誰彼時ノ隘路ニ

とりい とうか

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白の記憶 二十

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 さて、息も落ち着いてきたし、そろそろ何かをどうにかしないとね。そう思って立ち上がり、そういえばと白兎へ問いかけた。

「女王陛下がいらっしゃったのに、こんな所で内通してていいの?」
「生体模型も死番バッターも自由にやっているので、僕も自由を謳歌しています」
「謳歌しちゃってるのか、なら仕方ない」
「仕方なくねェよそういうの止めろって言ってンだよ」

 また一彦先生から注意された。って待て。

「件の終わった同級生どもも存在しているのか……仲間になれそう? 畜生以外」
「あれは誰の味方でもないので……死番バッターは気分次第ですかね」
「志島君は無理だよねぇ」
「わかってて聞くなっての」
「やれやれ、中ボスとスパイと無関係だった通行人Aか。何てパーティーだ、掲示板を炎上させるぞ」
「もういいよお前らはそれで……待てやテメェ、中ボスってもしかしなくてもオレじゃねェか」
「スパイというよりは裏切り者の顔をした忠義者と称してほしいですね」
「お前はお前で何ちょっとカッコいい呼び方されようとしてンだバカしかいねェのかここは」
「わはは」
「二度と笑えない体にすンぞ」

 はいはい校長先生万々歳。

「えーと、何すればいいんだっけ? 女王陛下をお祓いするには暴君が邪魔で、暴君には溺死が効くって話だったっけ……あ、もずく君は味方?」
「さらっとオレを使って始末つけようとすンな、もずくだったらオレの命令聞くだろ多分。アイツらが変なことしてなきゃ」
「もずくで名前は確定なんですね。物理が効くって話なんでチェーンソーも効くかとは思いますが、女王陛下がそれを許すかどうかは……陛下もあれの操り方は知ってますし」
「カーッ、やだやだこれだから主人公様はよぉーっ」
「頼むから人格統一してくれ、どんな面して話せばいいかマジでわからなくなるから」

 なんて言われてもこれが私だからなぁ。ズレていた眼鏡を直しつつ、もう一つの疑問を思い出した。

「そういえば生存者は如何程に?」
「あ? あー……変わりねェな」
「どこにいるかとかわかる?」
「本当に便利に使ってくれるな……三階と一階」
「どっちがどっち?」
「三階の方が血の臭いが濃い」
「じゃあ畜生か。あれ、三階って何があったっけ……家庭科室?」
「理科室では? 僕の記憶が正しければですが」
「は? あの辺りは普通の教室しかねェが?」

 おっと、これは……また一段生存可能性が下がる情報か?

「ここを出る前に校舎内の配置について話し合おうか。どうやら、周回を繰り返すに連れて教室の配置も変わってるらしいクソゲーか?」
「急にキレますね」
「コイツがキレてねェ時ってあったか?」
「いつでもどこでもキレる仕様だね」
「ヤな仕様……」

 キレて悪霊化した一彦先生にだけは言われたくねぇなぁ。言うてここにいる全員比較的短気だろ。元ヒステリックな女王陛下と現役の悪霊二体だぞ。改めて考えたら何だこの組み合わせ、馬鹿しかいないのかここは。

「全体は?」
「四階建て」
「相違ないです」
「よし。四階には斎藤先生がいて、初期状態としてはバリケードで封じられてた。あのバリケードって誰がやったの? 今更ながらすごく不思議」
「あー……確かオレ」
「何でさ」
「あんまりアイツが暴れ回るから、カイとか他のヤツらから苦情があって」
「まぁ歩く即死罠みたいな方ですもんね」
「だもんでしばらく閉じ込めようってなって……いや、お前知ってンじゃねェのかよ」
「あのバリケードに関しては知らなかったよ」

 思い返してみても、どこにもそういう記述はなかったように思う。ここに拉致されてきた被害者が作ったにしては妙に頑丈だし、そもそも何で斎藤先生が無抵抗で閉じ込められてたんだろうって思ったけど、そりゃ一彦先生がぽんと出したんなら納得だ。

「でも何でチェーンソーで壊して外に出なかったんだろう……」
「校舎を無闇に壊すなっつったからじゃね? バリケードもオレが作った校舎の一部って思ってたとか。まァ壊されてたらキレてたけど」
「先生も大抵ヤな仕様では?」
「お前程じゃねェな」
「えへへへぇ」
「褒めてねェし照れる場面でもねェってわかってンだろが」

 わかっているよ、冗談、冗談。

「で、三階には家庭科室とか音楽室があったと思う」
「特殊教室があるという点では共通ですが、理科室と図書室ですね」
「だーから三階は普通の教室だけだっつってンだろ」

 はい、意見が分かれました。

「じゃあこの周回、今この瞬間ベースで話し合おう。三階は普通の教室だけ、二階は?」
「二階にお前らが言う特殊教室? があるな……あ? チッ、クソがよ」
「あぁ、理科室があった?」
「図書室もな。少し離れた場所に家庭科室に音楽室、美術室……トイレの位置が記憶と違う。それから普通の教室がいくつか」
「トイレあったんだ」
「まァ入ったら死にますが……」
「ヤな仕様」

 花子女史でもお出ましになるのだろうか。

「一階は職員室と、校長室と……って、今思ったンだけどよ」
「はい?」
「お前は周回で教室の位置がっつったけどよ、矛盾してねェ?」
「うーんあんまり考えたくはないけれど私も薄々気づいてるよ」
「同じ時間の中で教室の配置が異なっていると?」
「あー白兎が事実を並べ立てて心の弱い犠牲者を泣かせたー」
「犠牲者本人が棒読みで言いますか」

 泣きたいのは本音だけどね、泣いても事態が変わらないなら水分の無駄遣いは止めておきたい。だって、私は一階から二階の事件現場に上がって、裏ボスと遭遇して階段を下りて、全ての始まりの教室に駆け込んだ。私の脳内地図では矛盾していなかったけれど、改めて考えるとおかしい。だって、始まりの教室は一階には存在しない。

「じゃあここどこだよ」
「まーた人格が変わった」
「外に出て確認してみます?」
「外に何もいない? 扉開けたら即謁見とか勘弁してほしいんだが」
「その場合、僕も裏切りの罪で処されますねぇ」
「皆で仲良く首が飛んだら寂しくない?」
「止めろオレを巻き込むンじゃねェ」

 何もかもが嫌になって投げやりな気持ちになっていたら説教された。仕方がない、これも仕様だと思って頑張るしかないだろう。
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