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魔族の子
ユラ2
しおりを挟むオレは今、パカパカと歩む馬に引かれた馬車の荷台でトールとともに揺られている。
幸いな事に山までの道のりはそんなに険しくなく、街と街の間は平坦な草原が続く。草原にはところどころに水場もあり、休憩もしやすい。そしてなんと、朝食、昼食休憩の際にはたくさんの美味しいパンが食べ放題なんだ。
流石パン屋さん!
オレはありがたくパンを頬張り、一緒に用意されていた干し肉も果物もたっぷりと頂いた。パンが本当に美味いんだよ。
食事付きの仕事だなんてありがたい。
母さんが許してくれたのはそれも大きいのかも。「たくさん食べなきゃ大きくなれないわよ!」が口癖だもんなぁ。
夜明けとともに出発してから結構な時間が経つが、休憩中も馬車で移動している間もいたって平和。この辺りは魔獣や魔鳥も滅多に出ないからのどかな旅だ。
けどそれは、魔王様のおかげなんだよ。魔王様が街周辺に出る魔物や魔獣、魔鳥を徹底的に駆除してくださったんだ。で、実際にそれを遂行した魔族の一人がオレの父さんってわけで・・・その時は話を聞いても「ふ~ん」としか思わなかったけど、こうして遠出をしてみて初めてありがたみが分かった。
父さんに感謝だな。照れくさいから本人には絶対言わないけどね。
御者はトールのお父さんとお母さんが交代で務めている。荷台には左右の端に板がしっかりと打ち付けられており、座れるようになってはいるが、結構揺れるし正直尻が痛い。
トールのお母さんが、干し草を入れた布を用意してくれていたので何とか座っていられるけど。
トールなんかはそれを枕にして床に寝転がっている・・・って、どうやら本気で寝ているようだ。振動が酷くてとても眠れないと思うんだけど、慣れかな?ちょっと尊敬するよ。
トールのお母さんと、トールのお姉さんの友だちのマリさんには契約精霊がいる。二人とも猫の精霊。契約者の横でフワフワ浮きながら戯れあっているのが可愛い。
自分で何匹もの精霊を断っておいてなんだけど、正直羨ましい。いいなぁ。オレだって本当は精霊と契約したいんだよ。
はぁ、オレの半身であるはずの精霊は、どうしてオレの前に現れてくれないんだろう。精霊界からオレを見つけられないのかな?オレが何か目立つ事をすればいいのか?
そんな事を考えながら猫の精霊たちを見つめていると、いつの間にか山が大きく見えるようになっていた。
だんだんと山に近づいて行くにつれ、オレの心に奇妙な感情が湧き出て来る・・・
・・・あぁ、戻って来れた。やっと君に会える・・・
えっ?君って誰?オレは誰に会いたいの?契約精霊??・・・うん、確かに契約精霊にも会いたいし、何なら会える気もするんだけど・・・君とは違うよね?オレが会いたいのは・・・・・・
「ユラ?どうしたんだよ?何か固まってたけど大丈夫か?もうすぐ山に着くぞ」
いつの間にか床から身を起こしたトールが心配そうにこっちを見ている。
「・・・あっ、あぁ。大丈夫。ちょっと眠くなって・・・」
「ばっかだなぁ!だから俺みたいに早いうちにから寝てれば良かったんだよ。けどまっ、いいんじゃない?その方が夜によく眠れるよ。慣れない天幕じゃ寝付きにくいかもだし」
オレはトールの言葉に曖昧に頷きながら、間近に迫った山をじっと見つめる。
とにかくこの山にはオレが求める全てがある。そう確信しながら、オレは馬車の揺れに身を任せた。そうして、徐々に近づく山への期待ではち切れそうな胸の高鳴りを・・・無理矢理抑え込んだんだ。
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