オジサマ王子と初々しく

ともとし

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第十三話

不器用たちは解明する(ただし不正解)

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 叔父に恋をしたのはいつ頃だったのか覚えていない。でも恋をする理由はたくさんあった。
 優しくて紳士的かつ仕事に真面目に取り組み、決して他者に媚びようとせずに自分自身で道を開く力があり、それでも手を伸ばして助けたい者を救おうとする姿勢。王となるべく人として良き人間性を持ち合わせていた。
 ただ、他の男性よりも紳士的で隔てなく優しい人だったため、勘違いする令嬢や夫人はたくさんいたのも事実。
 母曰く、「あれはお仕事用よ。普段は仕事以外のコミュケーション能力なんて皆無に等しいもの。」らしい。……臣下との繋がりを円滑のいいものにしたいが、一部ではそれが裏目に出る事が多いそう。だから未だにコミュニケーションが下手くそだと言われている。納得だ。
 それでも私は叔父が好きなのだ。この人の隣にいれば、どんなに嬉しい事だろうと。幼いなりに、頑張って近づきたいから両親に妃教育を受けさせてもらえるようにお願いした。最初こそは本気ではないと思われていたが、上位の教育を受けて身につけば自信がつくのとどこへ嫁いでも恥ずかしくない娘になれると考えに至ったらしく、教育を受ける事が出来た。
 だけども三年ほど前からだろうか、両親はもう妃教育をやめるように説得された。法律も道徳からも親族間の婚姻ならびに子を成すことは許されないのは知っていた。わかってはいる、そんな大事なことは。
 理屈ではなく、胸に秘めた想いを焦がしたまま抱えきることは出来ない。だから何度も叔父に伝えた。「お慕いしております」、「どうか隣に置いて下さい」、「貴方以外の殿方など考えられません」と。
 ……悲しいことに、全て流された。振られるならどんなによかったものを。私の告げた言葉は残念なことに『姪から叔父へ』という関係上、叔父にとっては「姪から好かれている」程度にしかならなかったのだ。
 子供のようなつまらない意地で、せめて振られるまで……いいや、ひとりの女性としてしっかりと失恋出来ればと。だから無駄に固執してしまった。諦めているはずなのに、やはり恋心の灯火は簡単には消えてくれなかった。どう足掻いても、彼が好きなのだ。だから妃教育もやめたくはなかった。
 だけども、やめざる得なかった。国王陛下よりのお触れ書きを目にして、ようやく私は妃教育をやめたのだ。

 「十五年の、一途な想い……。」

 それを向けていたのは、私と同い年の、異国の伯爵令嬢だった。

*****

 「はぁああ~……まさかこんなに素敵なものを手にして見られるだなんて。」
 「わ、私もです……ここまで熱心に話しを聞いて下さった方は。義兄上のお話以上に、本当に造作が深いのですねヘルメス嬢。」
 「いえいえ、私なんかはまだ青いですよ……ふぅ。」

 シャンデリアの備品であろう、ガラスを汚さないように自分のハンカチで持ちながらそっと専用の小箱に戻した。
 そこまで大事にしなくともと、質問責めされて疲労困憊のロレンスは言ったがヘルメスにとっては貴重なものであるのと同時に、人様の大事なものと認識している。宝石と同等の扱いをするのは当然だろうとも思っていた。

 「ところで先程、公爵夫人の大きな声が聞こえましたが、大丈夫なのでしょうか?」
 「へ?そんなことあったの?」
 「お嬢様は集中力が凄まじかったので聞こえてないようでしたが……。」

 キリコがそういうと、耳に全く入らなかったヘルメスは思わず苦笑いをしてその場を誤魔化そうとした。
 するとまもなく、部屋のドアをノックする音。あ、そうだ、お水のおかわりをお願いしたから持ってきてくれたのかな?とヘルメスは思い出したが、入ってきたのはマリセウスだった。

 「義兄上。ジャクリーンとのお話は終わったのですか……って。」
 「ま、マリス様?その頬はどうされたのですか!?」
 「それがその……ジャクリーンに『おバカ!』って言われながら、思い切り両方つねられて。」

 いつものシャープな顔立ち(というか長方形に近い)は頬が真っ赤で丸くなっていた。その隣にいるジークは真顔で肩をブルブルと震えさせている。あれは笑い堪えているのだろうと全員は思った。まるで心配していない。

 「喧嘩でもしてしまいましたか?」
 「いいや。ターニャの真意がわかってね。それに気がつくのが遅れて怒られたようだ……。」

 それを聞いた父ロレンスと弟アレンは「ああついに。」と、ようやくターニャがひとつの失恋をしたことを知った。それはとても悲しいことかもしれないが、ひとつの人生の節目だ。姉は、娘はそれを知ってついに前進出来るきっかけが出来たのだ。前向きに捉えていこう。夕餉のときはどうやって励まそうかと思っていた所……。

 「私が長年、婚約者がいないことを懸念していて生涯を独り身で過ごすと思っていたらしくて……どうやら私の養女になって王位継承をするつもりだったんだ。」

 ヘルメスの隣に腰掛けながら、元凶は言った。
 正面にいる親子は思わず「は?」な顔をしている。

 「ジャクリーンから聞いたんだ、幼い頃から妃教育をしていたそうで、私とヘルメスの婚姻のお触れ書きが出回るまで受けていたそうだよ。」
 「そうだったのですか。……お優しい方ですね、マリス様のために健気に尽くしていただなんて。」
 「うん。これは怒って当然だろうね……長年、君とのことをターニャには隠してきたせいで、いきなり目標を断たれたのだから。」

 違う、全く違う方向です義兄上。そう言いたいが『ヘルメスのことを隠してきた』という部分だけは正解しているので、完全に見当違いというわけではないのが余計にもどかしい。
 ヘルメスはヘルメスでターニャが自分の婚約者に片想いをしているだなんて全く気が付いていない。挨拶したときの塩対応とサロンでのやり取りでなんとなく察することは出来るだろうが、恋敵などとは無縁に育ってきた田舎令嬢には難しいものだ。
 と、ここでその田舎令嬢は何かに気がついたようにハッとした。あ、もしかしてようやく娘の心中を察せたりしたかも!と淡い期待を抱いた。

 「もしかして、私も呼ばれた理由ってそういう事では……。」
 「ヘルメス?」
 「ずっと私まで、初めてお会いするターニャ様の説得をしないといけないのかわかなかったのですが、たった今マリス様のお話を聞いてわかりました!」

 おお、これは期待出来そうだ!仕事バカの義兄より冴えているのでは?とロレンスは小さくガッツポーズをして、ようやく中途半端な片恋が終わるを告げるぞ!とアレンも思わず拳を握る。

 だがやはり、この王太子にしてこの婚約者ありだった。

 「私とターニャ様、少し境遇が似ていませんか?私は十五年もマリス様に会わずに淑女の教育を受けて、ターニャ様はマリス様のためにそれ以上の年月を費やして、妃教育を受けてきたという部分。」
 「似ている……といえばそうだろうけど、それが何か?」
 「つまり、境遇が似ている私にマリス様の養女になってもらうのを諦めるように説得して欲しいんですよ!似ているという事は少しは親近感が持てるから!さらに同い年の母親がいたら複雑ですし!」

 ((そっちかぁああ~っ!!!))

 小さな歓喜はあっという間に萎れた。がっかりした。でも説得して欲しい部分は少し当たっている。娘には義兄への恋慕を諦めて欲しいのは確か。だが、恋慕の部分は全く理解していない。驚きの解釈、想像力。
 しかしこの説、少し強引すぎるのではないかとデニー親子は思った。ちらりと娘が恋焦がれている義兄の顔を見てみる。

 「くっ……、なんてこった。そういう深い意味があっただなんて……!」

 自らの膝をぱちんと叩いて、自分の発想がいたらなかったと悔しそうに納得していた。

 ロレンスとアレンは思った。
 「もうダメだこれ。」
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