銀色の年代記(クロニクル)~番外編 アルファポリス版 AI校正ver

安倍由里子

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ジェイクの覚え書き

⑤〈番外編─ジェイク・ド・クレロールの覚え書き その1〉

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《はじめに》
仁菜が弟のように可愛がる、ボルガ王国神官見習いのジェイク。
彼から見た、元リドリア王国神官長、ナシームの処刑話。
本編の裏話的と言うか⋯⋯視点を変えたお話です。ジェイクくんも、内面ですから遠慮ない語りをしています。
全5話。完璧に作者の趣味の話で、最後の数行が書きたくて、膨らんでしまいました。
残酷表現あります。ご注意を。

@@@@@@@@@@@@@@@@@@

私はジェイク・ド・クレロール。
現在、14歳で神官見習である。
来年、修練式の予定だ。

私は0歳の時、神殿へと入った。
と言っても聞いたところによると、ボルガ王国の神殿の石段の前に、布にくるまれて置かれていたそうだ。

つまり、捨て子だったらしい。

長は0歳で運命が決まってしまった私を不憫ふびんだとよく仰ってくださったが、幸か不幸か私は、神殿しか知らない。
身寄りのない赤ん坊の捨て子で男子は、神殿が引き取るので自動的に神官となるしかないのだ。

各国の神殿には、神殿本部プライアスほどではないが孤児のための施設がある。
もちろん、我がボルガ王国にもある。
戦乱で両親を亡くした子供は、神殿で一定の教育を受けた上で、商家や需要先へ養子として出される。
身寄りのない赤子が捨てられると、男子ならその未来は神官と決まっているらしい。
もう少し育った子供なら、才能がある者を神官見習いとして引き取ることもある。

しかし、赤子は純粋無垢なので、その魂は自動的に『神官になるのにふさわしい』とされているのだ。
だが、長や皆に不憫ふびんだと言われても、私にはその意味が全くわからない。
私の全世界は、『』しかないのである。
母親と共に神殿へと祈りに来る子供を見ると、なぜか胸が不思議と締め付けられる妙な感覚がするが、それも、ごくたまに、である。
それがなぜなのかは、わからない。

だが、それ以外は大勢の先輩方や、長、補佐(メルタ)、助役(ラルク)に囲まれて幸せな毎日を送っている。

そんな生活に変化が訪れたのは、10歳も終わりのころ。
当時私は助役の下について修行するようにと、配属先が決まった頃だった。
神官見習いの少年たちは10歳になると長の導きで、各々の性質に合うとされる先輩方のもとへと配属先を決められる。

そしてその先輩方について、手伝いをしながら神官の心得を学ぶのだ。
その後、15歳になると修練式をして正式に神官とされる。
入った年月や人によって違うが、私のような幼少時より神殿にいる者は、だいたいこのような規定となる。
後は、本人の心掛け次第であろう。
入った年月によって、30歳の見習いも存在するのだから。

私はNo.3である助役の下で修行できるのだから、出世間違いなしと言われて、同期や周囲の者の口汚い言葉も聞いた。

自分が修行につく先輩の神官によって、なぜその後の身分に違いが出てくるのだろうか。
私には、よく意味が分からなかった。
万が一、私が上に立てるとしたら、それは私の能力ではない。
修行した私に神がどれだけ語り掛けてくださるか、であろう。

普通ならば、そのまま見習いとしての日々が何事もなく過ぎ、15歳になれば修練式を行い、一人前の新人神官として認められる。

しかし、そんな穏やかな毎日に、とんでもない変化が起こったのだ。

さて、私の生活に変化が出た原因は、あり得ない出来事であった。

何とあの、伝説の『銀の娘』がボルガ王国へと降臨こうりんなさったのである。
私が12歳の時であった。

幼いころより散々親しんできた、『女神伝』に出てくる、あの伝説の淑やかな姫君。
神官はもちろん女人禁制ではあるが、『女神伝』の文章までは否定されない。

そこには女性の皆様が憧れる、恋愛小説のような文句が出てくることもあるらしい。

私はそのような小説を読んだことが無いので、比べようがないのだが、姫君たちがどのように愛にあふれた言動をされたか─その一環としての文章であれば、見たことはある。

幼いころより読みふけっている『女神伝』に出てくる数々の姫君には、実はものすごく憧れがあった。

今回は、500年ぶりの降臨だという。
どのように若々しく、しとやかで美しい姫なのか、私は胸を高鳴らせていた。

しかし、私の期待はいろんな意味で裏切られた。まず、淑やかとは程遠い。
容貌はかわいらしいが、お年は何と21歳だとか。

この世界ならば、すでに婚儀を挙げられて2-3人子供がいてもおかしくない年だ。
歴代の姫君と比べても、決して年はお若くはない。

そして喜怒哀楽の激しい、とんでもなく行動的な姫君。
裏で破天荒だと言われているが、本人はご存じなのだろうか。
お付きの女官たちのぼやきを噂で聞いたことは、数知れない。

補佐から、神殿や『聖伝』『女神伝』について指導を受けている関係から、姫さまは神殿にもよくお越しいただいている。

その際に、どこかで私の境遇を聞いたのだろう。
まるで地上にいる弟のようだと、恐れ多い言葉をかけていただき、常に可愛がっていただいている。

姫さまは、確かに我が国と王太子殿下には多大なる幸福をもたらしてはいる。

しかし、伝説の姫君とのあまりの違いに、私は度々たびたび驚かされることになったのだった。
私はまだ見習いでもあるし、政治や外の事はよく分からない。

しかし、時代は混沌こんとんとしており、戦乱で人が次々と死ぬ時代。
ボルガの神殿でも親を亡くした孤児たちを受け入れたり、神に祈りを捧げたりと、やることはたくさんあった。

私はそのような中で助役について神に対する心構えを少しずつ学ばせていただき、もちろん姫さまとも親しくさせていただく、幸せな日々を過ごした。

その間にも、悲しいこともたくさんあった。
決して口にしてはならない、殿
兵士たちの死、陛下の死、そして可愛がっていただいた、長の死である。

死とは、怖いことではない。
そう習ってはいたのだが、やはり死というものは、親しい人々と別れなくてはいけない悲しいものだと感じるのだ。

いつかは天界で会えると分かっていても悲しんでしまう、私はまだまだ修行が足らないらしい。
補佐はさすが次代の長、いや代理で長となられたお方。
先の長が亡くなられても、涙を見せなかった。
あの長ですら、死に際して動揺されたのに、である。
やはり、死とはそんなものなのだろうか?

そんな中、姫さまは最大限の優しさで死に向かわれる長の心をお慰めする。
私は、姫さまが秘めし銀の力も拝見した。
姫さまは、『女神伝』に出てくる死の口づけを、長へとお与えになったのだ。

銀の力と言えども、本当に砂になるわけではなかったが、長の心は救われたのだろう。

苦しまれていたのに、最後には非常に穏やかな死に顔だった。
私はこの体験をして、姫さまに対する思慕しぼの情がますます深くなっていった。

しかし、ボルガのような神殿の規模としては小さな国である神官長や、その部下である私たちに、本部の決定に逆らえるはずがあろうか?

神官は、上意下達じょういかたつ
上の命令は、神の命にも等しい。
姫様は、ナシーム様の処刑に反対しておられたが。
気の毒ではあるが、本部の決定に逆らえるはずもない──長をはじめ、その場にいた神官たちは全員、そう考えていた。
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