オジサマ王子と初々しく

ともとし

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第六話

呼吸を整えよう

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 帝都アーサーグラスに到着する頃にはすっかり陽が落ちていた。
 ヘルメスの引っ越し荷物を積んだ幌馬車はグリーングラス商会アーサーグラス事務局が厳重に警備してくれるそうだが「衣類とか本しかないのに、少し大袈裟なのでは」と苦笑いをしてしまうくらい大それた事となった。
 宿泊先の宿は比較的シンプルでお安い所だろうともキリコと話してはいたが、各国の要人や資産家らの御用達の高級宿の上から三番目の高級な部屋に泊まることとなり、キリコは経験したことがないセレブ対応に目眩でよろけてしまった。
 王族といえども、お金は大切にしてほしいと口にすると「王太子殿下のポケットマネーですよ。」とジークはさらりと口添えをした。
 マリセウスから聞いた話では、創設者で会頭といえども本業が王太子殿下な上に滅多なことでは商会に顔を出さないから平の従業員よりかは給与はもらっていないと言っていたはず。……グリーングラスの従業員の給与が良すぎるのか、はたまた給与をコツコツ貯め込んでいたのか。どちらにせよやっぱりお金は大切にしてほしいとヘルメスは心の中で思った。

 「明日も早いから、今日は早めの寝て疲れをとってくれよな!」
 「朝の八時には朝食が取れるように起きていて下さい。」
 「はい。シグルド、ジーク。今日はありがとうございました。」

 おやすみなさい、と言うとシグルド達もそれに答えて退出した。
 それにしても本当に似ていないですね、とキリコは口にする。
 ここまでの旅路、馬車の中で雑談を交わしていたがシグルドとジークはなんと親子だった事がわかり、あまりの似ていなさにヘルメスとキリコは大変驚いてしまい、さすがに失礼なことをしてしまったと改めて猛省する。

 シグルド・フレッドはマリセウスとは幼馴染、四十三歳。元々は王都城下町の大通りにある靴屋の息子で、マリセウスと出会ったのは先々代の国王と共にお忍びで散策していたのがきっかけだったそうだ。
 ジーク・サディはそのシグルドの息子で二十三歳。団長のコネと思われたくないので母方の旧姓を名乗っている。驚くほどドライ(もとい生真面目)な男ではあるが、実は既婚者で二歳になる娘がいるとの事。
 ここまでの道のりは談笑しながらの旅路で、シグルドが何か楽しい話をすればジークが辛辣ながらも的確なツッコミを入れて、そのやりとりがなんだかんだヘルメスとキリコは面白くて終始笑いの絶えない時間を過ごした。似てない親子だと思ったが、二人は歯に衣を着せず裏表ない性格なのは似ているとヘルメスは思ったが、これを口にしたら「あんなのと似ているだなんて名誉毀損です」とジークに言われそうだったのでやめた。
 面白い話といえば、シグルドはマリセウスに今回の迎えについて酷く釘を刺されていた。
 「ヘルメスに惚れるな」、「ヘルメスほど魅力的な女性はいないから惚れるな絶対」、「可愛いから絶対に手を出すな」を出立する直前まで聞かされ続けた挙句に話の要所要所に惚気出すものだから、いつもの殿下じゃない!と宮殿は少しばかり騒然したそうだ……普段からどのような態度で過ごしているのか気になる。

 「そんなマリス様と明日にはお会い出来るのよね……。」
 「どうなさいましたか、お嬢様?」
 「数日しか会えなかったのに、とても長く感じていて。なのにいざ会えると思うと緊張しちゃって……。」
 「そうですよね……まさか本当に王子様とは思いませんでしたし。宮殿で再会するだけでも緊張しますのに、向こうに到着したら本気の王子様の出立いでたちをしているでしょうから余計に。」

 卒業パーティーのときの燕尾服姿、ヘルメスはそれを思い出すだけで胸がまたときめいてしまう。学院で再会したときのスーツ姿も男らしくて素敵ではあったが、内面の優しさや大人の魅力を引き出した燕尾服も素敵だった。
 ただでさえスペックが高い容姿をしているのに、王子様のスタイルで合間見えたら果たしてヘルメスは無事に立っていられるだろうか……。

 「…………って、いやいや!そういうのじゃなくてね?」
 「え、でも半分はアタリですよね?」
 「あ、当たってはいるけれども!向こうのご両親に会うからね!?」

 ……そうである。なんせ結婚するに至っての最も高くて大きな難関が『向こうの両親』なのだ。ヘルメスの両親は長年文通によってマリセウスの事を理解してくれた上に、今回の突然の婚礼も快く送り出してくれたのだから、信頼とはとても大切だ。
 対してマリセウスの両親……ハンクスの国王陛下と王妃殿下とはなんらやり取りすらしていない。情報がないというよりかは、彼の身分を隠し通すためにはそれは致し方ない所があったのだからと割り切れは出来る。しかし、やはり不安でしかない。あの王命の『早く来てね!』もなかなかフレンドリーだとは思うが、本当は『色々と問い質したいことがあるから早く来てね!』かもしれないし。
 一応は目の上に対しての挨拶は身につけているのだが、相手は国王。王族でもそんな挨拶でもいいのかとかなり不安になる。マリセウスに頼ればいいのだが、そんな事をしたら迷惑だろうしその程度の人間としか印象に残らない……やはり緊張する。

 「はぁあ~……眠れるかなぁ……。」
 「心配でしたら、今から湯船に浸かりましょうか?」
 「え~?湯浴みなら昨日したでしょ?」
 「いいえ、湯船に浸かれば心身共にリラックス出来ます。それに体も程よく温まり、寝つきがよくなるのですよ。……というかお嬢様。」
 「うん?」
 「明日は婚約者のご両親にお会いになるのに、湯浴みをサボるのはよろしくないでしょ?」
 「……そうだった。」

 キリコがいなかったら本当に印象がマイナスからのスタートになるところだった、ここはもう実家ではないのだからいつも以上にしっかりしないといけなかった。そう反省したヘルメスは部屋の浴場へと足を伸ばした。
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