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第二十九話
しんがり
しおりを挟む残されたスケジュールは人前式のみとなる。
ここからはエヴァルマーとカートンの親族を交えての食事会。将軍と三大組織の長、宣誓の儀立会人であるダイアナとシルズ首相とはここまでとなる。
ヘルメスは二人に何度も感謝をして見送ると、残されたデニー夫婦と共に国王たちがいる式場へとマリセウスと共に案内する。
式場と言っても身内や親しい間柄の人々を招いて集まる食堂のようなもの。ご自分の邸宅のダイニングだと思ってごゆっくり出来れば幸いですとマリセウスは婚約者の家族を迎え入れる。
セネルは本当ならば自身の両親、ヘルメスの祖父母にあたる二人も連れてくるべきではあったが長年の夢であった世界旅行へと赴いているため呼べなかったことを謝罪するもマリセウスはすかさずスケジュールを強行したこともあるため、謝らないで欲しいと逆に謝罪した。
また謝罪の応酬が始まるかと思ったが、ジャクリーンは察知したのか、二人が頭を下げる姿勢に入る前に「そのお話は式場に着いてからにしましょうよ」と促し、謝り合戦の開戦を阻止した。さすがである。
「エヴァルマー家のご親族は何名ほどいらっしゃいますか?」
「母方の従弟がひとり。叔父上はスケジュールが合わなくて欠席でして……。あとは妹夫婦と甥と姪。ので両親を除けば五人ほど。」
「そうでしたか。てっきり大人数でいらっしゃるかと。」
「他は遠縁になりますよ。大昔に臣属に降った先祖が数名いますが、私の代で交流のある人々のが馴染めると思いまして。」
エヴァルマーと所縁あるもの、といえば現国王デュランでも交流があるかもわからないほどいるだろう。
彼らも海神の声が聞こえるのだろうかと純粋な疑問が浮かんだが、あの神託の間に入れる人間は限られている。国王の両親、祖父母、伴侶とその間に生まれた子、その孫までが立ち入りが許されているが今回はジャクリーンの娘と息子は許されていない。要に『一度でも王族として籍を置いたもののみ』が対象となっているのだ。臣属に降った本人しか立ち入りが許可されていない上に口外は厳禁となっており、結果『神前式に出席する』と他者が聞いても宗教的な儀式という認識しか出来ないわけだ。
そんな疑問をマリセウスに投げかけようとしたが、厳禁であるためヘルメスはうっかり尋ねようとしたが飲み込んだ。
「国内の貴族らが集まる機会でエヴァルマーの遠縁と名乗る者も披露宴当日、伯爵に声をかけてくる輩がいるやもしれませんが、もし何か言い寄られても『娘夫婦を通してくれたら有難い』とお答え下さい。私が突っぱねますので。」
「わ、私も突っぱねますよ。」
自分の両親に迷惑をかける輩は許さんとばかりにヘルメスも参戦する。その様子がなんだか愛らしく感じてしまい、つい笑みを溢しながら「それは頼もしい」と発するマリセウス。
ちょっとは大人びてきているのに、まだ幼さが残ってる健気な姿を見るとつい甘やかしてしまいたくなるが、それはさすがに彼女の矜持を侮辱する真似になるだろう。実際、先ほどの笑みをまだあどけない子のように捉えられたと思ったヘルメスは、
「まだ頼りないかもしれませんが、マリス様ばかりにお任せさせてしまうのはよくないですし、頑張りますよ。」
とこれまた健気に言葉を続けた。
それがまた愛しくていじらしい。しかし、淑女として接しないときっと拗ねてしまうだろう。……拗ねた顔も見てみたいが、それは嫌われてしまうかも。本音は奥に閉まっておこう。
「そうだね。その時は君を頼ってもいいかな?」
「はい。頼ってくださると嬉しいです。」
……そんな微笑ましいやり取りを、後ろから眺めていたグレイは煮え切らない自分のモヤモヤした気持ちが嫌になってきた。
本当に互いに向き合っていて愛情があり、そこに入り込む隙はないようにも見える。だからこそ、どうすれば王太子を信用できるのだろうと考える。妹たちの年齢差や身分差を考慮すればするほど、とてつもない不安に押し寄せられる。
この中で一番現実的かつリスクを理解しているのは恐らく自分だろうとグレイは思っている。
しかし真の意味で理解しているのは、まさに仲睦まじい二人……張本人たちだ。
グレイは決して浅慮な人間ではない。ただ不安と周囲に追いつけないから状況に飲み込まれるばかりで、心に余裕が少ないだけなのだ。反対したところで二人の仲を裂けるような力もない。もっと早くに追いつけたら、きっと二人を純粋にお祝いできたのに……そんな後悔すらある。
結局、グレイはただ拗ねていただけだった。そう己を後悔しながらずっと後ろで伏せていた。
(別に僕が何を言おうが、物事は進むんだ。無難に距離を置いて無事に結婚式さえ終わればいいか……。)
これ以上妹達と接触しても特別な事は何も出来ない。せいぜい出来ても謝罪くらいしかないだろう。出来れば式までにそれが出来ればいいけれど……そう考えていた。
だが、人の心とはわからない。
この後グレイは距離を無理やり詰められることを、この時はまだ知る由もなかったのだ。
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