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第四十六話
灯台守
しおりを挟むそんな日々を過ごし続け、早いもので三年が経過しようとしていたある日のこと。
妹の卒業パーティーに婚約者の代わりにエスコートをすることになっていたが緊急で国会会議が開催されることとなってしまい、残念ながらグレイは欠席することとなってしまった。速達でこの旨を知らせると議事堂内は慌ただしく多忙な時間が始まる。
バタバタと走り回り、気がつけば三月も終わり『ウサギのいたずら』である四月一日に実家からキャンディと共に速達が届いた。ヘルメスの婚約が正式に決まり、四月中にはお相手の家へ花嫁修行にと実家を離れるそうだ。契約職員のグレイは元より今年の春から実家に戻るつもりでいたため、契約更新はせずに前倒しして引っ越しの準備をしている最中でもあった。
商会会頭は実は王太子でヘルメスはお妃になる、みたいな文章が綴られていたのだが、当時は時期が時期なだけに「わかりやすい嘘」と思い込んでいたのだが、これが真実と知るのは数日後であり、神海王国国王からジャックナイフという固め技を喰らって気絶するとは誰も思うまい。
今度は妹が実家から離れるのか、きっと両親は寂しがるのだろうな。
ヘルメスが進むよりも先にグレイは前に行っていたはずなのに、どこかで道が分かれてしまい、後ろを振り向き気がつけばいなかったなんて事が起こるかもしれないとは考えていた。それがいざ現実になると、こんなにも寂しくなるのかと。あの日ヘルメスの言っていた気持ちがなんとなくわかったのだ。
その間、ヘルメスはとても大変なことが起きていた。
婚約者の両親……ようにハンクス国王と王妃から催促されて早々に神海王国へ旅立つこととなり、突然の家族と故郷の別れをすることになった。そして入国して早々に怒涛の妃教育、それに対するストレスによる円形脱毛症などの体調不良なども起こしてしまう。しかしそれでも婚約者とも話し合いもし、お互いで乗り越えることを学んでいった。
時に恋敵と対峙もして、時には明確な悪意に触れながらも歩むことは決してやめなかった。背負うものの大きさを理解していたからこそ出来たとも言えるだろう。
しかし、背負う覚悟が出来たのも純情な恋心があったからこそだ。『愛があれば乗り越えられる』を正しく体現しようとしている直向きな姿は、きっと神海王国の国民に歓迎されるだろう。
数日の後に兄妹は再会をしたとき、懐かしさで喜び……と思っていたがしばらく会わなかっただけなのに妹はとても大人びていた。「黙っていれば美人」なのに、「喋っても美人」になっていたのは正直驚いたのだ。
いつも後ろにいたはずなのに、振り向いたらいなくなっていた。
いいや、違う。
振り向いた瞬間に追い抜かれていたのだ。
追い抜いた妹の隣には、自分よりも身長も年齢もずっと上の義弟が常についていた。そんな幻覚が一瞬見えたのだ。
何も見えない道を先に歩いて、絶対に踏み外さないように先導していたつもりだった。だがグレイは陽だまりから先に進んでいなかったことに気づかされてしまった。
先の道が照らされるまで忍耐強く待ち続けていた。しかしヘルメスは、穴があろうが先が見えなかろうが飛び込んで走っていくのだ。
先程、『領主としての器ならヘルメスが上』だと申したが一つ訂正しなければいけないとすればこれだ。好奇心はある、だが危うさを知らない。これは領民を巻き込む騒動を起こしかねない恐ろしさだ。
逆を言えば道を知ることを出来る。それこそ自らを犠牲にしてでも進むことを選ぶだろう。これがただの一人の娘ならばだ。
国を背負う、民草を守る。そうなれば簡単に犠牲などしていい立場ではない。寧ろグレイのように照らすまで待つ忍耐さが必要なのだ。ならばグレイこそが正しいかと言われればそうではない。
道を切り開いてくれる信頼できる人間がいなかったのだ。常に周りに合わせることを優先してばかりで人間関係を築くことを疎かにしていたのが大きく裏目に出てしまったことを、彼は先の転覆事故で自覚してしまったのだ。
たったひとつ、勇気を出す一歩がなかった。熱くなれる気持ちもなかった。常に無難に常に保守的、それが自分の最大の利点で短所であることに酷く打ちのめされる。今更だ、本当に今更ながら『悔しい』という感情が湧き上がったのだ。
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