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第三話
霧の向こうの対岸
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ベティベルの特訓が始まって三日目を迎えた。学院に通う卒業生はほとんどおらず、卒業式典やパーティーへの参加準備に勤しんでいた。
ヘルメスとマリスは最初こそは「よぼよぼのオッサンを歩かせる介護士」のような見た目ではあったが、今日はなんとか無事にダンスの形から入ることに成功した。
パーティーで使われる曲は大まかに知っていたベティベルは比較的に踊りやすそうな優しい曲調のものを選び、そのリズムに合わせて二人を踊らせてみた。
これがまたスパルタだ。
ターンが甘い!足ばかり見るな!見つめ合う!照れるな!目を逸らすな、見つめ合う!だから照れるな!!
……甘酸っぱい二人の熱血指導の熱が伝わったのか、二人は「すみませんコーチ!」「私達、全国大会に行きたいです!」「どんな厳しい指導にも耐えてみせます!!」「ですから、私達も諦めません!!」と青春を決めていた。二人は感化されやすいのかもしれない……。
それからも二人の涙ぐましい努力の甲斐があってか、卒業パーティー二日前にはようやく様になってきたのである。
あんなにへなちゃこだった、お二人がこんな立派に……もう私からは教える事はありませんわ!お二人とも、深紅の優勝旗を取ってきなさい!!などと、ベティベルは完全に熱に浮かれていた。
そんなコーチの涙を見たヘルメスは「コーチぃい!!私、必ず優勝してきます!!」と涙しながら抱きしめた。そんなやり取りを後ろから見ていたマリスもまた涙を流しながら、「大会じゃなくて、パーティーなんだけどなぁ~……」などと言いながら小さく拍手をしたのであった。青春である。
とまぁ、短期間ではあるがほぼダンスをマスターした二人の飲み込みの早さに驚いたが、ベディベルはヘルメスの尋常ではない飲み込みにとても驚いた。今回はたまたま女性に免疫のないマリスに合わせた形ではあったが、恐らくヘルメスだけなら丸一日あれば作法も何もかもマスターしていたはずだ。
初日、短い時間ではあったが気を利かせて二人きりにさせてから暫く、庭園から戻ってきたヘルメスは少し不安そうな表情をしていたのを今でも覚えている。何か言われたのだろうかと親友として声をかけたかったが、パーティー本番まで時間がなかった事もあり、結局は有耶無耶なまま終わってしまった。結果的に実を結んだものの、それが躍起になったのだろうか……?それでもベティベルは彼女達を信じて、口を挟まない事を選んだのであった。
次の日、ヘルメス達卒業生は翌日に控えた卒業式典のリハーサルや席順の確認のため、最期の登校にやってきた。
リハーサル、なんて言うが実際は偉い人達の有難いと思われているお話や卒業賞状を受け取るだけの式典なので、最低でも起立の挨拶のタイミングをしっかりしていれば全然セーフなものだ。しかし本当に学院にいる最期の日なので、さすがに由緒ある式典を軽んじるわけにはいかない。ヘルメスはダンスの練習で溜まっている疲労を少しの間我慢する努力をしたのだった。
それから大体三時間ほど経過して、気が付けば日は高く昼食の時間となっていた。卒業生はリハーサルが終わると、昼食は自宅で取る者が多いためか大体が帰宅して行く。残っている者は学院の食堂で済ませて行く、もしくは後輩と残された時間を有意義に過ごす者もそれなりにいた。ヘルメス達三人はどちらかというと前者。特別親しい後輩も教授もいないし、何より学院での思い出は三人が仲良く過ごしていた生活ばかりで、そんな仲良し三人組が学院から社会に移動するだけなので学院というひとつの場所に囚われるのもおかしな話だと先週まではそう話していた。しかし、ヘルメスは……卒業したらハンクスに行ってしまうのだ。
「ヘルメス・カートン先輩!」
二人に別れをどう切り出せばいいんだろう。そう悩みながら二人に続いて廊下を歩いていたヘルメスは、背後から女性の声で呼び止められた。
はて?どこかで見かけたような……。振り向いて呼び止めたと思われる女子生徒を見ながら、記憶を遡ってみる。学年ごとに分けられているリボンの色は緑、今の一年生のもの。しかし一年生に知り合いはいないはずなのにと思っていたが思い出した。
「あれ?もしかして、あの時怪我をして私が運んだ……。」
「は、はい!覚えて下さって嬉しいです!」
ごめん、半分忘れてた。という言葉は呑み込んでおこう。ひょっとして、最期の挨拶に来てくれたのだろうか。一応明日の式典の終わりに時間があるからその時でも全然構わないというのに、律儀な子だと思っていたが。
「あ、明日のパーティー。もしエスコートのお相手がおりませんでしたら、私がエスコートさせて下さい!」
「……へ?」
意外や意外、まさかのお誘いである。
明日の卒業パーティーは参加者はほとんど卒業生なのだが、その卒業生のエスコート役が在校生や家族、もしくは学院とは無縁の卒業生の婚約者でも構わない……というか、卒業生の関係者ならば基本的に参加は許されている。若干防犯意識が低い気がするのだが。
それに女性のエスコート役は別に同姓でもなんら問題はない。最悪、一人で来場しても構わないが相手がいないと寂しいとか「寂しくないのは本当なのに強がっているとか言われる」など勝手に気持ちを代弁する輩がいるから、それ避けにもいた方がいいに越したことはない。
ヘルメスは嬉しい申し立てであるが、自分にはもうマリスがいるのだと伝えようとするも、ここでひとつの疑問が浮かんだ。確か彼女には、自分を醜女と罵っている男子グループの中に婚約者がいたはずだ。なのにその彼を差し置いてヘルメスの所に来た理由がわからない。無粋かもしれないが、聞いてみる事とした。
「ごめんなさい、もうエスコートして下さる方がいらして。それに確か、貴女には婚約者がいらしたはずでしょう?その人も卒業生のはずですし……。」
「彼は、確かに婚約者ですが……嫌です!ヘルメス先輩を悪く言う人なんて、頭を下げられても絶対に一緒に並びたくありませんもの!!」
日頃の行いは律儀に反映されるんだなぁと、ヘルメスの後ろで聞いていたレイチェルとベティベルはうんうんと頷いて納得していた。
しかし、こう慕われているのは意外で、だが逆に「自分が原因で関係のない人にまで不快な思いをさせてしまった」とヘルメスは感じなくてもいい罪悪感をまた背負ってしまいそうになる。
だがそれも、この後起こる喧噪ですっかり無くなるのだ。
「どういう事だ!俺よりカートンを選ぶだと!?」
例の侯爵令息が、その場に居合わせてしまっていた。
ヘルメスとマリスは最初こそは「よぼよぼのオッサンを歩かせる介護士」のような見た目ではあったが、今日はなんとか無事にダンスの形から入ることに成功した。
パーティーで使われる曲は大まかに知っていたベティベルは比較的に踊りやすそうな優しい曲調のものを選び、そのリズムに合わせて二人を踊らせてみた。
これがまたスパルタだ。
ターンが甘い!足ばかり見るな!見つめ合う!照れるな!目を逸らすな、見つめ合う!だから照れるな!!
……甘酸っぱい二人の熱血指導の熱が伝わったのか、二人は「すみませんコーチ!」「私達、全国大会に行きたいです!」「どんな厳しい指導にも耐えてみせます!!」「ですから、私達も諦めません!!」と青春を決めていた。二人は感化されやすいのかもしれない……。
それからも二人の涙ぐましい努力の甲斐があってか、卒業パーティー二日前にはようやく様になってきたのである。
あんなにへなちゃこだった、お二人がこんな立派に……もう私からは教える事はありませんわ!お二人とも、深紅の優勝旗を取ってきなさい!!などと、ベティベルは完全に熱に浮かれていた。
そんなコーチの涙を見たヘルメスは「コーチぃい!!私、必ず優勝してきます!!」と涙しながら抱きしめた。そんなやり取りを後ろから見ていたマリスもまた涙を流しながら、「大会じゃなくて、パーティーなんだけどなぁ~……」などと言いながら小さく拍手をしたのであった。青春である。
とまぁ、短期間ではあるがほぼダンスをマスターした二人の飲み込みの早さに驚いたが、ベディベルはヘルメスの尋常ではない飲み込みにとても驚いた。今回はたまたま女性に免疫のないマリスに合わせた形ではあったが、恐らくヘルメスだけなら丸一日あれば作法も何もかもマスターしていたはずだ。
初日、短い時間ではあったが気を利かせて二人きりにさせてから暫く、庭園から戻ってきたヘルメスは少し不安そうな表情をしていたのを今でも覚えている。何か言われたのだろうかと親友として声をかけたかったが、パーティー本番まで時間がなかった事もあり、結局は有耶無耶なまま終わってしまった。結果的に実を結んだものの、それが躍起になったのだろうか……?それでもベティベルは彼女達を信じて、口を挟まない事を選んだのであった。
次の日、ヘルメス達卒業生は翌日に控えた卒業式典のリハーサルや席順の確認のため、最期の登校にやってきた。
リハーサル、なんて言うが実際は偉い人達の有難いと思われているお話や卒業賞状を受け取るだけの式典なので、最低でも起立の挨拶のタイミングをしっかりしていれば全然セーフなものだ。しかし本当に学院にいる最期の日なので、さすがに由緒ある式典を軽んじるわけにはいかない。ヘルメスはダンスの練習で溜まっている疲労を少しの間我慢する努力をしたのだった。
それから大体三時間ほど経過して、気が付けば日は高く昼食の時間となっていた。卒業生はリハーサルが終わると、昼食は自宅で取る者が多いためか大体が帰宅して行く。残っている者は学院の食堂で済ませて行く、もしくは後輩と残された時間を有意義に過ごす者もそれなりにいた。ヘルメス達三人はどちらかというと前者。特別親しい後輩も教授もいないし、何より学院での思い出は三人が仲良く過ごしていた生活ばかりで、そんな仲良し三人組が学院から社会に移動するだけなので学院というひとつの場所に囚われるのもおかしな話だと先週まではそう話していた。しかし、ヘルメスは……卒業したらハンクスに行ってしまうのだ。
「ヘルメス・カートン先輩!」
二人に別れをどう切り出せばいいんだろう。そう悩みながら二人に続いて廊下を歩いていたヘルメスは、背後から女性の声で呼び止められた。
はて?どこかで見かけたような……。振り向いて呼び止めたと思われる女子生徒を見ながら、記憶を遡ってみる。学年ごとに分けられているリボンの色は緑、今の一年生のもの。しかし一年生に知り合いはいないはずなのにと思っていたが思い出した。
「あれ?もしかして、あの時怪我をして私が運んだ……。」
「は、はい!覚えて下さって嬉しいです!」
ごめん、半分忘れてた。という言葉は呑み込んでおこう。ひょっとして、最期の挨拶に来てくれたのだろうか。一応明日の式典の終わりに時間があるからその時でも全然構わないというのに、律儀な子だと思っていたが。
「あ、明日のパーティー。もしエスコートのお相手がおりませんでしたら、私がエスコートさせて下さい!」
「……へ?」
意外や意外、まさかのお誘いである。
明日の卒業パーティーは参加者はほとんど卒業生なのだが、その卒業生のエスコート役が在校生や家族、もしくは学院とは無縁の卒業生の婚約者でも構わない……というか、卒業生の関係者ならば基本的に参加は許されている。若干防犯意識が低い気がするのだが。
それに女性のエスコート役は別に同姓でもなんら問題はない。最悪、一人で来場しても構わないが相手がいないと寂しいとか「寂しくないのは本当なのに強がっているとか言われる」など勝手に気持ちを代弁する輩がいるから、それ避けにもいた方がいいに越したことはない。
ヘルメスは嬉しい申し立てであるが、自分にはもうマリスがいるのだと伝えようとするも、ここでひとつの疑問が浮かんだ。確か彼女には、自分を醜女と罵っている男子グループの中に婚約者がいたはずだ。なのにその彼を差し置いてヘルメスの所に来た理由がわからない。無粋かもしれないが、聞いてみる事とした。
「ごめんなさい、もうエスコートして下さる方がいらして。それに確か、貴女には婚約者がいらしたはずでしょう?その人も卒業生のはずですし……。」
「彼は、確かに婚約者ですが……嫌です!ヘルメス先輩を悪く言う人なんて、頭を下げられても絶対に一緒に並びたくありませんもの!!」
日頃の行いは律儀に反映されるんだなぁと、ヘルメスの後ろで聞いていたレイチェルとベティベルはうんうんと頷いて納得していた。
しかし、こう慕われているのは意外で、だが逆に「自分が原因で関係のない人にまで不快な思いをさせてしまった」とヘルメスは感じなくてもいい罪悪感をまた背負ってしまいそうになる。
だがそれも、この後起こる喧噪ですっかり無くなるのだ。
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例の侯爵令息が、その場に居合わせてしまっていた。
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