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第六話
旅立ち
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たったの一泊二日でどうやってハンクスへ行けるというのだろうか?空を飛べるわけでもないし、海沿いを行けば早そうに見えるが……帝国と提携している『裏ワザ』とやらの正体のイメージが全くつかない。それはどうして?と聞こうとするが、
「あー、教えたいのは山々なンだが……マリセウスからは『実際に目にしてから話したほうがいい』って言われてるから今は教えられない。」
とシグルドは申し訳なさそうに返答をする。
マリセウスは『実際に見てもらいたい』と思っているのだろうか?彼にとっては婚約者を喜ばせたいサプライズかもしれないが、当のヘルメスはモヤモヤが晴れずに「うーん、焦ったい……」という感想しか出てこない。百聞は一見にしかず、明日はそれを目にすることが出来るだろうから一旦忘れたほうがいいと結論が出た。
それと同時にジークが応接間にやってきた。荷物が積み終わったので、いつでも出発出来る。それを聞いたシグルドは腰を上げて、馬車の御者に今日のルートの説明をしてくるとその場を後にした。
「ヘルメスちゃんも挨拶したい人がいるなら、今のうちにしておくンだぞ?」
ああ、そうだ。メイドや使用人たちにも挨拶しなきゃだ。
さっきはキリコが囲まれていたのだから、今から改めて挨拶しに行こう。ヘルメスは使用人達の元へ速足で向かった。
*****
「お嬢様、お元気で!」
「どうかお気をつけて、行ってらっしゃいませ!」
「ありがとう。トッド、兄さんをよろしく頼むわね。」
「はい!」
「キリコもたまにお手紙を送って頂戴ね。」
「はい、侍女長!行って参ります!」
「ダリスじいさんも、今までありがとう。」
「ずびっ、お嬢様の事、絶対に忘れはしませぬぞぉ~……お嬢様を乗せて馬車を走らせたのは、わしにとっての自慢ですから~!!」
使用人たちと挨拶を済ませてから馬車に乗り込もうとするも、さらに見送りに来てくれたここで本当に最後の言葉を交わしていた。
お別れの実感がグッと強まると、「それじゃあ挙式でまた会おうね」と馬車に乗り込む直前に両親と最後に約束を交わり、とうとうこの家を離れることとなった。
乗り込んだ箱馬車には自分とキリコ、対面にはシグルドとジークが座ってくれていた。扉を閉めて暫くすればついに動き出し、両親と使用人達はヘルメスたちが見えなくなるまでずっと手を振って見送ってくれていた。
ヘルメスも小さな窓から同じくみんなが見えなくなるまで、うっすら浮かんだ拭いながらも笑顔で手を振り続けた……旅立ちってこんなにも辛いんだと、初めて別れを経験する。
「ヘルメスちゃんは、本当にみんなに慕われているンだな。」
「そうですね。私も屋敷のみんなが大好きでしたから……でもあんなにも泣いてくれるのは意外でした。」
カートンの屋敷が見えなくなっても、しばらくヘルメスは窓から顔を離さずにシグルド達に背を向けたままの姿勢になっていた。それがマナーとして悪い事とはわかっていたが、泣いた顔は見せたくなかったのと少し名残惜しい気持ちもあったからだろう。
「……これからは大変だぞ。国を支える一人になるということは、今の別れよりも辛い経験をたくさんしなきゃならねぇ。」
「はい。マリス様の側にいたい事を選んだ時から、そう心に決めました。」
「そっか。だけども、自分じゃ抱えきれない事が出来たらちゃんとマリセウスに相談したり……まぁ逆もある。マリセウスも国を支える一人だし、あいつが潰れそうになったらヘルメスちゃんも助けてやってくれ。」
そうだ、これからのがもっと大変なのだ。
国政を担う一員になって、王太子妃ともなれば他国の王族や要人たちにも、それだけではなくて国内貴族にも威厳を保ちつつ接していかなくてはいけない。
それは神海王国ハンクスの誇りのため、国民を守るため、何よりもマリセウスと王家の名誉がかかっている。自分が護りたいもののために、自分自身がそれらの足枷になるわけにはいかない……責任重大だ。
それでもヘルメスはその茨の道を選んだ。愛する人の隣にいたい純粋な願い、それを心の支えにして彼を支えていけるような立派な人間になりたい。彼が想う国の明日を、共に歩んでいきたい。とても大きなワガママだ。
これからどんな苦境が待っていようと、挫けない。だからこの別れの余韻に浸るのはもうやめだ。思い出はずっと心に留めておけばいい、忘れそうになったら日記に記せばいい……気持ちを切り替えていかねば。
「シグルド、ありがとうございます。私は」
忘れかけていた決意と覚悟を思い出させてくれて……とお礼を言おうと窓から顔を離してシグルド達に向き直った。
「本当……ぼん゛どう゛にっ!愛ざれ゛でンだなぁ……!!ずびぃ!!おれ、ごう゛い゛う゛のにっ、弱ぐでぇえ……っ!!!」
…………ヘルメス以上に別れのシーンに感動してめちゃくちゃ号泣しているシグルドを見た三人は、結構ドン引いた。
「あー、教えたいのは山々なンだが……マリセウスからは『実際に目にしてから話したほうがいい』って言われてるから今は教えられない。」
とシグルドは申し訳なさそうに返答をする。
マリセウスは『実際に見てもらいたい』と思っているのだろうか?彼にとっては婚約者を喜ばせたいサプライズかもしれないが、当のヘルメスはモヤモヤが晴れずに「うーん、焦ったい……」という感想しか出てこない。百聞は一見にしかず、明日はそれを目にすることが出来るだろうから一旦忘れたほうがいいと結論が出た。
それと同時にジークが応接間にやってきた。荷物が積み終わったので、いつでも出発出来る。それを聞いたシグルドは腰を上げて、馬車の御者に今日のルートの説明をしてくるとその場を後にした。
「ヘルメスちゃんも挨拶したい人がいるなら、今のうちにしておくンだぞ?」
ああ、そうだ。メイドや使用人たちにも挨拶しなきゃだ。
さっきはキリコが囲まれていたのだから、今から改めて挨拶しに行こう。ヘルメスは使用人達の元へ速足で向かった。
*****
「お嬢様、お元気で!」
「どうかお気をつけて、行ってらっしゃいませ!」
「ありがとう。トッド、兄さんをよろしく頼むわね。」
「はい!」
「キリコもたまにお手紙を送って頂戴ね。」
「はい、侍女長!行って参ります!」
「ダリスじいさんも、今までありがとう。」
「ずびっ、お嬢様の事、絶対に忘れはしませぬぞぉ~……お嬢様を乗せて馬車を走らせたのは、わしにとっての自慢ですから~!!」
使用人たちと挨拶を済ませてから馬車に乗り込もうとするも、さらに見送りに来てくれたここで本当に最後の言葉を交わしていた。
お別れの実感がグッと強まると、「それじゃあ挙式でまた会おうね」と馬車に乗り込む直前に両親と最後に約束を交わり、とうとうこの家を離れることとなった。
乗り込んだ箱馬車には自分とキリコ、対面にはシグルドとジークが座ってくれていた。扉を閉めて暫くすればついに動き出し、両親と使用人達はヘルメスたちが見えなくなるまでずっと手を振って見送ってくれていた。
ヘルメスも小さな窓から同じくみんなが見えなくなるまで、うっすら浮かんだ拭いながらも笑顔で手を振り続けた……旅立ちってこんなにも辛いんだと、初めて別れを経験する。
「ヘルメスちゃんは、本当にみんなに慕われているンだな。」
「そうですね。私も屋敷のみんなが大好きでしたから……でもあんなにも泣いてくれるのは意外でした。」
カートンの屋敷が見えなくなっても、しばらくヘルメスは窓から顔を離さずにシグルド達に背を向けたままの姿勢になっていた。それがマナーとして悪い事とはわかっていたが、泣いた顔は見せたくなかったのと少し名残惜しい気持ちもあったからだろう。
「……これからは大変だぞ。国を支える一人になるということは、今の別れよりも辛い経験をたくさんしなきゃならねぇ。」
「はい。マリス様の側にいたい事を選んだ時から、そう心に決めました。」
「そっか。だけども、自分じゃ抱えきれない事が出来たらちゃんとマリセウスに相談したり……まぁ逆もある。マリセウスも国を支える一人だし、あいつが潰れそうになったらヘルメスちゃんも助けてやってくれ。」
そうだ、これからのがもっと大変なのだ。
国政を担う一員になって、王太子妃ともなれば他国の王族や要人たちにも、それだけではなくて国内貴族にも威厳を保ちつつ接していかなくてはいけない。
それは神海王国ハンクスの誇りのため、国民を守るため、何よりもマリセウスと王家の名誉がかかっている。自分が護りたいもののために、自分自身がそれらの足枷になるわけにはいかない……責任重大だ。
それでもヘルメスはその茨の道を選んだ。愛する人の隣にいたい純粋な願い、それを心の支えにして彼を支えていけるような立派な人間になりたい。彼が想う国の明日を、共に歩んでいきたい。とても大きなワガママだ。
これからどんな苦境が待っていようと、挫けない。だからこの別れの余韻に浸るのはもうやめだ。思い出はずっと心に留めておけばいい、忘れそうになったら日記に記せばいい……気持ちを切り替えていかねば。
「シグルド、ありがとうございます。私は」
忘れかけていた決意と覚悟を思い出させてくれて……とお礼を言おうと窓から顔を離してシグルド達に向き直った。
「本当……ぼん゛どう゛にっ!愛ざれ゛でンだなぁ……!!ずびぃ!!おれ、ごう゛い゛う゛のにっ、弱ぐでぇえ……っ!!!」
…………ヘルメス以上に別れのシーンに感動してめちゃくちゃ号泣しているシグルドを見た三人は、結構ドン引いた。
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