40 / 227
第六話
呼吸を整えよう
しおりを挟む
帝都アーサーグラスに到着する頃にはすっかり陽が落ちていた。
ヘルメスの引っ越し荷物を積んだ幌馬車はグリーングラス商会アーサーグラス事務局が厳重に警備してくれるそうだが「衣類とか本しかないのに、少し大袈裟なのでは」と苦笑いをしてしまうくらい大それた事となった。
宿泊先の宿は比較的シンプルでお安い所だろうともキリコと話してはいたが、各国の要人や資産家らの御用達の高級宿の上から三番目の高級な部屋に泊まることとなり、キリコは経験したことがないセレブ対応に目眩でよろけてしまった。
王族といえども、お金は大切にしてほしいと口にすると「王太子殿下のポケットマネーですよ。」とジークはさらりと口添えをした。
マリセウスから聞いた話では、創設者で会頭といえども本業が王太子殿下な上に滅多なことでは商会に顔を出さないから平の従業員よりかは給与はもらっていないと言っていたはず。……グリーングラスの従業員の給与が良すぎるのか、はたまた給与をコツコツ貯め込んでいたのか。どちらにせよやっぱりお金は大切にしてほしいとヘルメスは心の中で思った。
「明日も早いから、今日は早めの寝て疲れをとってくれよな!」
「朝の八時には朝食が取れるように起きていて下さい。」
「はい。シグルド、ジーク。今日はありがとうございました。」
おやすみなさい、と言うとシグルド達もそれに答えて退出した。
それにしても本当に似ていないですね、とキリコは口にする。
ここまでの旅路、馬車の中で雑談を交わしていたがシグルドとジークはなんと親子だった事がわかり、あまりの似ていなさにヘルメスとキリコは大変驚いてしまい、さすがに失礼なことをしてしまったと改めて猛省する。
シグルド・フレッドはマリセウスとは幼馴染、四十三歳。元々は王都城下町の大通りにある靴屋の息子で、マリセウスと出会ったのは先々代の国王と共にお忍びで散策していたのがきっかけだったそうだ。
ジーク・サディはそのシグルドの息子で二十三歳。団長のコネと思われたくないので母方の旧姓を名乗っている。驚くほどドライ(もとい生真面目)な男ではあるが、実は既婚者で二歳になる娘がいるとの事。
ここまでの道のりは談笑しながらの旅路で、シグルドが何か楽しい話をすればジークが辛辣ながらも的確なツッコミを入れて、そのやりとりがなんだかんだヘルメスとキリコは面白くて終始笑いの絶えない時間を過ごした。似てない親子だと思ったが、二人は歯に衣を着せず裏表ない性格なのは似ているとヘルメスは思ったが、これを口にしたら「あんなのと似ているだなんて名誉毀損です」とジークに言われそうだったのでやめた。
面白い話といえば、シグルドはマリセウスに今回の迎えについて酷く釘を刺されていた。
「ヘルメスに惚れるな」、「ヘルメスほど魅力的な女性はいないから惚れるな絶対」、「可愛いから絶対に手を出すな」を出立する直前まで聞かされ続けた挙句に話の要所要所に惚気出すものだから、いつもの殿下じゃない!と宮殿は少しばかり騒然したそうだ……普段からどのような態度で過ごしているのか気になる。
「そんなマリス様と明日にはお会い出来るのよね……。」
「どうなさいましたか、お嬢様?」
「数日しか会えなかったのに、とても長く感じていて。なのにいざ会えると思うと緊張しちゃって……。」
「そうですよね……まさか本当に王子様とは思いませんでしたし。宮殿で再会するだけでも緊張しますのに、向こうに到着したら本気の王子様の出立をしているでしょうから余計に。」
卒業パーティーのときの燕尾服姿、ヘルメスはそれを思い出すだけで胸がまたときめいてしまう。学院で再会したときのスーツ姿も男らしくて素敵ではあったが、内面の優しさや大人の魅力を引き出した燕尾服も素敵だった。
ただでさえスペックが高い容姿をしているのに、王子様のスタイルで合間見えたら果たしてヘルメスは無事に立っていられるだろうか……。
「…………って、いやいや!そういうのじゃなくてね?」
「え、でも半分はアタリですよね?」
「あ、当たってはいるけれども!向こうのご両親に会うからね!?」
……そうである。なんせ結婚するに至っての最も高くて大きな難関が『向こうの両親』なのだ。ヘルメスの両親は長年文通によってマリセウスの事を理解してくれた上に、今回の突然の婚礼も快く送り出してくれたのだから、信頼とはとても大切だ。
対してマリセウスの両親……ハンクスの国王陛下と王妃殿下とはなんらやり取りすらしていない。情報がないというよりかは、彼の身分を隠し通すためにはそれは致し方ない所があったのだからと割り切れは出来る。しかし、やはり不安でしかない。あの王命の『早く来てね!』もなかなかフレンドリーだとは思うが、本当は『色々と問い質したいことがあるから早く来てね!』かもしれないし。
一応は目の上に対しての挨拶は身につけているのだが、相手は国王。王族でもそんな挨拶でもいいのかとかなり不安になる。マリセウスに頼ればいいのだが、そんな事をしたら迷惑だろうしその程度の人間としか印象に残らない……やはり緊張する。
「はぁあ~……眠れるかなぁ……。」
「心配でしたら、今から湯船に浸かりましょうか?」
「え~?湯浴みなら昨日したでしょ?」
「いいえ、湯船に浸かれば心身共にリラックス出来ます。それに体も程よく温まり、寝つきがよくなるのですよ。……というかお嬢様。」
「うん?」
「明日は婚約者のご両親にお会いになるのに、湯浴みをサボるのはよろしくないでしょ?」
「……そうだった。」
キリコがいなかったら本当に印象がマイナスからのスタートになるところだった、ここはもう実家ではないのだからいつも以上にしっかりしないといけなかった。そう反省したヘルメスは部屋の浴場へと足を伸ばした。
ヘルメスの引っ越し荷物を積んだ幌馬車はグリーングラス商会アーサーグラス事務局が厳重に警備してくれるそうだが「衣類とか本しかないのに、少し大袈裟なのでは」と苦笑いをしてしまうくらい大それた事となった。
宿泊先の宿は比較的シンプルでお安い所だろうともキリコと話してはいたが、各国の要人や資産家らの御用達の高級宿の上から三番目の高級な部屋に泊まることとなり、キリコは経験したことがないセレブ対応に目眩でよろけてしまった。
王族といえども、お金は大切にしてほしいと口にすると「王太子殿下のポケットマネーですよ。」とジークはさらりと口添えをした。
マリセウスから聞いた話では、創設者で会頭といえども本業が王太子殿下な上に滅多なことでは商会に顔を出さないから平の従業員よりかは給与はもらっていないと言っていたはず。……グリーングラスの従業員の給与が良すぎるのか、はたまた給与をコツコツ貯め込んでいたのか。どちらにせよやっぱりお金は大切にしてほしいとヘルメスは心の中で思った。
「明日も早いから、今日は早めの寝て疲れをとってくれよな!」
「朝の八時には朝食が取れるように起きていて下さい。」
「はい。シグルド、ジーク。今日はありがとうございました。」
おやすみなさい、と言うとシグルド達もそれに答えて退出した。
それにしても本当に似ていないですね、とキリコは口にする。
ここまでの旅路、馬車の中で雑談を交わしていたがシグルドとジークはなんと親子だった事がわかり、あまりの似ていなさにヘルメスとキリコは大変驚いてしまい、さすがに失礼なことをしてしまったと改めて猛省する。
シグルド・フレッドはマリセウスとは幼馴染、四十三歳。元々は王都城下町の大通りにある靴屋の息子で、マリセウスと出会ったのは先々代の国王と共にお忍びで散策していたのがきっかけだったそうだ。
ジーク・サディはそのシグルドの息子で二十三歳。団長のコネと思われたくないので母方の旧姓を名乗っている。驚くほどドライ(もとい生真面目)な男ではあるが、実は既婚者で二歳になる娘がいるとの事。
ここまでの道のりは談笑しながらの旅路で、シグルドが何か楽しい話をすればジークが辛辣ながらも的確なツッコミを入れて、そのやりとりがなんだかんだヘルメスとキリコは面白くて終始笑いの絶えない時間を過ごした。似てない親子だと思ったが、二人は歯に衣を着せず裏表ない性格なのは似ているとヘルメスは思ったが、これを口にしたら「あんなのと似ているだなんて名誉毀損です」とジークに言われそうだったのでやめた。
面白い話といえば、シグルドはマリセウスに今回の迎えについて酷く釘を刺されていた。
「ヘルメスに惚れるな」、「ヘルメスほど魅力的な女性はいないから惚れるな絶対」、「可愛いから絶対に手を出すな」を出立する直前まで聞かされ続けた挙句に話の要所要所に惚気出すものだから、いつもの殿下じゃない!と宮殿は少しばかり騒然したそうだ……普段からどのような態度で過ごしているのか気になる。
「そんなマリス様と明日にはお会い出来るのよね……。」
「どうなさいましたか、お嬢様?」
「数日しか会えなかったのに、とても長く感じていて。なのにいざ会えると思うと緊張しちゃって……。」
「そうですよね……まさか本当に王子様とは思いませんでしたし。宮殿で再会するだけでも緊張しますのに、向こうに到着したら本気の王子様の出立をしているでしょうから余計に。」
卒業パーティーのときの燕尾服姿、ヘルメスはそれを思い出すだけで胸がまたときめいてしまう。学院で再会したときのスーツ姿も男らしくて素敵ではあったが、内面の優しさや大人の魅力を引き出した燕尾服も素敵だった。
ただでさえスペックが高い容姿をしているのに、王子様のスタイルで合間見えたら果たしてヘルメスは無事に立っていられるだろうか……。
「…………って、いやいや!そういうのじゃなくてね?」
「え、でも半分はアタリですよね?」
「あ、当たってはいるけれども!向こうのご両親に会うからね!?」
……そうである。なんせ結婚するに至っての最も高くて大きな難関が『向こうの両親』なのだ。ヘルメスの両親は長年文通によってマリセウスの事を理解してくれた上に、今回の突然の婚礼も快く送り出してくれたのだから、信頼とはとても大切だ。
対してマリセウスの両親……ハンクスの国王陛下と王妃殿下とはなんらやり取りすらしていない。情報がないというよりかは、彼の身分を隠し通すためにはそれは致し方ない所があったのだからと割り切れは出来る。しかし、やはり不安でしかない。あの王命の『早く来てね!』もなかなかフレンドリーだとは思うが、本当は『色々と問い質したいことがあるから早く来てね!』かもしれないし。
一応は目の上に対しての挨拶は身につけているのだが、相手は国王。王族でもそんな挨拶でもいいのかとかなり不安になる。マリセウスに頼ればいいのだが、そんな事をしたら迷惑だろうしその程度の人間としか印象に残らない……やはり緊張する。
「はぁあ~……眠れるかなぁ……。」
「心配でしたら、今から湯船に浸かりましょうか?」
「え~?湯浴みなら昨日したでしょ?」
「いいえ、湯船に浸かれば心身共にリラックス出来ます。それに体も程よく温まり、寝つきがよくなるのですよ。……というかお嬢様。」
「うん?」
「明日は婚約者のご両親にお会いになるのに、湯浴みをサボるのはよろしくないでしょ?」
「……そうだった。」
キリコがいなかったら本当に印象がマイナスからのスタートになるところだった、ここはもう実家ではないのだからいつも以上にしっかりしないといけなかった。そう反省したヘルメスは部屋の浴場へと足を伸ばした。
0
あなたにおすすめの小説
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
砕けた愛
篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。
あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。
さら
恋愛
私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。
そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。
王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。
私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。
――でも、それは間違いだった。
辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。
やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。
王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。
無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。
裏切りから始まる癒しの恋。
厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。
しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。
友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。
『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。
取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。
彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。
婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―
鷹 綾
恋愛
隣国の王子から「政略的にも個人的にも魅力を感じない」と婚約破棄された、ファンタジア王国第三女王タナー。
泣きも怒りもせず、彼女が考えたのは――「いつか王宮の庇護がなくなっても困らない生き方」だった。
まだ八歳。
それでも先を見据え、タナーは王都の片隅で小さなファンシーショップを開くことを決意する。
並ぶのは、かわいい雑貨。
そして、かわいい魔法の雑貨。
お茶を淹れてくれるクマのぬいぐるみ店員《テイデイ・バトラー》、
冷めないティーカップ、
時間になると小鳥が飛び出すアンティーク時計――。
静かに広がる評判の裏で、
かつての元婚約者は「お人形さんを側室にしようとして」赤っ恥をかくことに。
ざまぁは控えめ、日常はやさしく。
かわいいものに囲まれながら、女王は今日も穏やかにお店を開けています。
---
この文面は
✔ アルファポリス向け文字数
✔ 女子読者に刺さるワード配置
✔ ネタバレしすぎない
✔ ほのぼの感キープ
を全部満たしています。
次は
👉 タグ案
👉 ランキング用超短縮あらすじ(100字)
どちらにしますか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる