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眠りの中で、許されることを願って 藤森 梓(ふじもり あずさ)
44 責任から自由になる夜
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夜のカウンセリングルーム。
照明は少しだけ落とされ、ベッド脇のスタンドライトが柔らかな影を落としている。
翔太のもとで準備された「夜間セッション」のため、特別な宿泊環境が整えられていた。
ベッドは防水シーツの上に柔らかな敷布団、体温・心拍センサーも装備されている。
梓が事前に許可した範囲で、睡眠中の排泄確認ができるよう、最小限の記録体制も設けられた。
部屋の隅には替えの下着、シャワー用品、消臭タオルなどが丁寧にまとめられている。
服用したのは、軽度の利尿作用と膀胱弛緩効果を併せ持つ処方薬。
翔太の医師ネットワークを通じて、安全な投与量で提供されたものだった。
「……ほんとに、これで……朝、起きたら……?」
「うん。身体の反応として制御できなかったという体験が起こるかもしれない。
ただし、薬は命令じゃない。失敗するかもしれないけれど、しないかもしれない。
でも、失敗しても責められない場所で眠ることが、今日のゴールだよ」
梓は、ブランケットを握りしめるようにして、うなずいた。
「……お願いします。今夜だけは、なにかを守らなくてもいい自分で眠らせてください」
消灯後、翔太は隣室でモニターを確認しながら静かに見守っていた。
梓の呼吸は落ち着き、体位も安定していく。
――数時間後。
深夜2時すぎ。
センサーが小さな通知を発した。
体温の変化。寝返り。そして、わずかな排出反応の兆候。
映像は一切記録されていない。ただ、体の動きからそれはわかる。
(……来たな)
翔太は静かに席を立ち、予備の暖房を入れ、シャワーの準備を整えた。
朝。
梓はゆっくりと目を開けた。
寝汗とは違う、下半身にじわりとした違和感がある。
手を伸ばせば、感触でわかる。
下着は濡れ、身体の一部が自分の意志とは無関係に崩れていた。
けれど、不思議と動揺はなかった。
むしろ、その自分の知らないうちに起こったことに、涙がこみあげた。
(……何もできなかった。でも、それが……救いだった)
シャワーを浴び、着替えを済ませて、カウンセリングルームに戻った梓は、
少し照れくさそうに微笑んだ。
「……翔太さん、これって変ですかね。漏らしたのに、安心したって、今までの人生で初めてです」
翔太は静かに首を振った。
「君は今日、責任から自由になった自分を一晩だけ経験したんだ。それは、人にとって必要な退避の瞬間でもある。そして今、またちゃんと起きて、着替えて、目を合わせている。それが、何よりの証明だよ」
照明は少しだけ落とされ、ベッド脇のスタンドライトが柔らかな影を落としている。
翔太のもとで準備された「夜間セッション」のため、特別な宿泊環境が整えられていた。
ベッドは防水シーツの上に柔らかな敷布団、体温・心拍センサーも装備されている。
梓が事前に許可した範囲で、睡眠中の排泄確認ができるよう、最小限の記録体制も設けられた。
部屋の隅には替えの下着、シャワー用品、消臭タオルなどが丁寧にまとめられている。
服用したのは、軽度の利尿作用と膀胱弛緩効果を併せ持つ処方薬。
翔太の医師ネットワークを通じて、安全な投与量で提供されたものだった。
「……ほんとに、これで……朝、起きたら……?」
「うん。身体の反応として制御できなかったという体験が起こるかもしれない。
ただし、薬は命令じゃない。失敗するかもしれないけれど、しないかもしれない。
でも、失敗しても責められない場所で眠ることが、今日のゴールだよ」
梓は、ブランケットを握りしめるようにして、うなずいた。
「……お願いします。今夜だけは、なにかを守らなくてもいい自分で眠らせてください」
消灯後、翔太は隣室でモニターを確認しながら静かに見守っていた。
梓の呼吸は落ち着き、体位も安定していく。
――数時間後。
深夜2時すぎ。
センサーが小さな通知を発した。
体温の変化。寝返り。そして、わずかな排出反応の兆候。
映像は一切記録されていない。ただ、体の動きからそれはわかる。
(……来たな)
翔太は静かに席を立ち、予備の暖房を入れ、シャワーの準備を整えた。
朝。
梓はゆっくりと目を開けた。
寝汗とは違う、下半身にじわりとした違和感がある。
手を伸ばせば、感触でわかる。
下着は濡れ、身体の一部が自分の意志とは無関係に崩れていた。
けれど、不思議と動揺はなかった。
むしろ、その自分の知らないうちに起こったことに、涙がこみあげた。
(……何もできなかった。でも、それが……救いだった)
シャワーを浴び、着替えを済ませて、カウンセリングルームに戻った梓は、
少し照れくさそうに微笑んだ。
「……翔太さん、これって変ですかね。漏らしたのに、安心したって、今までの人生で初めてです」
翔太は静かに首を振った。
「君は今日、責任から自由になった自分を一晩だけ経験したんだ。それは、人にとって必要な退避の瞬間でもある。そして今、またちゃんと起きて、着替えて、目を合わせている。それが、何よりの証明だよ」
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