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第五章

公爵邸での日々 4

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 「マドレーヌちゃんは花には興味はない?」

アルノー夫人は刺繍の見本帳を見繕いながらマドレーヌに尋ねる。

「嫌いじゃないんですけど。森の花とか見るのすきですし」

「そう……、んー、果物とか好き?」

「好きです!」

マドレーヌが元気に答えるのでエマとアルノー夫人は微笑んだ。

「なら、リンゴから始めましょう。ネイサン殿下は決まりましたか?」

ネイサンはうなずく。

「兄上用の普段使いのタイには獅子を。ほかの兄弟にもハンカチを、と思って」

ロクサーヌは自分の『聖属性の力』をこめて皆の使う布のふちをかがっていた。

「ロクサーヌちゃんは焦らないでゆっくりとね。四隅にかかったら言ってね。見ててあげるから」

ロクサーヌは真面目な顔でうなずく。かなり真剣だ。エマとアルノー夫人は少年少女たちよりまったりと過ごしている。アルノー夫人は長いリボンにいくつも小さな刺繍を施している。その刺繍をポイントにする髪飾りを作るのだ。近い将来開く店のための準備だ。ほかにも何色かのブラウスに同じ色で刺繍を施したものや、ハンカチなどの小物を作っている。

「これで売れなかったら悲惨ね」

などと笑っているが、ブラウスなどそういう興味がないマドレーヌが見ても見事なものであった。エマはパーティ用のドレスの刺繍を頼んだという。

「私は結婚式用のドレス頼みたかったけど、ベルティエ代々のやつあるからそれを着ることになっててちょっとつまんない」

ロクサーヌは言う、そのドレスは正妃も着たもので正妃の息子のネイサンを『娶る』ロクサーヌとしては仕方がないことであった。

「おじいさまが元気なうちに、って卒業後早かったら3カ月で式なの」

ネイサンもロクサーヌもにっこり笑う。エマはこの二人は夫婦みたいだなと思った。

「そこにお母様のスケジュールがいろいろあるから……パズルみたいになってるわ」

ロクサーヌは力なく笑う。

「ベルティエの奥方はソフィア妃の参謀だからねぇ」

エマがおっとりとそういう。

「ロクサーヌちゃんはそれのあとは継がないの?」

「私は無理ですね。職に就くなら、レア様の護衛騎士が一番現実的です。そのために騎士科での成績も上げてますから」

ロクサーヌは手を止める。

「うちの領地経営、どうしようかとおもって。父上が引退してから、あの人と同じように経営できるか自信ないし」

「親戚でお任せできる人いらっしゃらないの?」

「エリク様の甥っ子たちはほとんど聖騎士目指してるし」

アルノー夫人が口を挟む。

「エリク様の末の妹様が領地経営課を優秀な成績で卒業されたはずですよ」

「そうか。あの方がいらっしゃったか!」

ロクサーヌはわが意を得たり、という風情でうなずいてる。

「ロクサーヌちゃん、まずはお父様と話し合ってね?それで納得いかなかったら相談しに
いらっしゃい」

ロクサーヌはうなずく。皆が話している間、マドレーヌは口をへの字にまげて真剣に刺繍をしていたようだが、あまりに形がいびつで本人も嫌陰あったようであった。

「マドレーヌちゃん、落ち着いて。いったん布と針を手から離して。目を瞑って深呼吸よ」

アルノー夫人は慌ててマドレーヌに指示を出した。


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