オジサマ王子と初々しく

ともとし

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第六話

賑やかな朝

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 カートン家は昨夜のうちになんとかヘルメスの引っ越しの目処を立たせていたので、あとは迎えの騎士団の馬車に今日運び込むものを積み込むだけの作業となった。残りは後日、以前の引っ越し予定日に運び込む。
 ヘルメスと両親は朝食を済ませてのんびりしていると、近所の領民たちが別れの挨拶にやってきてくれた。
 「うちの子供たちと遊んでくれてありがとうね!」「またウチの店に遊びにきてくれよな!」「旦那の惚気話を話においでよ!」と別れとは思えないほどとても明るく和気藹々としている。これがカートン領なのだろう、ここまで貴族と平民の壁がないのは珍しいことだ。

 「ところで、ハンクスの商会に嫁ぐんだろ?どんな人が迎えに来てくれるんだい?」
 「えーっと、確か商会でもガタイの良い人たちが来るって言っていたの。」

 生花の栽培をしている農家の婦人からの質問、間違っても「王家を守っている騎士団」とは言えない。騎士は本来なら引っ越し作業などしないし、いくら婚約者でも本当ならカートン家が業者を雇うはずなのに……と思っていたが王命ならば仕方ない。
 予定では今日の午前中、従業員を装った騎士が数名やってくる。その中には十五年前、マリセウスとこちらに滞在していた付き人が現在では騎士団長になっているという。ヘルメスはマリセウスとしか遊んでいないので他に同行者がいたのを昨日知ったばかりだ。
 騎士団長というからにはとても真面目な人なんだろうなぁ……ジークの辛辣でドライな人柄を間近で見ていたが、さすがにそんな人ばかりではないだろうとは思っている。仮にそうだとしても酷い偏見である。

 挨拶を済ませたヘルメスはメイドと使用人たちにも挨拶をしに行こうとすると、みんなはキリコを囲っていて労いと別れの言葉を交わしていた。そんな空気を壊したくないので、またサロンに戻って待つことにした。と、執事のトッドが見慣れない馬車が入ってくるのを目視で確認した。
 幌馬車と箱馬車が一台ずつ、箱馬車にはグリーングラス商会のロゴマークが描かれている。どうやらあれが迎えらしい。トッドはそれの対応をするために玄関を出て、ヘルメスは迎えが来たのを両親に伝えるためサロンへ入った。

 「おや、意外と早かったね。」
 「確かこの後はハンクスまでの旅路スケジュールの打ち合わせをするのよね?」
 「ええ。きっと一週間ぐらいかかるから、どこに宿泊するかも確認を合わせて……。」

 三人でそう話しながら玄関ホールに向かうと、「いンや~!懐かしいなぁーっ!!」とデカい声がやたら響いた。
 驚いたヘルメスだが、口ぶりからしてマリセウスと共にここに来てくれていたその人なのかもしれないと思い、玄関ホールへ踏み込んだ。するとそこには褐色肌の金髪の男性がその場を見渡していた。騎士団長にしては何かイメージしていたのと違うくらいにフランクというか、あまり重々しさを感じ取れない人物だった。拍子抜け、というよりも自分のイメージと違っただけで『らしくない』と決めつけるのはよくないと思ったヘルメスは、頭を横に振って雑念を飛ばして挨拶に向かう。

 「ようこそいらして下さいました。神海騎士団の団長様ですね?」
 「ン?あ、もしかして。」
 「お初目にかかります。ヘルメス・カートンと申します。本日は私のためにわざわざ団長様にご足労を、」

 自分史上、かつてないくらいに礼儀正しく挨拶をするヘルメスであったが、

 「おーっ!!デッカくなったなぁーっ!!」

 それを遮って団長は遠慮なくヘルメスの頭をガシガシと乱暴に撫で出した。

 「ほっ、ほげぇ!?」
 「いやいや、マリセウスがお熱になるくらいに別嬪さんになったとは聞いたけど、こりゃ思ってた以上だな!元気してたか~!?」
 「あああのあのおおおお、」
 「しっかしあんな小さかったのに、こうも成長するとはなんだか感慨深いなーっ!いくつになったんだ!?」
 「目が目が目がまわるぅううう」
 「そっかーっ!!こんな可愛い子が俺たちのお姫様になるなんてなーっ!!マリセウスも隅に置けないよなぁ!!なぁジー」

 乱暴に頭を撫でるその人が誰かを呼びかけたその時、痛烈な飛び蹴りが団長の顔にクリーンヒットし、その衝撃で「ぶふぉおぅ!!?」と汚い悲鳴と共に数メートルほど吹き飛ばされた。壁に頭をぶつけて転倒は停止する。

 「何アホやらかしてんですか。不敬罪で死にますよ。」

 「お、俺を蹴るのも不敬じゃない……?」

 「あ、ジークさん。お久しぶりです。」
 「『さん』付けはおやめください。我々は貴女と王太子殿下の臣下になる身、どうぞ呼び捨てして下さいませ。」
 「あ、はい。」

 騎士らしく礼をするジークは今しがた蹴り飛ばした団長の首根っこを掴み引き摺りながら「うちのアホが失礼しました」と謝罪する。マリセウスに対しても辛辣ではあったが、この団長に対してはそれよりも酷く辛辣ではある。
 さすがにそれはやりすぎなのでは?とヘルメスが宥めるが、直属の上司なので大丈夫です、とだけ答えた。絶対に大丈夫ではない。

*****

 「改めまして、お久しぶりです。フレッド団長。」
 「いンや、そう固い挨拶はナシナシ。普通にシグルドと呼んでくれてもいいンだぜ伯爵。」

 応接間にヘルメスと両親、騎士団長ことシグルド・フレッドは腰をかけて旅路のスケジュール確認を始める。外では連れてきた数人の騎士達が荷物運びをしてくれている最中で、ジークもその中に加わっていた。
 それにしてもフランクな話し方だ。やはり騎士団長ともなると伯爵よりも上の立場になるのだろうか?というか、恐らくそういう人柄なのだろうなとヘルメスは思った。

 「それにしても、こちらに到着されるのがとても速かったですね。」
 「まぁな。メルキア帝国と提携している裏ワザの使用許可が下りたおかげで早めに到着出来たぜ。」
 (裏ワザ?)

 シグルドは「本当にあれは便利だ」と笑いながら地図をテーブルの上に広げた。アスター大陸の南部の拡大地図、その北からサンラン国・メルキア帝国・神海王国ハンクスと並んでいる。カートン領は中央から西に位置する森林の多い平野。ここから中央の都心部へ馬車を走らせれば二時間ほどかかり、さらにそこからメルキア帝国との国境まで二時間。さらにもう二時間かけて今日の目的地である帝都・アーサーグラスに到着し、そこで一泊するというプランだ。
 まじまじと地図を見ていたヘルメスは、その帝都から神海王国ハンクスの王都であろうそこまでの道筋を見てみるととてつもない距離の旅になるのがわかる。
 しかし先程の話。マリセウスからの手紙は早馬をリレー方式で三日間かけて届いたのに対して、シグルドの裏技なるものでは……憶測だが四月一日にハンクスからこちらに来たのなら四日間かかっている事になる。
 どんな旅路になるのか想像がつかないヘルメスは、シグルドに質問する。

 「あの、団長様。よろしいですか?」
 「おいおい。マリセウスの嫁さんになるンだから、俺の事はシグルドと呼び捨てにしたほうがいいぞ?一応は王家に忠誠を立てているンだから。」

 その割にはタメ口なのだな、とカートン一家は思ったが口にはしなかった。


 「あ、はい。ええと……シグルド。今日のプランはわかりましたが、このペースだとハンクスに到着するまで何日ほどかかるのでしょうか?」
 「明日。」
 「……明日?」
 「明日の昼頃には王都に到着する。」

 シグルドの指は帝都・アーサーグラスから迷わず真っ直ぐに、王都・ボールドウィンへ滑らせた。
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