがあるだろ……!
っていうかこの人いつもチョコレート持ち歩いてんの?尊……。

「あ、ありがとうございます……!俺チョコ大好きだからすごく嬉しいです……っ」
「喜んでもらえて俺も嬉しいよ」
「ほんと、いつも俺なんかにこんな良くしてもらって……」
「日向くん……“俺なんか”なんて言っちゃいけないよ」

チョコレートを受け取る時に手と手が触れ合って、そのままきゅ、と握られる。

「この先君を責めたり悪く言ったりする人が嫌でも出てくる。だから君だけは、君を認めてあげないと」
「英先輩……」
「それに、いつも一生懸命で子供やお年寄りに優しい君はとても素敵な人間だと俺は思うよ」
「……っ、」

どうせお世辞だろうとか綺麗ごとだとかの卑屈な感想は、この慈愛に満ちた微笑みの前では砕け散ってしまう。

「そうだ、良かったらこの後映画観に行かない?日向くんが前に観たいっていってたやつのチケットが手に入ったんだ」
「えっ」
「その後夕食でも食べながら感想話したり──あ、君の予定次第だけど」
「そっ、そんなの──」

思わぬお誘いに迷うことなく喜んで!!と返そうとすると、“ひょわわわわ~ん”と腕時計から流れた間の抜けた呼び出し音に遮られた。……魔物が現れる時の合図である。

「!!くそ、こんな時に……英先輩すみません、急用が入ったので今日は帰ります!」
「あっ、日向く……」

場所は分かっていても現れるタイミングが掴めないので一刻も早く駆けつけないとというのと、お誘いを断ってしまう罪悪感で謝罪もそこそこにすぐに先輩に背を向けて走り出す。

「危ないからあんまり急いじゃ駄目だよ!」

自分でも分かるくらい嫌な感じの断り方をしたのにそれでもなお俺を気づかう言葉をかけてくれる先輩の優しさを背中に受けながら、

──英先輩とデートしたかったのに!
──魔物め、ボッコボコにして生まれてきたことを後悔させてやる!!

そう心に決めて構内を駆け抜けるのだった。

◇◇

「やぁミルキーウェイ!今日は遅かったな!」
「うっせぇばーか!!」

変身を済ませて魔物が現れるという現場に到着した時には既にあの変態仮面がいて、舌打ちしそうになるのをかろうじて堪える。
奴は魔法で飛んでやってきた俺に向かって両腕を広げていて受け止めようとしたみたいだけど、普通に無視してそこから2mくらい離れたところへ着地した。

「んで、魔物はもう出たのか?」
「今はまだ現れていない。だがそこの空が不自然に歪んでいるからじきに出てくるだろう」
「そっか。近くに保育園とか老人ホームとかあったっぽいけど人払いは……出来てるみたいだな」
「そこは抜かりはないさ。どうだ?待っている間に私と愛の語らいでも、」
「死ね!!」
「はは、」

舌打ちは堪えられたけどさすがに今のは堪えるより先に口を突いてしまった。なかなかな暴言を吐いたつもりだけど、言われた本人は喉で笑って受け流している。そういう余裕な態度も腹立つんだよな……。

「今日も私の天の川はつれないな」
「誰がお前の天の川だ!……ったく、ここが大学から離れてて良かったぜ」

英先輩が聞いてるかもしれないところで死ねとか絶っっ対に言えないからな。

「大学?……そういえば君は学生だったな」

大学というワードを聞きつけた変態仮面ことアストロマスクはそれなら──と、衣装の胸ポケットをまさぐりチョコレートを2、3粒……奇しくもさっき俺が英先輩にもらったのと同じものを差し出してくる。

「いつも勉学に励んでいる君に、これをあげよう」
「はぁ?」

日頃の労いが数百円のチョコレートとか舐めてんのかコイツ。俺を応援したいならこのチョコ一年分、現金換算して持ってこい。……いやそれはそれでパパ活みたいで嫌だな……。
っていうかコイツいつもチョコレート持ち歩いてんの?怖……。

──ああもう、コイツといると調子が狂う!

「さて、この後の作戦なのだが、魔物が現れたらまずは私が出陣して君は──」
「──作戦なんか必要ない」
「何?」
「もうお前には付き合ってられない」

もらったチョコをちゃっかり懐に入れつつそう切り捨てて、俺は片手に持っていたステッキを一振りする。
するとアストロマスクの足元から藍色のリボンが伸びてきて、その背に立っていた木に縛り付けた。

「ミルキーウェイ、これは?」

突然拘束魔法をかけられ身動きがとれなくなったのに当の本人は至って冷静だ。

「魔物退治が終わったら解いてやるよ」
「一人で戦うと?」
「ああ。これ以上お前に邪魔されたらたまったもんじゃない」
「邪魔?私はいつだって、君を守るために立ち回っているつもりだが……」

何のことかさっぱり分かりません、と言わんばかりに首を傾げるアストロマスクに、いやどの口が言うんだと詰め寄りかけて──コイツのペースに飲まれまいと思いとどまった。

「良いから黙ってそこで見てろ。お前の邪──助けなんてなくても、俺は一人でも魔物を倒せるんだ」
「……なるほど、私に良いところを見せたいというわけだな!心配しなくとも君の素晴らしいところは私が一番知っているつもりだ!!」

……今殺せば魔物のせいってことに出来んのかな……。

片手に持ったステッキの先端をもう片手の平にべしべし軽く叩きつけながら割と真面目に考えていると、アストロマスクが「しかしな、ミルキーウェイ」と続ける。
 
「そんないじらしさも君の可愛いところではあるんだが……もう少し、味方に頼るということを覚えた方が良い」
「……は?」
「この星の人間に姿を変え耳触りの良い言葉で籠絡し……囲ってしまおうとする異星人もいる。そういう輩に出会った時、今の君がたった一人で退けることが出来ると思うか?」

縛り付けられたまま説教を垂れる姿が滑稽で、俺ははっ、と鼻で笑い飛ばす。

「ご忠告どうも。……俺が良いって言ってわざわざ囲ってくれる奴がいるなら、宇宙人だって大歓迎だね」
「……君は、


──っ!?ミルキーウェイ、後ろだ!!」
「えっ?──うわぁっ!?」

珍しくアストロマスクが声を荒げ、それにつられて後ろを振り向くと──この星のものではない異形の顔が視界いっぱいに飛び込んできて咄嗟に距離をとる。

「魔物……っ!?いつの間に!!」
「たった今そこの空を裂いて現れた!気をつけろ、そいつはかなり素早上に──」
「ぶふっ!?」

アストロマスクが言い終わらないうちに、いつのまにかかなり広範囲に何本も広げられていた触手のようなもののうちの一本が俺の口にぶち込まれる。

「……っ!?」

なんとか離れようと藻掻くけど抵抗むなしく、どぷぷっ!と“何か”が喉の奥に注ぎ込まれた。

「何があった!?」

魔物が俺に襲いかかってきた時に上がった土煙で何も見えなかったらしいアストロマスクが声を掛けてくる。

「がは……っ、うぅっ、……何か飲まされた……!」

用は済んだとばかりに雑に突き飛ばされた衝撃で全身が痛むけど、なんとかそれだけ答える。地面に向かって咳き込んでみるけど、その“何か”が出てくる気配はない。

「この魔物たぶんヤバいぞ……!拘束解くからお前は……」

──ザシュッ
──ピギャァアアアアアア

逃げろ、その言葉を遮るように何か鋭い音と魔物の断末魔らしき鳴き声が辺りに響く。俺が地面から視線を上げた時には、倒れた魔物を背にアストロマスクがこちらへ駆け寄って来ていた。

「ミルキーウェイ!」
「なっ……?は……?」

抜き身の剣からは魔物の緑色の血が滴り落ちている。
俺が反応すら出来なかった魔物はまっぷたつに──文字通り一刀両断されていた。

俺が地面に視線を落としていた数秒で、拘束魔法を解いて魔物を倒した……!
コイツ、こんなに強かったのか?女物のパンツみたいな柄の仮面被ってるクセに!?

「体調に変化は?」
「あ、えっと、今は特に……」
「まだ油断は出来ないぞ。──失礼」
「え?何……んぐっ!?」

剣を軽く振って魔物の血を払い落として腰に戻すと、アストロマスクはぐっ、と俺の喉奥に指を突っ込んでくる。  

「んぐっ……!?」

訳の分からない液体を飲まされたのでそれを吐かせようとしてくれている、そう分かってはいるけど反射でもがいても喉に入れてない方の手で頭をがっちりとホールドされていて、“いざとなったらぶん殴る”なんて心に決めていた相手の力が想像よりずっと強くてゾクッ、と背筋が冷えていく。

「出てこないな……」
「かはっ、ごほっ、ごほっ!」
「すまない、飲まされたモノを早く出さなければと……」
「別にアンタが謝ることじゃ……

……っ、♡」

申し訳なさそうに視線を落とすアストロマスクに首を振って返事をしているところに、どくんっ、と心臓が強く脈打つ。

「なん、だ……?」
「ミルキーウェイ?」
「あっ、待っ、触るな……あっ♡」

急に心臓を抑え蹲る俺を心配したらしいアストロマスクが背中をさすってくれるけど、そんな柔らかな感触だけでゾクゾクっ♡と──まるでオナニーでイッた時みたいに──下半身が震える。

「……媚薬が効いてきたのか」
「びやく……?」

俺の反応を見て確信したように頷くアストロマスク。

「主に性欲を増強させるものをそう言う」
「せっ……!?」
「君は、あの魔物に媚薬を飲まされたんだ。だから私が少し触れるだけで……」
「ひぁっ!?♡」
「このように骨抜きになってしまう」

ポニーテールの隙間から覗くうなじをつ……♡と指でなぞられて、女の子みたいな声が漏れてしまう。

「今君を襲っているその症状は、本格的な性交をして達しないと元には戻らない」

少しの刺激で絶頂を感じてしまい立ち上がることすら出来ない俺を観察するように眺めながら、アストロマスクは冷静に分析している。

──本格的な性交……って、誰かとヤらないと収まらないってことか……!?

「……ミルキーウェイ、君に恋人や──今すぐ性交を頼んで承諾してくれそうな者はいるか?」
「そ、んなのいるわけ……」
「だろうな。念のため聞いただけだ」
「お前、俺が元に戻ったら覚えとけよ……」

どうせ俺は恋人やらセフレやらとは縁のない陰キャだよバーカ!なんて心の中で突っかかっている間にも、身体は全身が心臓になったみたいにドクドク脈打っていて痛いくらいだし──『本格的な性交』と聞いて下半身はそれを求めるようにきゅんきゅん♡♡と疼いている。

「そういうことなら私に任せろ」
「……?」
「君が同性も受け入れることが出来るのなら、私が相手になろう」
「……は……!?」

思わぬ相手からの思わぬ申し出に、俺は目を剥く。

「清廉な君のことだ、そういった経験もないのだろう?」
「う"っ……」

図星をつかれてぐうの音も出ない。この言い草からするとコイツはそれなりに経験があるみたいだし──犬に噛まれたとでも思って受け入れれば早く終わるかもしれない。

「──安心したまえ」

……そんな淡い期待は、アストロマスクが自分の下半身を一瞥しながら放った言葉でぶち壊れた。

「生まれ落ちてから幾星霜、出番のなかったこの聖なる剣(つるぎ)も君の役に立てると喜んでるぞ!」
「お前……っ、あぁっ♡そこだめだってぇっ♡♡」

────お前も童貞じゃねぇか!!

そのツッコミは、キュロットパンツからむき出しの太ももをいやらしく撫でられ漏れ出た情けない嬌声にかき消されたのだった。
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