この手に抱くぬくもりは

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紅茶の香りと沈黙

28話 光の中の約束

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——ルシアン。
どうか、どうか目を覚ましてくれ。

ユリウスも、ユリルクも、そして私も――皆、君を待っている。
君の声も、笑顔も、温もりも、誰一人として諦めてはいない。

だからお願いだ、神よ。
これ以上、私たちから大切なものを奪わないでくれ。

――

ルシアンは夢を見ていた。
真っ白な空間。雪でも霧でもない、柔らかな光があたり一面に満ちている。
寒さはなく、むしろ今までに感じたことのない、包み込むような温もりがあった。

(ここは……どこだろう)

不思議と恐怖も混乱もない。ただ静かな安堵だけが胸を満たしていた。

その時、白い光の向こうから一人の女性が現れた。
栗色の髪。柔らかな微笑み。――忘れたことなど一度もない人。

「……レティーナ様……?」

驚きと戸惑いが入り混じった声が、ルシアンの唇からこぼれた。
会いたくて、しかし会えるはずのない人。
亡くなったはずの、あの優しい女性がそこにいた。

「どうして……ここに……」

問いかけると、レティーナは変わらぬ微笑みのまま、そっと近づいてきた。

「……ルシアン様。大丈夫です。大丈夫なのですよ」

静かで柔らかな声。
その言葉を聞いた瞬間、堰を切ったように涙が溢れた。

「……私は……」

言葉にならない。胸が締めつけられ、苦しい。
ただ涙だけが頬を伝っていく。

レティーナはそんなルシアンの肩に、そっと手を置いた。

「……辛かったですね」

その一言が、心の奥深くにまで染みこんだ。

「でも、あの人は――不器用なのです。
 すべてを自分の中で完結させてしまうから……」

少しだけ寂しそうに、それでも優しく微笑む。

「あなたのことを、ずっと大切に思っていました。
 けれど、どうしていいか分からなかった。
 だから……あの人もまた、苦しんでいたのです」

ルシアンはゆっくりと顔を上げた。
レティーナの瞳には、優しさと哀しみ、そして希望の光が宿っていた。

「あなたが歩んできた日々は、決して無駄ではありません。
 あなたが産んだ命も、愛された証も、すべて意味のあるものなのです」

「……私……」

声が震えた。
それでも、一つだけ確かに言えた。

「会えて、よかったです……」

レティーナはふわりと微笑む。

「ええ。私も、会えてよかった。
 でも――そろそろ、戻らなければなりませんね」

「……戻る……?」

レティーナは頷き、ルシアンの手を包み込む。

「あなたには、まだやらなければならないことがあります。
 あなたを待っている人たちがいます。
 愛してくれる人が、ちゃんと――」

光が次第に強くなる。
身体が空気に溶けていくような感覚が広がる。

(戻らなきゃ……)
(あの人のところへ。あの子たちのところへ――)

そして、意識はゆっくりと現実へ引き戻されていった。

――その時。

背後から、かすかな声が届く。
柔らかく、どこまでも優しい、あの人の声。

『……ルシアン様。ユリウスのことも、どうか――よろしくお願いしますね』

振り返ろうとしたが、もうその姿はなかった。
けれど、確かに聞こえた。

最後まで、あの人らしい、静かな願いだった。
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