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11、メア=エルネストの本音
しおりを挟むそして立食パーティー当日である。
メアの友人というのは貴族ではなく、大きな商会の一つであるコステリン商会の息子、ヴァレリ=コステリンだった。
ヴァレリ=コステリンとメアはどうやらご学友というものの繋がりがあるらしい。
二人は学生時代意気投合し、今でも一番仲が良い親友と言っても過言ではない間柄のようだった。
「…そんな親友に『こんな奴と婚約したのか』なんて言われた日には立ち直れません…」
「シュリ、そんなことヴァレリは言わないから大丈夫だよ。ほら、入ろう」
「うう…」
シュリは胃痛がしながらメアの腕に手を絡ませ、ドアマンの誘導でホテルの中に入って行った。
ホテルの中は豪華絢爛なロビーにはソファがいくつも並び、真ん中の大きな通路がフロントに繋がっていた。
フロントにはよらず、中にいたスタッフはメアの顔を見るなりすぐに近寄ってくる。
「メア=エルネスト様でいらっしゃいますね。会場までご案内します」
案内のスタッフの後ろを二人で歩きつつ、どうしてもキョロキョロと周囲をシュリは見てしまう。
ロビーも豪華絢爛であったが、廊下もところどころに職人の技を感じさせる繊細な装飾がセンス良く配置されている。絨毯の柄も装飾も電飾もホテルの雰囲気に合わせてあって、一体感のあるホテルだった。
やがて、大きな扉の前に立つと、案内のスタッフが扉を開く。
会場の光が一斉にシュリの目に入り込み、眩しさに目を細める。
徐々に目が慣れていくと、パーティー会場が見えてきた。
とても広い会場であるのに、多くの男女がひしめき合っている。
シュリは何人か名前だけは知っている有力貴族の面々に驚く。侯爵家や伯爵家の中でもトップの位置に君臨する人たちばかりだった。
やはりシュリにとったら場違いだったと思っていた。
「シュリ?大丈夫?」
「ひぇ…メアの婚約者探しのパーティーより規模が大きくないですか…?」
「まぁかなり気合の入ったホテルのようだからかな。ヴァレリが商会を引き継いで初めての事業だしね」
「なるほど…」
そんな大切なパーティーでシュリなんかを紹介して大丈夫なのだろうか。
不安を心に抱えたまま、メアに誘導され、多くの人に囲まれた人物のすぐ近くまで寄った。
メアと同年代の男性のように見える。メアほどではないものの、艶のある黒髪に碧眼で甘いマスクをしている。
そんな男性が、メアの姿に気づいた。囲っていた人たちに「失礼」と言って話を中断させる。
「メア、来てくれたんだな」
「やあヴァレリ。もちろん、素敵なホテルだね」
二人は笑顔で握手を交わした。
「ありがとう。って、ああ、この子が新しい婚約者?」
「そう、シュリ=セレット。伯爵家の三男だ」
「初めまして…シュリと呼んでください」
緊張のしすぎで無難な挨拶しかできなかったが、ヴァレリはシュリを上から下まで何度も見ているようだった。
何となくシュリはメアの後ろにスス…と隠れた。
「こらこら。人の婚約者をまじまじと見るのはマナー違反だ」
「ああ…すまん。本当に男を選んだんだなと思ったらつい。嫌な思いをさせて悪かった、シュリ」
「い、いえ…」
シュリはヴァレリの視線がまだなんとなく疑り深いものに見えていた。
やはりヴァレリの思うところはシュリが男であることなんだと思えばため息をつきたくなった。
「でも可愛いな。小柄で華奢だ。おっと、不機嫌になるなよメア」
シュリはメアの方を見るが、メアはニコニコと笑っているだけで不機嫌そうには見えない。
不思議に感じているとヴァレリはシュリの方に向き直った。
「シュリの噂はこっちにも耳に入っている。第二皇子の婚約者に罵詈雑言を二度も浴びせた豪胆な男だってな」
「そうだよ、シュリはこんな可愛いのに言う時はすごく男らしいんだ」
「へぇ。どうなるのか見てみたいもんだな」
「…僕はもう見せたくないんですが」
貴族でない商会のトップすらシュリの噂が回っている事実に落ち込むシュリ。
「きっとヴァレリも気にいると思うよ。渡さないけどね」
「…お前がそんな風に独占欲を見せてくるのは初めて見たな。よっぽどこの婚約者殿が可愛いんだな」
「まぁね。ケースに入れて地下室におきたいくらいには」
「…冗談だよな」
ヴァレリはメアの言葉に疑いの目を向けるがメアはやっぱりニコニコとしている。
メアの珍しいジョークを聞いて、友人の前では気さくに話すんだと感じていた。
「ま、今日は楽しんでってくれ。また後で話そう」
そう言ってヴァレリは二人に手を振って、別の人物に話に行ったのだった。
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