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27.新しい居場所

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 フェルが仲間になってくれたのは嬉しいけど、まずは彼女に伝えなくちゃいけないことがある。
 たぶんフェルは特に意識してなくて、これまでの冒険者生活で染み付いててそれが自然体なんだろうけど。

「じゃあ、まずは『様付け』をやめてもらおうかな? リリスやアンジェは僕の従者みたいな立場でもあるけど、フェルは違うしね。仲間同士、僕達に上下はないんだしさ!」

「そ、そんな……お、恐れ多いです! ――けど、ソーコ……さんがそれを望むなら……」

 フェルは、少しはにかみながら僕の名前を呼んでくれた。
 うん、まだぎこちなさを感じるけど、変に畏まられるよりこっちのほうが断然いい。

「うん、そっちのほうが僕はいいかな。あ、そういえばさっきレノが言ってたけど、ここで冒険者達を殺してないんだよね?」

「――っはい! 次にまた来ることがないように、多少、恐怖を植え付けましたが、外に追い出しただけでございます」

 レノは、背筋を伸ばしてハキハキと答えてくれた。
 フェルとは逆に、今度はレノが畏まってしまったみたいだ。

「良かったぁ……でも、よく殺さなかったね? 戻って来てない冒険者もいるって聞いてたから……てっきり、ね」

「来た者すべて殺してしまうと、人間は恐れて大軍を伴ってきますわ。そうなると面倒ですから、2度と来ないように少々恐怖を与えるだけにしておきましたの」

 少々、ね。
 妖艶な笑みを浮かべるリリスだけど、それがまた恐ろしい。
 まあ、とりあえず生きてるならいっか。
 ギルドに顔を出してない人もいるみたいだけど、今はビビって身を潜めてるのかな?
 ま、そのうち落ち着いた頃に、彼等もギルドに顔を出すだろう

「それなら良かった。殺しちゃってると後々面倒くさそうだしね。リリスからすれば彼らは不法侵入者だし、その対応で問題なさそうかな。あ、そうだ。ここのお城ってどうにかできる?」

「セバスの能力なのでいかようにも。主様といられるのなら、こんな城なんていらないですわ。ええ、潰してしまいましょう」

「はは……その気持ちはありがたいけど、眷属達の住む場所なくなっちゃうのに大丈夫? 今の僕達の家は借家だし、そんなに広くないから連れてっても2人くらいしか無理だよ?」

 AOLで使用してた屋敷のような大きな家を建てるには、今の僕達には分不相応すぎる。
 というか、単純にお金が足りない。
 あの頃の家を建てるのは、だいぶ先になりそうだなあ……。

「問題ありませんわ。そこら辺で生きられるでしょう、そうよね?」

 リリスの有無を言わさない圧に、レノは「もちろんでございます!」と慌てて頭を下げた。
 しかし、そこら辺って……まるで犬や猫みたいだな。
 かわいそうだけど、家を建てるまでは適当な場所で我慢してもらおう。

「でも、そうね……主様、世話をする者がいれば何かと便利かと思いますわ。2人ほど連れてってもよろしいでしょうか?」

「うん、いいよ」

「では――セバスとカミラに新しい家で主様に尽くすように伝えなさい。他の者達には、何かあったらすぐに来れる場所で暮らしなさい、と。いいわね?」

「承知いたしました」

 レノが慇懃に頭を下げる。
 セバスは白髪交じりの老紳士、執事みたいな感じで落ち着いてる吸血鬼だ。
 カミラは金髪ショートで、10代くらいに見えるかわいらしい女の子。
 2人とも純血種で強いし、家のことをしてくれるなら助かる。

「ありがとう。それじゃあ、後のことはレノに任せていいのかな?」

「は! お任せくださいませ!」

 レノが再度深く頭を下げた。

「……あなた、何を考えてるの?」

「な、なんでもないわ!」

 アンジェの指摘に、リリスが少し慌てたように否定するが、若干口元がニヤけてる……いったい何を考えてたんだろう?
 後のことはレノに任せ、僕達は一足先に城を出た。
 セバス達13人の眷属は、1日に数回、定期的に城に戻って来ているらしいので、そのタイミングで伝言を頼んだ。
 リリス曰く、この城はダンジョン化されているようで、ダンジョンの核が設置されているらしい。
 その核を破壊すると、ダンジョンとしての機能が失われ、ダンジョンそのものが崩壊しちゃうようだ。
 セバスは、それを創り出して城を建てる『固有能力ユニークスキル』のようだ。
 僕達が核を破壊してもいいけど、帰ってきた彼等に余計な驚きを与えないようそのままにしておいた。
 それにレノもいるしね。
 僕達は街に帰ると、まずは冒険者ギルドへと向かった。
 リリスは身分証となるものが無いので、1万ストを支払い滞在証をもらった。
 リリスの冒険者登録もしなきゃいけないし、どうせならセバスとカミラもいつか連れていこうかな。

「思ったよりは早く終わったね。まだお昼過ぎたくらいだし、家の鍵も貰いに行かないといけないから良かったよ」

「ソーコさんはお家を借りたんですか?」

「うん。ホームも作りたいから拠点が欲しくてね。フェルも今日からおいで」

「えっ!? フェ、フェルもいいんですか!?」

「もちろん! 部屋もあるし、そこが僕達の居場所だからね」

「居場所……ありがとうございますっ!」

 『居場所』と反芻するフェルは、花が咲いたような笑顔を見せた。
 うんうん、嬉しそうで何より。
 話を聞く限り、住んでたところはスラムではないけど、治安があまり良くないところみたいだ。
 それならここで一緒に暮らした方がいいってもんだ。
 僕は「どういたしまして」と笑顔で返し、冒険者ギルドの扉を開けた。

「――だから死んだと言ってるじゃないか!」

「ふざけないで!!」

 ギルドの中では、セシールとエリーさんが大きな声で言い争っており、全員がその光景を見つめていた。
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