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バルーダ王国編
③〈番外編─その瞳に映るものは その4〉
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その1か月後、元王太子ヴォルフと王妃付き女官セレーナの双子の妹でマリーナが、命からがらボルガ王国へとたどり着いた。
セレーナは王妃の死後、隠れ家で追っ手にかかり、王太子の身代わりと共に殺されたという。
アレイシアは反対したらしいが、周囲の説得で万が一の為に身代わりを用意していたらしい。
それが、元王太子ヴォルフの命を救うことになったのだった。
ボロボロのマリーナは、王家の人々に1通の書簡を差し出した。
それは元王妃アレイシアから実家へと宛てた最後の書簡で、中にはひと房の編み込んだ金髪が納められていた。
この文面では、おそらく実父であるシュルツ2世の死も、兄ロディアの即位も彼女には届いていなかったのだろうか?
それとも、人々が気を使ってわざと知らせなかったのだろうか?
刑場で果てるまで、彼女が何を考え、何を想っていたのか──その心中を窺い知ることは出来ない。
その書簡は日付から察すると、王太子を脱出させる直前に書かれたようであった。
それ以来、逮捕されたアレイシアとの連絡は議会によって拒否され、連絡が途絶えていたからだ。
いくら家族宛ての私信とは言え、こちらに対して気を使ったのだろう。
ユーレイの名は、書かれていなかった。
この書簡は仁菜をはじめ、陛下や王太后、王家の人々、この内容を知った人々の涙を誘ったのであった。
『銀の娘』をお義姉さまと記した、愛嬌と共に。
『親愛なる両陛下、王太子殿下、お義姉さま、カリム1世陛下、リディア王妃さま。
そして、私の愛する方々。
この書簡を手に取って頂いていると言うことは、元王太子ヴォルフとセレーナはボルガへとたどり着いたのですね。神の御心に感謝いたします。
私を助けようとするお心遣い、ありがたく頂戴いたしました。
しかし、私は神と民衆に見放されたとは言え、一旦は神が定めし、この国の王妃であった者です。
どのような困難になろうとも、それは神のご意志。
私は、陛下と運命を共に致します。
両陛下や王太子殿下であるお兄様、そしてお慕いするお義姉さま、そして私の愛する方々。
これが、皆様へ生あるうちの私から自由に書くことの出来る、最後の書簡となりましょう。
皆さまからの愛と、神のご意志で、今日まで私は生きて参りました。
この書簡を皆さまがお読みになる頃、私は恐らく、生きてはおりません。
神から王権を預かった私共の不徳の致すところではございますが、長年の圧政に対して、国民は私どもを許すことはないでしょう。
私共は、早晩処刑される運命ではございますが、貴人でもあり、神から認められた王族でもあります。
体から首が離れるような身分では、ないのです。
その点は、我が国民を信じております。
ですが、私は決して不幸ではございません。
たとえ処刑されたとしても、お義姉さまに伺った、ポセイドン神殿を訪ねた後に、天界へと昇ることが許されると信じております。
もちろん、陛下と共に手を取り合い、かの地を訪ねる所存です。
それは人生最後の、この身に過ぎた幸福でございましょう。
私は一足先に、天界で皆さまをお待ちしております。
最後になりますが、ヴォルフとセレーナをくれぐれも、よろしくお願い致します。
彼は、我が国と我が王家の希望であり、宝です。
成人するまで後見し、彼が立派な王となり、再び王国を再建出来るように導いてやって下さいませ。
私には、もうその時がございません故。さようならは申し上げません。
また、お会い致しましょう。
@@@@年 11月@日
アレイシア・クリスタ・ミローシェ・ド・ブランシュ・ヨナ・バルーダ』
さて、その後。
元王太子ヴォルフは病を得てあっけなく亡くなり、マリーナは皆が止めるのも聞かずに国へと帰っていった。
6年後、王家の遠戚にあたり、農民の娘として匿まわれていたイレイシア・ベリア・レナ・バルーダ(16)を女王として擁立。
彼女はバルーダ王家の規定により、イレイシア・グレイス・リベルタ・ルシェラ・ヨナ・バルーダと改名。
グレイシア女王として、即位することになった。
こうして、多くの人々の尽力により、バルーダ王国は再建されたのであった。
しばらく後、バルーダ王国はボルガ王国が主導する連合王国の傘下へと入ることになる。
再建された王国の補佐役の大臣は、何とあのジェリックス卿だ。
彼は、あの場所から逃げ切ることに成功していたらしい。
彼は生涯を黒い喪服で通し、死の瞬間まで黒い古びてボロボロになったスカーフと、ガラスがはめられた大ぶりのペンダントトップを身に着けていた。
その中には、細く細く編み込まれた金髪が、ぐるぐると巻かれて入っている。
そのことを指摘されると、彼はいつも遠い目で空を見つめた。
「これは、先の王妃さまがお助け下さった『命』でございます。
アレイシア元妃殿下は、常に我が国民を見守って下さっておられるのです」
そう言って固くスカーフを握りしめ、ペンダントを弄びながら、力なくほほえむのだった。
中身については、どんなに尋ねても決して口を開こうとはしなかったが、恐らく、元王妃の髪の毛だろうと噂されていた。
真実ならば、どこで卿は手に入れたのだろう?
元国王夫妻が逮捕されてから、一度も接触した気配などなかったのに⋯⋯⋯?
名門の血が絶えると言われても、彼は決して妻を娶うとしなかった。
そして、ジェリックス家の女官長には、いつの間にか行方不明だったあの元王妃付女官、メリル・ディ・ストライドが就いていたことも、人々を驚かせた。
処刑には人知れず立ち会っていたらしいが、「昔のことです」と遠い目をして、それ以上頑として口を開こうとはしない。
ジェリックス卿は女王をよく補佐し、彼女が2人目の王子を産むのを見届けた後、死の床でスカーフとペンダントを握りしめたまま、幸福そうな笑みを浮かべて死んだ。
享年、41歳。
ここに名門、ジェリックス家は絶えた。
さて、その後から先のことは、また別なお話となる。
《作者後書き》
残酷すぎでしたが、いかがでしたでしょうか。
お話としては『究極の愛』として、キャラが動きました。作者の予想外です。
不幸な政略結婚の末、信仰と奉仕に救いを求めるしか無かったアレイシア。
初出の設定とは違い、作者の手を離れ、予想外の『自分の望んだ最後』を選びました。
設定では「あたしのお兄様を取らないでっ!」と主人公にイジワルするけど、最後には仲直りって言う昔の『マンガあるある』な、子供っぽい・1回限りのキャラのはずの、アリー様。
『アリー様が書いた』書簡を、文章として表現するのは、苦労しました。
そこに「自分たちは、首を切られる身分ではない」と書いている所が、何とも言えません。
作者には、不幸な政略結婚の為、身も心も幼かった彼女に『男女の恋愛』が理解できていたとは思えません。
夫との間に夫婦関係があったかも、不明です。
そして、卿との関係は2人にしか分かりません。
男女関係かどうかは置いといて、何らかの『愛』があったことは、事実だと思います。
アレイシア様と卿、この事件で亡くなられた全ての方々のご冥福を、改めてお祈りいたします。
ちなみにイレイシア(現女王名:グレイシア)は、カリスタの曾祖父の弟の子孫にあたる女の子です。
セレーナは王妃の死後、隠れ家で追っ手にかかり、王太子の身代わりと共に殺されたという。
アレイシアは反対したらしいが、周囲の説得で万が一の為に身代わりを用意していたらしい。
それが、元王太子ヴォルフの命を救うことになったのだった。
ボロボロのマリーナは、王家の人々に1通の書簡を差し出した。
それは元王妃アレイシアから実家へと宛てた最後の書簡で、中にはひと房の編み込んだ金髪が納められていた。
この文面では、おそらく実父であるシュルツ2世の死も、兄ロディアの即位も彼女には届いていなかったのだろうか?
それとも、人々が気を使ってわざと知らせなかったのだろうか?
刑場で果てるまで、彼女が何を考え、何を想っていたのか──その心中を窺い知ることは出来ない。
その書簡は日付から察すると、王太子を脱出させる直前に書かれたようであった。
それ以来、逮捕されたアレイシアとの連絡は議会によって拒否され、連絡が途絶えていたからだ。
いくら家族宛ての私信とは言え、こちらに対して気を使ったのだろう。
ユーレイの名は、書かれていなかった。
この書簡は仁菜をはじめ、陛下や王太后、王家の人々、この内容を知った人々の涙を誘ったのであった。
『銀の娘』をお義姉さまと記した、愛嬌と共に。
『親愛なる両陛下、王太子殿下、お義姉さま、カリム1世陛下、リディア王妃さま。
そして、私の愛する方々。
この書簡を手に取って頂いていると言うことは、元王太子ヴォルフとセレーナはボルガへとたどり着いたのですね。神の御心に感謝いたします。
私を助けようとするお心遣い、ありがたく頂戴いたしました。
しかし、私は神と民衆に見放されたとは言え、一旦は神が定めし、この国の王妃であった者です。
どのような困難になろうとも、それは神のご意志。
私は、陛下と運命を共に致します。
両陛下や王太子殿下であるお兄様、そしてお慕いするお義姉さま、そして私の愛する方々。
これが、皆様へ生あるうちの私から自由に書くことの出来る、最後の書簡となりましょう。
皆さまからの愛と、神のご意志で、今日まで私は生きて参りました。
この書簡を皆さまがお読みになる頃、私は恐らく、生きてはおりません。
神から王権を預かった私共の不徳の致すところではございますが、長年の圧政に対して、国民は私どもを許すことはないでしょう。
私共は、早晩処刑される運命ではございますが、貴人でもあり、神から認められた王族でもあります。
体から首が離れるような身分では、ないのです。
その点は、我が国民を信じております。
ですが、私は決して不幸ではございません。
たとえ処刑されたとしても、お義姉さまに伺った、ポセイドン神殿を訪ねた後に、天界へと昇ることが許されると信じております。
もちろん、陛下と共に手を取り合い、かの地を訪ねる所存です。
それは人生最後の、この身に過ぎた幸福でございましょう。
私は一足先に、天界で皆さまをお待ちしております。
最後になりますが、ヴォルフとセレーナをくれぐれも、よろしくお願い致します。
彼は、我が国と我が王家の希望であり、宝です。
成人するまで後見し、彼が立派な王となり、再び王国を再建出来るように導いてやって下さいませ。
私には、もうその時がございません故。さようならは申し上げません。
また、お会い致しましょう。
@@@@年 11月@日
アレイシア・クリスタ・ミローシェ・ド・ブランシュ・ヨナ・バルーダ』
さて、その後。
元王太子ヴォルフは病を得てあっけなく亡くなり、マリーナは皆が止めるのも聞かずに国へと帰っていった。
6年後、王家の遠戚にあたり、農民の娘として匿まわれていたイレイシア・ベリア・レナ・バルーダ(16)を女王として擁立。
彼女はバルーダ王家の規定により、イレイシア・グレイス・リベルタ・ルシェラ・ヨナ・バルーダと改名。
グレイシア女王として、即位することになった。
こうして、多くの人々の尽力により、バルーダ王国は再建されたのであった。
しばらく後、バルーダ王国はボルガ王国が主導する連合王国の傘下へと入ることになる。
再建された王国の補佐役の大臣は、何とあのジェリックス卿だ。
彼は、あの場所から逃げ切ることに成功していたらしい。
彼は生涯を黒い喪服で通し、死の瞬間まで黒い古びてボロボロになったスカーフと、ガラスがはめられた大ぶりのペンダントトップを身に着けていた。
その中には、細く細く編み込まれた金髪が、ぐるぐると巻かれて入っている。
そのことを指摘されると、彼はいつも遠い目で空を見つめた。
「これは、先の王妃さまがお助け下さった『命』でございます。
アレイシア元妃殿下は、常に我が国民を見守って下さっておられるのです」
そう言って固くスカーフを握りしめ、ペンダントを弄びながら、力なくほほえむのだった。
中身については、どんなに尋ねても決して口を開こうとはしなかったが、恐らく、元王妃の髪の毛だろうと噂されていた。
真実ならば、どこで卿は手に入れたのだろう?
元国王夫妻が逮捕されてから、一度も接触した気配などなかったのに⋯⋯⋯?
名門の血が絶えると言われても、彼は決して妻を娶うとしなかった。
そして、ジェリックス家の女官長には、いつの間にか行方不明だったあの元王妃付女官、メリル・ディ・ストライドが就いていたことも、人々を驚かせた。
処刑には人知れず立ち会っていたらしいが、「昔のことです」と遠い目をして、それ以上頑として口を開こうとはしない。
ジェリックス卿は女王をよく補佐し、彼女が2人目の王子を産むのを見届けた後、死の床でスカーフとペンダントを握りしめたまま、幸福そうな笑みを浮かべて死んだ。
享年、41歳。
ここに名門、ジェリックス家は絶えた。
さて、その後から先のことは、また別なお話となる。
《作者後書き》
残酷すぎでしたが、いかがでしたでしょうか。
お話としては『究極の愛』として、キャラが動きました。作者の予想外です。
不幸な政略結婚の末、信仰と奉仕に救いを求めるしか無かったアレイシア。
初出の設定とは違い、作者の手を離れ、予想外の『自分の望んだ最後』を選びました。
設定では「あたしのお兄様を取らないでっ!」と主人公にイジワルするけど、最後には仲直りって言う昔の『マンガあるある』な、子供っぽい・1回限りのキャラのはずの、アリー様。
『アリー様が書いた』書簡を、文章として表現するのは、苦労しました。
そこに「自分たちは、首を切られる身分ではない」と書いている所が、何とも言えません。
作者には、不幸な政略結婚の為、身も心も幼かった彼女に『男女の恋愛』が理解できていたとは思えません。
夫との間に夫婦関係があったかも、不明です。
そして、卿との関係は2人にしか分かりません。
男女関係かどうかは置いといて、何らかの『愛』があったことは、事実だと思います。
アレイシア様と卿、この事件で亡くなられた全ての方々のご冥福を、改めてお祈りいたします。
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