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玖賀の過去
魂の伴侶
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「はぁ、はぁ、くそっ……」
侵入者に復讐することに成功した。だが、陰から授かった力を使うと酷い苦しみに襲われる。まるで半身を無くしたような引き裂かれる痛み。これが力の代償なのだろうか。
人間だった頃に比べ、気持ちが不安定に変わった。時折、関係のない誰かを傷つけたくなった。
それに、中途半端な見た目のせいで人間にも陰にもなじめなかった。陰は他にも鬼のような異形を従えていた。意思疎通もできず、距離を置いていた。そのため、常に行動を共にしていない。だが、独りになると途轍もない孤独感に襲われた。
異形に対し仲良くなろうと試みたが凍てつくような寒気に諦める。異形の傍は居心地が悪かった。
こうして薄暗い洞窟から出ることもできず、今の玖賀はまさしく土蜘蛛のようだった。
「玖賀、いいものをやろう」
そんなある日、陰は一人の人間を連れてきた。不思議とその人間の傍にいれば、地獄の釜に焼べられたような苦しみはなくなる。ただ、陰の言うことを聞かなければ人間の傍にいさせてもらえなかった。
陰は玖賀に対し、様々な命令を下した。陰とは違い、人間の姿に近い玖賀。人攫いや人殺しなど、それは後に神隠しや祟り、呪いなどの言葉を生み出した。
――時は飛んで江戸。
「陰は人間になりたいのか?」
玖賀は少年の姿をした陰を見る。陰は醜い姿から青年の姿へと変わっていた。
「この方が活動がしやすい」
陰は嬉しそうに笑っている。だが、玖賀は滑稽だなと思っていた。姿の認識を変えたところで苦しみは消えない。むしろ、常時力を解放しているため苦しむ時間が増えるだけだ。
「それと名を光流に変えた。陰と呼ぶな」
住まいも、青葉の山から江戸へと移り住んでいた。光流は人間から小判や住処を奪い、財産を手にしていた。光流たちが住む大名屋敷には玖賀の知らない異能者も増えてきている。
「はいはい、光流さん」
玖賀は和室で寝転がっていた。着崩れた着物を適当に整える。
「そうだ、玖賀よ。また新しい陰陽師を攫ってこい」
光流は和室から縁側へと移動する。草履を履いて庭園に下りた。池に近づき、錦鯉に餌を与える。ゴボゴボと鯉は口を大きく開けて餌を飲みこんだ。
「この間、攫ってきたばかりだろ」
つい先日、玖賀は陰陽師を数名攫ってきたばかりだった。だが、その分過去に攫った陰陽師たちは死んでいく。玖賀と光流は鬼で長生きをしていたからだ。
「見た目を変えるのに力を使う。この間のやつは相性が悪かった」
光流は餌に群がる錦鯉を見る。光流と相性が良かった陰陽師は病気で亡くなってしまった。異能者に能力はあるが、病気を治せるほど万能ではない。
たしかに、この間攫った人間は相性が悪そうだった。人間の姿をしてから光流は性交をしたがっている。だが、相性が合わず性交どころか回復するに至ってはいない。現に光流の後ろ姿から黒い霧が出ている。陰陽師とまぐわなければ、数日で陰の醜い姿に戻ってしまうだろう。
「わかった、見た目の容姿に文句は言うなよ」
玖賀はふらり、と屋敷を出る。玖賀の見た目を怪しむ者はいなかった。玖賀も視界を支配する力を手にしている。玖賀は一町民として江戸を闊歩することができた。
昔と違い、堂々と江戸の街を闊歩するのが楽しかった。
「みー……」
精神動物の三毛猫が玖賀にすり寄る。玖賀は猫を抱き上げると、肩に乗せた。こうしていれば、能力持ちの陰陽師が寄ってくる。精神動物は異能者と陰陽師にしか見えない。
癒やしの力を持つ陰陽師には当たりと外れが存在していた。見分けるのが玖賀の役目。声を聞き分けて陰陽師と憶測をつける。光流にはまだ無い能力だ。
「かわいい猫だな」
背が低い少年が話しかけてきた。猫と同じような猫目をしている。異能者と陰陽師どちら側の人間だろうか?
「抱いてみるか?」
玖賀は少年に猫を抱かせた。猫は嬉しそうにゴロゴロと甘え出す。少し触らせたところで猫に指示を出した。
「うわっ……!」
少年の手から猫をすり抜けさせる。猫を追いかける少年を人気のない路地裏に誘導した。少年が猫を再び抱き上げたところで、猫の姿を消す。
「ぬらりひょんか……?」
不思議そうに首を傾げる少年。玖賀は少年の背後に歩み寄る。
「なんだ、その間抜けな名前は?」
玖賀は後ろから少年の身体に触れる。とくん、と心が温かくなった。間違いない、この少年は陰陽師だ。
「あ、え、お兄さんは妖怪?」
少年は頬を引き攣らせる。周りには誰もいなかった。
「妖怪? 私は鬼だ」
ミシミシと牙を出して少年を怯えさせる。恐れをなせば、人は簡単に言いなりになった。
「これでも喰らえ!」
少年は玖賀に御札を貼る。玖賀は何も感じなかった。元々、人間だからか御札は玖賀に効かない。
「く、くそっ……人攫いめ……」
陰陽師は玖賀を強く睨みつける。少年の目は藤色をしていた。
侵入者に復讐することに成功した。だが、陰から授かった力を使うと酷い苦しみに襲われる。まるで半身を無くしたような引き裂かれる痛み。これが力の代償なのだろうか。
人間だった頃に比べ、気持ちが不安定に変わった。時折、関係のない誰かを傷つけたくなった。
それに、中途半端な見た目のせいで人間にも陰にもなじめなかった。陰は他にも鬼のような異形を従えていた。意思疎通もできず、距離を置いていた。そのため、常に行動を共にしていない。だが、独りになると途轍もない孤独感に襲われた。
異形に対し仲良くなろうと試みたが凍てつくような寒気に諦める。異形の傍は居心地が悪かった。
こうして薄暗い洞窟から出ることもできず、今の玖賀はまさしく土蜘蛛のようだった。
「玖賀、いいものをやろう」
そんなある日、陰は一人の人間を連れてきた。不思議とその人間の傍にいれば、地獄の釜に焼べられたような苦しみはなくなる。ただ、陰の言うことを聞かなければ人間の傍にいさせてもらえなかった。
陰は玖賀に対し、様々な命令を下した。陰とは違い、人間の姿に近い玖賀。人攫いや人殺しなど、それは後に神隠しや祟り、呪いなどの言葉を生み出した。
――時は飛んで江戸。
「陰は人間になりたいのか?」
玖賀は少年の姿をした陰を見る。陰は醜い姿から青年の姿へと変わっていた。
「この方が活動がしやすい」
陰は嬉しそうに笑っている。だが、玖賀は滑稽だなと思っていた。姿の認識を変えたところで苦しみは消えない。むしろ、常時力を解放しているため苦しむ時間が増えるだけだ。
「それと名を光流に変えた。陰と呼ぶな」
住まいも、青葉の山から江戸へと移り住んでいた。光流は人間から小判や住処を奪い、財産を手にしていた。光流たちが住む大名屋敷には玖賀の知らない異能者も増えてきている。
「はいはい、光流さん」
玖賀は和室で寝転がっていた。着崩れた着物を適当に整える。
「そうだ、玖賀よ。また新しい陰陽師を攫ってこい」
光流は和室から縁側へと移動する。草履を履いて庭園に下りた。池に近づき、錦鯉に餌を与える。ゴボゴボと鯉は口を大きく開けて餌を飲みこんだ。
「この間、攫ってきたばかりだろ」
つい先日、玖賀は陰陽師を数名攫ってきたばかりだった。だが、その分過去に攫った陰陽師たちは死んでいく。玖賀と光流は鬼で長生きをしていたからだ。
「見た目を変えるのに力を使う。この間のやつは相性が悪かった」
光流は餌に群がる錦鯉を見る。光流と相性が良かった陰陽師は病気で亡くなってしまった。異能者に能力はあるが、病気を治せるほど万能ではない。
たしかに、この間攫った人間は相性が悪そうだった。人間の姿をしてから光流は性交をしたがっている。だが、相性が合わず性交どころか回復するに至ってはいない。現に光流の後ろ姿から黒い霧が出ている。陰陽師とまぐわなければ、数日で陰の醜い姿に戻ってしまうだろう。
「わかった、見た目の容姿に文句は言うなよ」
玖賀はふらり、と屋敷を出る。玖賀の見た目を怪しむ者はいなかった。玖賀も視界を支配する力を手にしている。玖賀は一町民として江戸を闊歩することができた。
昔と違い、堂々と江戸の街を闊歩するのが楽しかった。
「みー……」
精神動物の三毛猫が玖賀にすり寄る。玖賀は猫を抱き上げると、肩に乗せた。こうしていれば、能力持ちの陰陽師が寄ってくる。精神動物は異能者と陰陽師にしか見えない。
癒やしの力を持つ陰陽師には当たりと外れが存在していた。見分けるのが玖賀の役目。声を聞き分けて陰陽師と憶測をつける。光流にはまだ無い能力だ。
「かわいい猫だな」
背が低い少年が話しかけてきた。猫と同じような猫目をしている。異能者と陰陽師どちら側の人間だろうか?
「抱いてみるか?」
玖賀は少年に猫を抱かせた。猫は嬉しそうにゴロゴロと甘え出す。少し触らせたところで猫に指示を出した。
「うわっ……!」
少年の手から猫をすり抜けさせる。猫を追いかける少年を人気のない路地裏に誘導した。少年が猫を再び抱き上げたところで、猫の姿を消す。
「ぬらりひょんか……?」
不思議そうに首を傾げる少年。玖賀は少年の背後に歩み寄る。
「なんだ、その間抜けな名前は?」
玖賀は後ろから少年の身体に触れる。とくん、と心が温かくなった。間違いない、この少年は陰陽師だ。
「あ、え、お兄さんは妖怪?」
少年は頬を引き攣らせる。周りには誰もいなかった。
「妖怪? 私は鬼だ」
ミシミシと牙を出して少年を怯えさせる。恐れをなせば、人は簡単に言いなりになった。
「これでも喰らえ!」
少年は玖賀に御札を貼る。玖賀は何も感じなかった。元々、人間だからか御札は玖賀に効かない。
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