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28.般若が見えた!

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 ギルド内で言い争う2人――エリーさんとセシールは熱くなっているせいか、入ってきた僕達には気付いてないようだった。

「ちゃんと説明してください!」

「だから何度も言ってるだろう! 吸血鬼がいる部屋まで辿り着いたが、あのFランク達が勝手に突っ込んで行ったと! 僕達も彼女達のせいで危険に晒されたから、一旦体制を立て直すためにすぐ逃げたんだぞ!」

「そんなことあるわけないじゃないですか! ソーコちゃんもアンジェちゃんも、そんな無謀な事する子達じゃないです! それに、フェルちゃんはどうしたんですか!?」

「ア、アレは巻き込まれて死んでしまっただけだ」

「――っ! ……じゃあ、あなたのその歯は何ですか? すぐ逃げたんですよね? 本当はあなたが戦ったけど、手に負えないから逃げ出したとかじゃないんですか? 低級のポーションじゃ、折れた歯は元に戻らないですからね」

「んなッ――!」

 正解です。
 まさに、今エリーさんが言った通りの出来事があったんだよね。
 セシールはズバリ言い当てられたのに驚いて、言葉に詰まっちゃってるし。

「本当のことを言ってください! 今もソーコちゃん達は――」

「ちょっと、アンタ! ギルドの受付嬢の分際で、セシール様に意見するつもり!? さっきから何度も説明してるでしょ!」

「そんなに気になるなら、あなたが行ってくればいいじゃないの。吸血鬼に血を吸われて、干からびた死体があるだけかもしれないけど」

「――っ!」

 そう言って、ミラとカーラはクスクスとエリーさんを小馬鹿にするように嗤った。

 ――ひどい……!

 エリーさんの目元に涙が溜まっているのが見えた。
 これ以上、エリーさんを悲しませるわけにはいかないと、慌てて僕は彼女の元へ向かった。

「エリーさん」

「え……えぇっ!? ソーコちゃん!?」

 エリーさんは僕の呼び掛けに気づくと、驚いた表情を見せた。

「は? ――はあっ!?」

「え!? 嘘っ!?」

「何であなた生きてるの……」

 セシール達は僕達の無事な姿を見ると、まるで幽霊でも見てるかのように、目がこれでもかと見開いている。
 そりゃそうだろう、絶対死んだと思ってたのに、傷一つなく、誰一人欠けることなく目の前にいるんだから。

「やだなー、死んでないですよ。ああ、あなた達は僕らに《麻痺パラライズ》を放って逃げ出したから知らなかったですよね」

 僕の言葉に、ギルドの中が一瞬で静まり返る。
 そして、全員の視線が一斉にセシール達に集まった。

「何でしたっけ? ああ、思い出した。確か僕達のことを『肉の盾』とか呼んでましたよね。ほんと、逃げ足だけは『流星』並の速さでしたね」

 皮肉をたっぷり込めてやった。
 僕達じゃなかったら死んでたかもしれないんだしね、さすがにこれくらいは言ってもいいでしょ?
 そんな僕の発言に、ギルド内がざわつき始める。
 かなり衝撃的なワードだったのか「あんな小さな子を盾にして逃げたのか」とか「よくもそれで嘘の報告をしたもんだ」など、至るところでセシール達を批判する声が聞こえる。

「くっ……デタラメだ! 馬鹿にするなよ! 僕がそんなマネするわけないじゃないか! 大方、僕達にも教えてなかったアイテムでもあって、逃げ帰ってきたのだろう? 僕達におかしな罪を擦り付けるのをやめたまえ!」

 セシールは認めまいと、全員に聞こえるように大声を出した。
 往生際が悪いなぁ。

「ソーコさんの言ってることは嘘じゃないです! 嘘を付いてるのは、あなた達ですっ!!」

 僕の後ろからセシールに反論する、大きな声があった。
 フェルだ。
 今までの知る彼女とのあまりの違いに、セシール達は面食らっているようだ。

「ソーコさんとアンジェさんは、フェルを助けてくださりました。お二人が吸血鬼を倒し、見事ダンジョンを踏破したんです。フェルを蹴飛ばして逃げたあなた達と、一緒にしないでください!!」

 打ち合わせした通りにフェルが言う。
 今、僕達はリリスを連れてきているけど、幸いなことにセシール達と彼女はあの場で出会っていない。
 なので、レノがダンジョンボスだったことにし、彼を僕達が倒してダンジョンをクリアしたというシナリオにしたのだ。

「ぐッ……! おのれ、獣人の分際で!! お前は借金を返す手伝いをしている僕に逆らうというのか! まともに戦うこともできないグズのくせにッ!」

「その借金は具体的にいくらなの? 何スト? なんなら、今ここで払おうか。それにフェルは、経験を積めば間違いなくアンタより強くなるよ」

「なんだとッ!? 言わせておけば……ッ!」

 セシールの表情がみるみる怒りに染まっていく。
 好き勝手嘘付いて、それを否定されたら逆ギレだなんて、ほんと自分勝手なヤツだ。

「あんた達を放って逃げたっていう証拠なんてあるっていうの!?」

 ミラが怒鳴りつけるように言う。

「さっきも言ったけど、そもそも『死んだ』と言った人物が『生きてた』時点で、そっちが嘘付いてるのは明白だと思うんだけど。あなた達の言ってることは支離滅裂ですよ」

「ぐ……ッ! 黙れッ!」

 僕に向かってセシールが動き出そうとした瞬間、アンジェも動こうとしたので、それを手で制した。
 セシールは僕に掴みかかろうと手を伸ばしてきたので、

「――ふっ!」

「ぬお――ッ!?」

 体術レベル1で覚える《一本背負いっぽんぜおい》を発動し、セシールを投げ飛ばした。

「ぐげっ!?」

「――おっと、

 セシールは顔から地面に着地してしまったみたいで、鼻が変な方向に曲がってしまった。
 血が出ていて実に痛そう……かわいそうに。

「どうやら、嘘をついているのがどっちかわかったようだな」

「マスター!」

 エリーさんの後ろから、やっとギルマスが現れた。
 いやまあ、居るのは気付いてたけど、いつ口を出してくるのかと。

「何があったか聞く必要はありそうだな。3人とも奥へ来い」

「あぐ……ぐ、ま、まふたー! ほれはおうほうはにゃひはひ!? (それは横暴じゃないかい!?)」

 セシールは、奥へ連れてこうとするギルマスにほにゃほにゃと食って掛かった。
 よくもまあ、そんなふにほゃほにゃ状態で潔白だと言えたもんだ。

「安心しろ。俺は真実を見極める魔道具を持っている。お前の言うことが本当なら、無事に解放してやるさ」

 ギルマスは、右手に持った水晶のようなものを見せた。
 へえ、そんな魔道具ががあったのか。
 それを聞いて項垂れるセシールを見るに、その性能は信頼できそうかな。

「う……くっ……」

 セシール達3人は観念したのか、肩をがっくりと落としてギルマスに従った。

「ああ、そうだ。――ソーコ、明日また来てくれ。一応、お前達からもう少し話を聞きたいしな」

「わかりました」

 僕の返事にギルマスは頷いて、3人を奥へ連れて行った。
 そのセシールの姿が、なんだかダンと重なった。
 ダンといいセシールといい、冒険者はやっぱり癖があるのが多いなあ。
 一段落付いたところでエリーさんに目を向けると、

「どういうことか、教えてくれるかな?」

 笑顔の奥に般若が見えた気がした。
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