オジサマ王子と初々しく

ともとし

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第十二話

マーブリングするサロン

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*****

 エヴァルマーの血を引き、かつ王族として国家を支える者には海神わだつみより祝福を賜るとされている。
 祝福、というのは「健やかに」という意味合いではなく、とある能力を授かるという意味である。

 国王デュランには『炯眼けいがん』と呼ばれる人間の能力を見抜く祝福がある。見られた本人には自覚のない潜在能力も見抜くほどの精度があり、それを引き出して彼らに適した仕事内容などを割り振れている。そこから才能が開花すれば彼らにはより明るい未来、ついでに国家も安泰する。俗に言う「ウィンウィン」な関係性である。
 臣下に降ったジャクリーンにも祝福が備わっている。父の祝福に近いが、ジャクリーンの場合は人間の本質・深層心理を見抜く眼『慧眼けいがん』と言うものだ。
 集中してその人間を見つめれば、「なんかそれっぽいオーラ?みたいなのが見える。」と二人は言う。……要に、それっぽいオーラが見えても、その意味がわからなければ無用の長物ともなる能力。才能と努力がなければ活かせないので、貰った側からすればなかなかにハードルが高いものだ。

 「それで私が公爵家に嫁いだとき、祝福の八割は海神に返還したのよ。」
 「八割も、ですか?」
 「基本的には使えるけれども、先程ヘルメスちゃんの顔を覗いていたわよね?完全なものだったら、遠くから見てもわかるけれど、今となってはあれくらいの距離がないと見抜けないの。最近は新興貴族も出てきてはいないし、ほとんど使ってないわね。」

 ヘルメスのように、王家に嫁ぐ人間が現れれば先程のように遠慮なく覗き込むが、社交界ともなればそれこそ失礼にあたるので滅多に出来ない。それに長くその世界を見渡してきたから、もうそんな事をする必要もあまりなく、「なんとなく為人がわかる」ようになってきたとの事。
 嫁ぐと決まった当初、祝福は任意で返還は出来ると知り、王女の頃よりも多く人と接する機会が増えるものの、完全に頼りっぱなしも嫌だと悩んだ末の折衷案だった。過去を辿ると大体のエヴァルマー家の血を引くものは臣属に降る際には祝福を全て返還していたらしいが……ああなるほど、使用する機会がめっきり減ったから後々返還したのかとジャクリーンは理解したのであった。

 「だから十分に祝福を使える人間は、国王陛下と兄様ぐらいしか今はいないわ。」
 「そうなのですね。マリス様の祝福の能力はどのようなものなのですか?」

 純粋な疑問を抱いたヘルメスは隣のマリセウスを見ると、少し苦笑いをしながら答えた。

 「父とジャクリーンに比べれば大したものではないよ。」

 「そんな事ありませんわ!叔父様ならどんな祝福でもきっと素晴らしく活かせますわ!」

 ちょっとした自嘲ではあったのに、やや大きめな声でそれを否定したのは今回の話題の中心人物……ターニャであった。

 そもそもなんで祝福の話題になったかと言うと、ターニャがヘルメスに対して塩気の強い対応をしてしまい、その場の空気が酷く凍りついたのが始まり。
 完璧でどこに出しても恥ずかしくない娘がこんな真似をするなんて、大体のことは想定してはいたがそれ以上に辛辣であったことにロレンスは酷く驚いた。
 ヘルメスとマリセウスも突然のことで頭が真っ白になり、何をされたのか若干理解が出来なかった。
 この空気を変えようと、ロレンスはサロンに向かってお茶会にしようと促し、改めてヘルメスの自己紹介から始まりターニャにあまり話させないようにジャクリーンがその場を支配した。
 その流れで祝福の話になったのだが、「よくよく考えたら王族以外に他言無用の話題だったわ」とある程度話してところでジャクリーンは思い出したのだ。蛇足である。

 大好きな叔父のフォローをするために意気揚々と口を挟み、とにかく叔父を褒め倒す褒め倒す……。その様子をロレンスとジャクリーンは頭を抱えてアレンは少し引いてしまっていた。
 さすがに妹夫婦たちの顔からするに、酷く悩んでいるのだろうと察したマリセウスは流れを汲まず、本題に入ることを決めた。

 「ありがとうターニャ。ところで話は大分変わるのだが、縁談を全て断っているそうじゃないか。」
 「はい。お相手の方とお見合いをしておりますが、家柄は良くともあまり良き人柄ではないと。」
 「人柄かぁ。最後に見合いをしたホードック侯爵家子息は、良き相手だと思うのだが。」

 ホードック侯爵と聞いたヘルメスは「あ、特産が梨のところか。」と頭に浮かんだ。と同時に妃教育で家名と爵位が身についている自覚も芽生えてなんだか嬉しかったりもする。

 「領地運営は無難といえば無難。そこからどうやって発展させて行くか聞きましたの。でも向上心がないと申しますか、治安維持ばかり優先して考えておりました。」
 「あちら方面の治安は良い。それを維持するのは良いことだとは思う。」
 「治安が良ければ住みやすい街にも出来ますのに、住宅関連……主に不動産に対して欲がないと申しますか。とても惜しい方でしたわ。」

 はぁ、とターニャは軽くため息をついてから一口紅茶を飲み、

 「やはり叔父様のような殿方が一番良いです。」

 と。
 あ!これ馬車で聞いた話に似ている!とヘルメスは予習してきた内容がテストに出てきたときのような小さな喜びを感じた。
 思わず小さく笑いそうになるも、ロレンスの穏やかな口調ながらも叱責と重なり、それは上手い具合にかき消された。

 「ターニャ。縁談は家の為でもあるのを知っているだろう?今までの君はそんな我儘を言わずに、ずっと家を優先で頑張ってきたのに、どうしてなんだい?」
 「叔父様をお慕いしているからです!」

 そうだよなー、大好きな叔父さんみたいな人がいいよなーと何故かヘルメスはとても楽観していた。というのも、学院時代には必ず生徒の中にはファザコンやマザコンの生徒もいたので、「叔父コンだってきっといるさ」なんて思っている。叔父コンだから彼を褒め倒すし、慕うのも理解出来てしまう。なんという危機感の無さ。
 そんなヘルメスの心中など知らず、兄の婚約者の前でなんて不敬な態度を取るのだろうと、母であるジャクリーンはついに怒り出した。

 「ターニャ!いい加減になさい!兄様と貴女はどう足掻いても結ばれない関係なのよ!いつまで幼い子供のような夢を話しているの!」
 「そうだぞ。大体義兄上は仕事バカだし、舞踏会では女性とダンスはしないし、たまに歓談すると仕事の話しかしないつまんない男なんだぞ!!」
 「ひどいなロレンス。」

 ここぞとばかりに追撃する父ロレンスだが、追撃内容が娘のことではなく、何故か義兄の事でそれもそこそこ酷い。「何言ってるんですか父上」と冷や汗をかきながらアレンはそれを制止させた。義兄でしかも王太子殿下なのだから、不敬この上ない……せっかくの母の切り込みが台無しになる。と、

 「あ、あの!待ってください!」

 喧々轟々とサロンが騒がしく中、ヘルメスは意を決して挙手した。自分がどうして呼ばれたのか未だに不明だが、この場にいるということは何か意見を投じてもいいはずだ。
 デニー家にとって未知の存在のヘルメスが、この状況で何を口にするのだろうか……皆が固唾を飲んで見守った。

 「マリス様はつまらない方ではなくて、仕事が趣味なだけなので、そこは訂正していただけませんか!?」

 「そっち!?」

 思わずヘルメス以外の全員が驚きの声をハモらせた。

 サロンの端で待機していたジークとキリコは思った。
 「これは荒れるぞ。」と確信した。
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