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second day *前編
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朝の日差しの眩しさで瞼が無理やりこじ開けられた。それなのに少し瞼が重い理由が思い出せない。いつもならば隣に置いてある抱き枕が何だか今日は少し硬い気がする。それだけじゃなく、サイズも大きい。何故だろうと思って上を見上げると、ぱち、と目がかち合った。
「おはよう、よく眠れたかい?」
「お、は……っ」
掠れた声で上手く言葉が発せられない。喉が痛い。自分が喉を押さえたことで彼はそのことに気づいたのか、半身を起こしてベッドサイドにあるデカンタに入った水をコップに注いだ。自分に準備してくれた水だと思って手を伸ばすが、彼はそのまま彼自身で水を口に含んだ。彼も喉が渇いていたのか、と少し残念そうに空になったコップを見ていたら、彼に顎をクイ、と上げられた。
「んむっ ん、んん…っ 」
口付けされ、ゆっくりと少しずつ水が流れてくる。口内と喉が潤い、全ての水が無くなると、そのまま彼の長く厚い舌が自分の口内を弄ぶかのようにネットリとなぞられる。なぞられているのは口内なのに、ゾクゾクとするのは下腹部で彼の手が徐々に腰の方に回ってきた。
「ん……、っ、ぁんっ」
「可愛い声だ…アルト。昨日はスゴく情熱的な夜だった」
臀部をクニ、と彼の大きな手で揉まれ、小さく悲鳴をあげた。耳元で囁かれ、まざまざと昨日の情景を思い出してしまった。
彼女であるレイチェルが帰ってこないと分かると、それからの自分はあられもない姿だった。とにかく腰を自ら振っていたと思うし、喘ぎ声にも自制が効かなかった。中でも特に、彼と向き合って抱き合う形になった時は乱れてしまった。
『あっ、あっ、あ、あんっ、ああっ、お、とうさ、あっ…そこ、ゃぁん!』
『自分からイイ所を当てられるなんて、今日が初めてとは思えないほど優秀だ……偉いね』
『ああんっ、ん、ぁ……っんん、腰、動いちゃ……ぅぅう!』
『うん、気持ちイイんだね。とっても可愛いよ。アルト』
『っ、ぁ、だめ、だめぇ! またイッちゃ…っ!』
『とっても良い子だ…イイよ。私で気持ちよくなりなさい』
中はぐちゃぐちゃで、頭の中もぐちゃぐちゃだった。彼は自分を求めてくれて、自分も彼を欲のままに求めた。ひたすらに二人だけの世界で、二人だけの息遣いと自分の喘ぎ、彼の囁く声が聞こえてくるだけだった。休んでは起きて、ヤッて、また起きて、シて。目覚める度に彼は『アルト……だめ?』と聞いてくるのだ。もうダメとは言えなかった。けれど決して良いとも言えなかった。その度彼女の影が頭にチラつき、ゆるゆると首を振っては身体は矛盾して彼を受け入れた。
「れ、レイチェルが帰ってきちゃう……!」
ようやく思考を手繰り寄せ、現実に帰ってきた。昨日は友人宅に泊まりになると言っていたが、もう何時に帰ってくるのか分からない状態でこんな所にいては、男同士と言えどもレイチェルだって怪しむだろう。自分の服をキョロキョロと探すが、昨日はあったはずのベッド周囲に散乱した服が見当たらない。
「服、服は……?」
彼を見ると、ニコ、と微笑むだけだ。
不思議に思って見ていると、ゆっくりと顔が近づいて口付けをされる。食むようなキスは、ちゅ、と音を立てて離れていく。
「ぐちゃぐちゃだったからね。使用人に洗うように伝えてあるよ。 そろそろ持ってくるんじゃないかな?」
「あ……す、すみません……」
ぐちゃぐちゃ、というのはおそらく自分の先走りの部分のことを言っているのだろう。彼の太腿で自慰したことはよくよくと覚えている。
恥ずかしくて俯くと、髪を撫ぜるように頭部を撫でられ心地良さに身を任せたくなる。
「……帰したくない」
自分の心を読まれたようで、ひく、と身体が動く。切実で哀愁も漂うその声に暖かくも苦しく、泣きたくなるほど優しい何かが自分を沸き立たせた。
2人とも乱れたシーツの中で裸のまま抱き合い、離れがたくて体温を感じ続けた。そのうち、徐々に彼の足の間が硬度を増してくるのを感じ、驚いて身を離した。目を見開いて彼を見上げる。昨日、あんなにも求め合って出し尽くしたと思っていたのに。
「すまない。もうさすがに君も痛くなるだろうし、しないから……もう少しこのまま」
「ぁ……」
確かに少しヒリついている。しかし何かを塗ってくれたのかそこまでの痛みはない。どちらかというと身体全体が気だるくて下半身は筋肉痛になっていることの方が辛かった。もう一度彼に引き寄せられるまま身を寄せ合うと、さっきよりも硬く怒張した彼の一物を更に感じてしまう。
「……、あ、の……」
「気にしないで」
そう彼は微笑む。すると扉がノックされ、『旦那様』と声がかかった。彼は自分に頭までシーツを優しく掛けた後、扉の向こうに向かって返事をした。扉が光開く音がすると、老年の男性の声がする。何回も聞いたことがある彼の執事の声だった。
「旦那様。お召し物をお持ちしました。朝食は如何様に」
「ここで食べる。二人分だ」
「畏まりました。それとレイチェル様のことですが」
ビク、と身体が硬直した。彼はシーツの上から安心するようにと背を撫でてくれるが、安心できない話のせいで徐々に身体が冷えていった。
「レイチェル様はそのまま今日もご宿泊なさりたいとのことです。許可があればそうすると」
「……許可しよう」
「畏まりました。早馬でお伝えします」
静かな足音で歩く音と、扉が閉じる音がした。執事が部屋から出たようだった。
「……レイチェルには困ったものだ。君がいるのに、ねぇ?」
「……っ」
そんなことを言っても。彼と自分がしている事の方が重大であって、重罪である。友人の家に泊まりの方がよっぽど健全だ。とはいえホッとした。これでしばらくは安心出来る。彼女が今すぐ帰ってこないのであれば、焦る必要も無い訳だ。
「アルトくん。食事の前に、身体を流そうか」
「は、はい……」
彼が先に行くだろうと思って、は、と息を吐く。まだまだ身体は怠くて上手く動かすことができない。あんなに激しく動いて乱れたのに、彼には気だるさを感じる所か一部元気になってすらいるというのに。
彼がベッドから降りると、自分はもう少しゆっくりさせてもらおうとシーツを手繰り、身体を休める体勢に入った。
「……ぅああ!」
休む体勢になった瞬間、シーツにクルクルと巻かれ、シーツごと抱き上げられてしまった。驚いて声を上げるとクスクスと彼が笑う。
「ごめんごめん。さ、行こうか」
「え? え、えぇ? あ、僕は一人で……!」
そして、ニコ、と穏やかに優しく微笑むのに有無を言わさない雰囲気に自分は黙るしか選択肢がなかったのだった。
「やぁあっ、やぁ! んっ、あ…やら、やらぁ……!」
「アルトくん、まだ頑張って。ほら、私の背中引っ掻いても構わないから」
「ん、ぅ、や、ぃや……っ、あ! お義父、さ……だめ、もぅ…イキた……っ」
シャワーの音と自らの喘ぎ声が反響する中、甘い地獄に中途半端に登らされていた。彼は中を綺麗にするために指を入れて洗い流してくれているのだが、敏感になった身体はそれだけではもう耐えられず、彼が欲しくて堪らなかった。
目の前には彼のビキビギとした長大でグロテスクなソレがあるのに、彼は一向に入れようとしない。ポロポロと涙を流して欲しいと訴えても困った顔で微笑むばかりで望むことはして貰えず、ただただ甘い地獄に滞在させられ続けた。
「ごめんね、アルトくん……ここでやったら多分痛くさせちゃうから。するならベッドに行ってからしよう、ね?」
そう言って顔中にキスを落としてくれる。けれどそれではイケないことは分かりきっている。
フルフルと首を振って、彼を望んでも彼はやっぱり困り顔で微笑む。
「んっ、ぅ……やっやぁ! あんっ」
「ああ……可愛い。好きだよアルトくん…、愛してる。だからもう少し頑張ろう」
「う、ううぅ……ぁ、ん、んんっ!」
イイ所を掠めるものの、強くは刺激して貰えない。中途半端はとてもツラい。自分の体はもはや完全に彼の剛直で突かれなくてはイケなくなってしまっていた。辛いだろうと彼が前を一緒に弄ってくれても反応しなかった。昨日のせいで空っぽだったことも原因かもしれない。だから中でイかせて欲しくてこうやってオネダリしているのに、彼の剛直は挿入ってこなかった。
「可愛すぎて頭がおかしくなりそうだ……いやもうなってるな。君をここで犯したいし、娘の前でも俺のものだと犯してやりたくなるよ……」
「っ! や、らぁ……!」
「……しないよ。君はとても繊細だからね。……レイチェルとは違って」
彼が何かをボソリと呟くが、シャワーの音でかき消されていった。
シャワーから出ると、バスローブを着させられて準備された食事についた。全て完璧にセッティングされた食事を見て、羞恥心で穴があったら入りたくなった。
シャワーは彼の部屋に備え付けのもので、食事も彼の部屋にセットされたものだ。つまりはシャワー室での事も全て筒抜けという事になる。
「ほら、食べよう。辛かったらベッドで食べれるようにするかい?」
「い、いえ……大丈夫、です……」
そう言って、彼が引いてくれた椅子に座った。向かい合わせで食事をすると、口元と手元にどうしても目線が行ってしまった。彼が扱うナイフとフォークを見て、あの大きな長い指に恋人繋ぎをされて身動きを取れなくされた。前戯の最中はイイ所に指が当たって程よい力加減で翻弄された。口元を見れば、あの形の良い唇が重なり合って、彼の長く分厚い舌が自分の口内を彼でいっぱいにされた。愛撫する舌の動きに下腹部がキュンキュンとしたし、彼の太腿で自慰もしてしまった。
食事中にも全てを思い出してしまい、手を止めて俯いた。プルプルと震えながら顔中が熱くなるのを感じる。
そもそも、彼は侯爵家の当主であり、どこに行っても注目されるほど精悍で整った顔立ちをした人だった。背も高く逞しく、甘いマスクを持った彼に夢中なご婦人方は数え切れないほどだ。奥方はレイチェルが生まれたあと、直ぐに離婚した。奥方の遊びが原因だと噂で聞いている。
そんな彼が、自分とこんな関係になるなんて信じられない。彼にとっては遊びの一つに違いない。
パク、と優雅な食事を食べる。もしゃもしゃとしても美味しいはずの料理の味を見失っていた。
「……トくん、アルトくん」
「っひゃい!」
名を呼ばれていたことに気づいて俯いていた顔を戻す。彼は心配そうに眉を寄せ、こちらを見ていた。いつの間にか食事は終わっていたようだった。
「やっぱり辛かった? 今からでもベッドで……」
「だ、だだ大丈夫です!」
心配ないでもらいたくて必死に食事を再開した。彼は自分を見て肘をついてじっくりと見ていたので不思議に思った。
「……?な、何か?」
「いいや、小さな口で一生懸命モグモグしてる姿が可愛いなと思って」
「んぐ」
そう言えばずっと可愛いと言われていたことに今更気づく。もう成人した立派な男子の自分を彼はずっとずっと可愛いと言ってくれる。
レイチェルにも確かにたまにだが「かっこいいのに可愛い所もあるのね」とクスクス微笑みながら言われることがある。そう言われると照れて彼女の方を見れなくなるのだが、彼女の嬉しそうなクスクスとした笑い声が忘れられない。そういえば、レイチェルの笑い声は父である彼とそっくりだ。
最後の一口を口にして、水で流し込む。ふぅ、と一息ついてまだまだ気怠い身体を背もたれに預けた。
「蜂蜜を入れた紅茶もあるよ。喉に良いから飲みなさい」
「あ、はい…」
紅茶を飲むと、優しい香りと喉越しを感じた。自分の好きな甘めの味にホッとする。
「アルトくん。それを飲んだらベッドに戻ろうか」
「…えっと、あの……僕、家に」
「ね?」
「は、はい……」
彼の圧に敗北した。
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アルト
甘え下手
彼
甘え上手
「おはよう、よく眠れたかい?」
「お、は……っ」
掠れた声で上手く言葉が発せられない。喉が痛い。自分が喉を押さえたことで彼はそのことに気づいたのか、半身を起こしてベッドサイドにあるデカンタに入った水をコップに注いだ。自分に準備してくれた水だと思って手を伸ばすが、彼はそのまま彼自身で水を口に含んだ。彼も喉が渇いていたのか、と少し残念そうに空になったコップを見ていたら、彼に顎をクイ、と上げられた。
「んむっ ん、んん…っ 」
口付けされ、ゆっくりと少しずつ水が流れてくる。口内と喉が潤い、全ての水が無くなると、そのまま彼の長く厚い舌が自分の口内を弄ぶかのようにネットリとなぞられる。なぞられているのは口内なのに、ゾクゾクとするのは下腹部で彼の手が徐々に腰の方に回ってきた。
「ん……、っ、ぁんっ」
「可愛い声だ…アルト。昨日はスゴく情熱的な夜だった」
臀部をクニ、と彼の大きな手で揉まれ、小さく悲鳴をあげた。耳元で囁かれ、まざまざと昨日の情景を思い出してしまった。
彼女であるレイチェルが帰ってこないと分かると、それからの自分はあられもない姿だった。とにかく腰を自ら振っていたと思うし、喘ぎ声にも自制が効かなかった。中でも特に、彼と向き合って抱き合う形になった時は乱れてしまった。
『あっ、あっ、あ、あんっ、ああっ、お、とうさ、あっ…そこ、ゃぁん!』
『自分からイイ所を当てられるなんて、今日が初めてとは思えないほど優秀だ……偉いね』
『ああんっ、ん、ぁ……っんん、腰、動いちゃ……ぅぅう!』
『うん、気持ちイイんだね。とっても可愛いよ。アルト』
『っ、ぁ、だめ、だめぇ! またイッちゃ…っ!』
『とっても良い子だ…イイよ。私で気持ちよくなりなさい』
中はぐちゃぐちゃで、頭の中もぐちゃぐちゃだった。彼は自分を求めてくれて、自分も彼を欲のままに求めた。ひたすらに二人だけの世界で、二人だけの息遣いと自分の喘ぎ、彼の囁く声が聞こえてくるだけだった。休んでは起きて、ヤッて、また起きて、シて。目覚める度に彼は『アルト……だめ?』と聞いてくるのだ。もうダメとは言えなかった。けれど決して良いとも言えなかった。その度彼女の影が頭にチラつき、ゆるゆると首を振っては身体は矛盾して彼を受け入れた。
「れ、レイチェルが帰ってきちゃう……!」
ようやく思考を手繰り寄せ、現実に帰ってきた。昨日は友人宅に泊まりになると言っていたが、もう何時に帰ってくるのか分からない状態でこんな所にいては、男同士と言えどもレイチェルだって怪しむだろう。自分の服をキョロキョロと探すが、昨日はあったはずのベッド周囲に散乱した服が見当たらない。
「服、服は……?」
彼を見ると、ニコ、と微笑むだけだ。
不思議に思って見ていると、ゆっくりと顔が近づいて口付けをされる。食むようなキスは、ちゅ、と音を立てて離れていく。
「ぐちゃぐちゃだったからね。使用人に洗うように伝えてあるよ。 そろそろ持ってくるんじゃないかな?」
「あ……す、すみません……」
ぐちゃぐちゃ、というのはおそらく自分の先走りの部分のことを言っているのだろう。彼の太腿で自慰したことはよくよくと覚えている。
恥ずかしくて俯くと、髪を撫ぜるように頭部を撫でられ心地良さに身を任せたくなる。
「……帰したくない」
自分の心を読まれたようで、ひく、と身体が動く。切実で哀愁も漂うその声に暖かくも苦しく、泣きたくなるほど優しい何かが自分を沸き立たせた。
2人とも乱れたシーツの中で裸のまま抱き合い、離れがたくて体温を感じ続けた。そのうち、徐々に彼の足の間が硬度を増してくるのを感じ、驚いて身を離した。目を見開いて彼を見上げる。昨日、あんなにも求め合って出し尽くしたと思っていたのに。
「すまない。もうさすがに君も痛くなるだろうし、しないから……もう少しこのまま」
「ぁ……」
確かに少しヒリついている。しかし何かを塗ってくれたのかそこまでの痛みはない。どちらかというと身体全体が気だるくて下半身は筋肉痛になっていることの方が辛かった。もう一度彼に引き寄せられるまま身を寄せ合うと、さっきよりも硬く怒張した彼の一物を更に感じてしまう。
「……、あ、の……」
「気にしないで」
そう彼は微笑む。すると扉がノックされ、『旦那様』と声がかかった。彼は自分に頭までシーツを優しく掛けた後、扉の向こうに向かって返事をした。扉が光開く音がすると、老年の男性の声がする。何回も聞いたことがある彼の執事の声だった。
「旦那様。お召し物をお持ちしました。朝食は如何様に」
「ここで食べる。二人分だ」
「畏まりました。それとレイチェル様のことですが」
ビク、と身体が硬直した。彼はシーツの上から安心するようにと背を撫でてくれるが、安心できない話のせいで徐々に身体が冷えていった。
「レイチェル様はそのまま今日もご宿泊なさりたいとのことです。許可があればそうすると」
「……許可しよう」
「畏まりました。早馬でお伝えします」
静かな足音で歩く音と、扉が閉じる音がした。執事が部屋から出たようだった。
「……レイチェルには困ったものだ。君がいるのに、ねぇ?」
「……っ」
そんなことを言っても。彼と自分がしている事の方が重大であって、重罪である。友人の家に泊まりの方がよっぽど健全だ。とはいえホッとした。これでしばらくは安心出来る。彼女が今すぐ帰ってこないのであれば、焦る必要も無い訳だ。
「アルトくん。食事の前に、身体を流そうか」
「は、はい……」
彼が先に行くだろうと思って、は、と息を吐く。まだまだ身体は怠くて上手く動かすことができない。あんなに激しく動いて乱れたのに、彼には気だるさを感じる所か一部元気になってすらいるというのに。
彼がベッドから降りると、自分はもう少しゆっくりさせてもらおうとシーツを手繰り、身体を休める体勢に入った。
「……ぅああ!」
休む体勢になった瞬間、シーツにクルクルと巻かれ、シーツごと抱き上げられてしまった。驚いて声を上げるとクスクスと彼が笑う。
「ごめんごめん。さ、行こうか」
「え? え、えぇ? あ、僕は一人で……!」
そして、ニコ、と穏やかに優しく微笑むのに有無を言わさない雰囲気に自分は黙るしか選択肢がなかったのだった。
「やぁあっ、やぁ! んっ、あ…やら、やらぁ……!」
「アルトくん、まだ頑張って。ほら、私の背中引っ掻いても構わないから」
「ん、ぅ、や、ぃや……っ、あ! お義父、さ……だめ、もぅ…イキた……っ」
シャワーの音と自らの喘ぎ声が反響する中、甘い地獄に中途半端に登らされていた。彼は中を綺麗にするために指を入れて洗い流してくれているのだが、敏感になった身体はそれだけではもう耐えられず、彼が欲しくて堪らなかった。
目の前には彼のビキビギとした長大でグロテスクなソレがあるのに、彼は一向に入れようとしない。ポロポロと涙を流して欲しいと訴えても困った顔で微笑むばかりで望むことはして貰えず、ただただ甘い地獄に滞在させられ続けた。
「ごめんね、アルトくん……ここでやったら多分痛くさせちゃうから。するならベッドに行ってからしよう、ね?」
そう言って顔中にキスを落としてくれる。けれどそれではイケないことは分かりきっている。
フルフルと首を振って、彼を望んでも彼はやっぱり困り顔で微笑む。
「んっ、ぅ……やっやぁ! あんっ」
「ああ……可愛い。好きだよアルトくん…、愛してる。だからもう少し頑張ろう」
「う、ううぅ……ぁ、ん、んんっ!」
イイ所を掠めるものの、強くは刺激して貰えない。中途半端はとてもツラい。自分の体はもはや完全に彼の剛直で突かれなくてはイケなくなってしまっていた。辛いだろうと彼が前を一緒に弄ってくれても反応しなかった。昨日のせいで空っぽだったことも原因かもしれない。だから中でイかせて欲しくてこうやってオネダリしているのに、彼の剛直は挿入ってこなかった。
「可愛すぎて頭がおかしくなりそうだ……いやもうなってるな。君をここで犯したいし、娘の前でも俺のものだと犯してやりたくなるよ……」
「っ! や、らぁ……!」
「……しないよ。君はとても繊細だからね。……レイチェルとは違って」
彼が何かをボソリと呟くが、シャワーの音でかき消されていった。
シャワーから出ると、バスローブを着させられて準備された食事についた。全て完璧にセッティングされた食事を見て、羞恥心で穴があったら入りたくなった。
シャワーは彼の部屋に備え付けのもので、食事も彼の部屋にセットされたものだ。つまりはシャワー室での事も全て筒抜けという事になる。
「ほら、食べよう。辛かったらベッドで食べれるようにするかい?」
「い、いえ……大丈夫、です……」
そう言って、彼が引いてくれた椅子に座った。向かい合わせで食事をすると、口元と手元にどうしても目線が行ってしまった。彼が扱うナイフとフォークを見て、あの大きな長い指に恋人繋ぎをされて身動きを取れなくされた。前戯の最中はイイ所に指が当たって程よい力加減で翻弄された。口元を見れば、あの形の良い唇が重なり合って、彼の長く分厚い舌が自分の口内を彼でいっぱいにされた。愛撫する舌の動きに下腹部がキュンキュンとしたし、彼の太腿で自慰もしてしまった。
食事中にも全てを思い出してしまい、手を止めて俯いた。プルプルと震えながら顔中が熱くなるのを感じる。
そもそも、彼は侯爵家の当主であり、どこに行っても注目されるほど精悍で整った顔立ちをした人だった。背も高く逞しく、甘いマスクを持った彼に夢中なご婦人方は数え切れないほどだ。奥方はレイチェルが生まれたあと、直ぐに離婚した。奥方の遊びが原因だと噂で聞いている。
そんな彼が、自分とこんな関係になるなんて信じられない。彼にとっては遊びの一つに違いない。
パク、と優雅な食事を食べる。もしゃもしゃとしても美味しいはずの料理の味を見失っていた。
「……トくん、アルトくん」
「っひゃい!」
名を呼ばれていたことに気づいて俯いていた顔を戻す。彼は心配そうに眉を寄せ、こちらを見ていた。いつの間にか食事は終わっていたようだった。
「やっぱり辛かった? 今からでもベッドで……」
「だ、だだ大丈夫です!」
心配ないでもらいたくて必死に食事を再開した。彼は自分を見て肘をついてじっくりと見ていたので不思議に思った。
「……?な、何か?」
「いいや、小さな口で一生懸命モグモグしてる姿が可愛いなと思って」
「んぐ」
そう言えばずっと可愛いと言われていたことに今更気づく。もう成人した立派な男子の自分を彼はずっとずっと可愛いと言ってくれる。
レイチェルにも確かにたまにだが「かっこいいのに可愛い所もあるのね」とクスクス微笑みながら言われることがある。そう言われると照れて彼女の方を見れなくなるのだが、彼女の嬉しそうなクスクスとした笑い声が忘れられない。そういえば、レイチェルの笑い声は父である彼とそっくりだ。
最後の一口を口にして、水で流し込む。ふぅ、と一息ついてまだまだ気怠い身体を背もたれに預けた。
「蜂蜜を入れた紅茶もあるよ。喉に良いから飲みなさい」
「あ、はい…」
紅茶を飲むと、優しい香りと喉越しを感じた。自分の好きな甘めの味にホッとする。
「アルトくん。それを飲んだらベッドに戻ろうか」
「…えっと、あの……僕、家に」
「ね?」
「は、はい……」
彼の圧に敗北した。
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