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6、※婚約者様と発情期
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「慧さん、今日は来てくれてありがとうございました」
日も落ちて薄暗い中、月明かりに照らされる中庭を軒先に座って見ながら僕は慧さんに伝えた。
今日の慧さんはカジュアルフォーマルな格好でいつも昼間に会うことしかなかったから、何となく夜の大人な雰囲気にドキドキするのが極力伝わらないように目を逸らした。
大して僕はいつもの家できる着物でも、少し上等なのを選んだだけだ。もっと良い奴を選んでおけば良かったと後悔する。
「とても楽しかったよ。またぜひご相伴に預かりたい。それか今度は皇の方にご両親も呼んで……」
そこで慧さんが言葉を途切らせた。僕は不思議に思って隣に座る慧さんの方を見上げた。スン、と鼻を一回鳴らしたと思うと、彼は身体を僕の方に寄せ、僕の首筋に顔を埋めてきた。
「け、けけけ、慧さん……?!」
首筋でスンスンと何度も吸われ、恥ずかしくなって離れようと慧さんの肩を押してもビクともしない。何度も騒いだせいで絶対汗臭いからやめて欲しい。それに彼の前髪が首筋に当たっているのか擽ったくて「んっ…!」と変な声も出してしまった。
「祈里。発情期が来るね?」
「ひゃ……! や、だめ汚いです…!」
慧さんは筋に逆らうように首を舐めた。ビクッと体を強ばらせても、慧さんは僕の腰をガッツリ掴んでいて逃がしてくれそうもない。
「け、慧、さん。まっ、ひゃう…っ、んっ」
「甘いのに、癖になりそうな…好きな子のフェロモンって中毒になりそうなんだな」
「んんっ、や、ぁう……!」
首筋から髪の生え際、項まで舐め取られ、耳の裏の匂いをずっと嗅がれる。恥ずかしいせいで頭が沸騰しそうだし、舐められているせいで脳みそが溶けてしまいそうなほどの何かが身の内から這い上がってくるようだった。
「甘ったるいのは好きじゃなかったはずなんだけどな……祈里のはまるでチョコの中にベリーが入ったような香りだ」
「ん、や……食べちゃ、ダメ、です……んやぁ!」
耳輪をはまれ、耳を取られてしまうのではと少しだけ怖くなって怯える。かと思えば耳の中に舌を入れられてぐちゅぐちゅと唾液の音が直接響いてくる。艶かしいその音がゾクゾクと腰を疼かせた。
「まいったな。御両親もいるひとつ屋根の下で如何わしいことはしたくないんだが……いや、Ωばかり居たこの家ならもしかして」
「んぅ、慧さ、や……」
慧さんが手を離し、立ち上がってどこかに行こうとしていた。僕は途端に熱が離れていったせいで冷たい夜風に寂しさを感じ、彼の裾を引いた。
そんな僕の様子にフッと笑を零してスーツの上着を脱いで僕の肩に載せてくれた。
「すぐ戻る」
慧さんの香りがふわりと纏った。
どのくらい経過しただろうか。恐らく数分だが、もう既に数時間は待っているような気分になった。おかしい。身体が、変だ。彼のスーツは既に握りしめていたせいでくしゃくしゃの皺だらけだ。高いものだから、後でクリーニングして返さなくては……
「っ、ひ…ん……っあ、んんっ、ん」
そんな風に思っていたはずなのに、彼のスーツの香りを嗅いでいるだけで頭がおかしくなった。
涎を垂らし、下肢の間に手を入れて既に兆す自身を空いてる手で擦っている。身体が熱くて、疼いて、堪らない。ぐじゅぐじゅと既に一度達した自身はまだ萎える様子がなかった。
きっちりと着こなしていたはずの着物はすでに乱れきって、さっきまでまだクリーニングでなんとかなりそうだったスーツは最早目も当てられない惨状と化していた。
「っあ、っあ! 慧さ……慧、慧さん…」
熱に浮かされたような頭で考えられるのは彼のことだけだった。彼だけがこの熱をどうにかしてくれる、下生えから下腹部にかけて精に塗れて、それでも手を止められない僕はそれを知っている。
「っ、ふ……ぁ、慧さん……うぅ、うう……」
自身だけではもうこの疼きは止められない。そう思うと同時にもっと後ろの方がびちゃびちゃに濡れているのに気がついた。使ったことの無いはずの後孔がヒクヒクと存在を強く主張し、下腹部がジクジクとした。
もっと、こっちなら。この熱を散らせる。
「祈里」
後ろに伸ばしかけた手をビクッと震わせ、停止した。彼の声が聞こえた部屋の中に居るのは分かるのに顔が暗くてよく見えない。
自分は一体何を。どうしてこんな。自らの精液と後孔から漏れた欲が彼のスーツと縁側を濡らし、なんとみだらでだらしないことか。
『発情期ってヤバくないか…?俺、すっごくだらしなくなっちゃうんだよ。そんなとこ番になる人に絶対見せたくない……』友人の言葉が頭を過ぎる。そんなはずない。だって僕は抑制剤をいつも通りきちんと服用していたはずだ。なのに。どうして。
そして怯えた。彼はこの結婚は女Ωの伊織と思っていたのだ。どう見てもあるべき膨らみはなく、あってはならない主張がある僕は紛うことなき男だ。突然こんな姿を見て気持ち悪い、汚らしいと思われてもそれはごく普通の反応だ。
「……け、い、さん……こ、これは、その、違くて、あ、ああ……ううう……」
「どうして泣くんだ祈里、悪かった。私が遅かったんだな」
「ち、ちが……っひゃあ!」
彼は僕を軽々と持ち上げて横抱きに抱えた。突然の浮遊感に驚き、目を瞬かせて叫んだ。
「お、下ろして…っ」
「下ろしても歩けないだろう。Ωがヒートを起こした時用の離れがあると教えて貰ったんだ。そこに行こう」
「はなれ…?だいじょうぶです。僕、一人で……」
「一人?何言ってるんだ。お義母さんに聞いたが、君はまともに発情期を迎えたことがないそうだな。発情期の辛さを知らないでよく言えたものだ」
この短い時間で母に会ってきたらしい慧さんは、少しだけ厳しい口調で聞き分けの悪い子供を叱るように言う。
けれどその顔はすぐに微笑みに変わった。
「それに、私の名前を呼んで自慰するくらい私のことが欲しいんだろう?」
彼は僕の返事を聞かないまま、離れへと足を進めていく。恥ずかしくて彼の首にぎゅうと抱きつくと、彼がまた微笑んだのが息遣いで分かった。
日も落ちて薄暗い中、月明かりに照らされる中庭を軒先に座って見ながら僕は慧さんに伝えた。
今日の慧さんはカジュアルフォーマルな格好でいつも昼間に会うことしかなかったから、何となく夜の大人な雰囲気にドキドキするのが極力伝わらないように目を逸らした。
大して僕はいつもの家できる着物でも、少し上等なのを選んだだけだ。もっと良い奴を選んでおけば良かったと後悔する。
「とても楽しかったよ。またぜひご相伴に預かりたい。それか今度は皇の方にご両親も呼んで……」
そこで慧さんが言葉を途切らせた。僕は不思議に思って隣に座る慧さんの方を見上げた。スン、と鼻を一回鳴らしたと思うと、彼は身体を僕の方に寄せ、僕の首筋に顔を埋めてきた。
「け、けけけ、慧さん……?!」
首筋でスンスンと何度も吸われ、恥ずかしくなって離れようと慧さんの肩を押してもビクともしない。何度も騒いだせいで絶対汗臭いからやめて欲しい。それに彼の前髪が首筋に当たっているのか擽ったくて「んっ…!」と変な声も出してしまった。
「祈里。発情期が来るね?」
「ひゃ……! や、だめ汚いです…!」
慧さんは筋に逆らうように首を舐めた。ビクッと体を強ばらせても、慧さんは僕の腰をガッツリ掴んでいて逃がしてくれそうもない。
「け、慧、さん。まっ、ひゃう…っ、んっ」
「甘いのに、癖になりそうな…好きな子のフェロモンって中毒になりそうなんだな」
「んんっ、や、ぁう……!」
首筋から髪の生え際、項まで舐め取られ、耳の裏の匂いをずっと嗅がれる。恥ずかしいせいで頭が沸騰しそうだし、舐められているせいで脳みそが溶けてしまいそうなほどの何かが身の内から這い上がってくるようだった。
「甘ったるいのは好きじゃなかったはずなんだけどな……祈里のはまるでチョコの中にベリーが入ったような香りだ」
「ん、や……食べちゃ、ダメ、です……んやぁ!」
耳輪をはまれ、耳を取られてしまうのではと少しだけ怖くなって怯える。かと思えば耳の中に舌を入れられてぐちゅぐちゅと唾液の音が直接響いてくる。艶かしいその音がゾクゾクと腰を疼かせた。
「まいったな。御両親もいるひとつ屋根の下で如何わしいことはしたくないんだが……いや、Ωばかり居たこの家ならもしかして」
「んぅ、慧さ、や……」
慧さんが手を離し、立ち上がってどこかに行こうとしていた。僕は途端に熱が離れていったせいで冷たい夜風に寂しさを感じ、彼の裾を引いた。
そんな僕の様子にフッと笑を零してスーツの上着を脱いで僕の肩に載せてくれた。
「すぐ戻る」
慧さんの香りがふわりと纏った。
どのくらい経過しただろうか。恐らく数分だが、もう既に数時間は待っているような気分になった。おかしい。身体が、変だ。彼のスーツは既に握りしめていたせいでくしゃくしゃの皺だらけだ。高いものだから、後でクリーニングして返さなくては……
「っ、ひ…ん……っあ、んんっ、ん」
そんな風に思っていたはずなのに、彼のスーツの香りを嗅いでいるだけで頭がおかしくなった。
涎を垂らし、下肢の間に手を入れて既に兆す自身を空いてる手で擦っている。身体が熱くて、疼いて、堪らない。ぐじゅぐじゅと既に一度達した自身はまだ萎える様子がなかった。
きっちりと着こなしていたはずの着物はすでに乱れきって、さっきまでまだクリーニングでなんとかなりそうだったスーツは最早目も当てられない惨状と化していた。
「っあ、っあ! 慧さ……慧、慧さん…」
熱に浮かされたような頭で考えられるのは彼のことだけだった。彼だけがこの熱をどうにかしてくれる、下生えから下腹部にかけて精に塗れて、それでも手を止められない僕はそれを知っている。
「っ、ふ……ぁ、慧さん……うぅ、うう……」
自身だけではもうこの疼きは止められない。そう思うと同時にもっと後ろの方がびちゃびちゃに濡れているのに気がついた。使ったことの無いはずの後孔がヒクヒクと存在を強く主張し、下腹部がジクジクとした。
もっと、こっちなら。この熱を散らせる。
「祈里」
後ろに伸ばしかけた手をビクッと震わせ、停止した。彼の声が聞こえた部屋の中に居るのは分かるのに顔が暗くてよく見えない。
自分は一体何を。どうしてこんな。自らの精液と後孔から漏れた欲が彼のスーツと縁側を濡らし、なんとみだらでだらしないことか。
『発情期ってヤバくないか…?俺、すっごくだらしなくなっちゃうんだよ。そんなとこ番になる人に絶対見せたくない……』友人の言葉が頭を過ぎる。そんなはずない。だって僕は抑制剤をいつも通りきちんと服用していたはずだ。なのに。どうして。
そして怯えた。彼はこの結婚は女Ωの伊織と思っていたのだ。どう見てもあるべき膨らみはなく、あってはならない主張がある僕は紛うことなき男だ。突然こんな姿を見て気持ち悪い、汚らしいと思われてもそれはごく普通の反応だ。
「……け、い、さん……こ、これは、その、違くて、あ、ああ……ううう……」
「どうして泣くんだ祈里、悪かった。私が遅かったんだな」
「ち、ちが……っひゃあ!」
彼は僕を軽々と持ち上げて横抱きに抱えた。突然の浮遊感に驚き、目を瞬かせて叫んだ。
「お、下ろして…っ」
「下ろしても歩けないだろう。Ωがヒートを起こした時用の離れがあると教えて貰ったんだ。そこに行こう」
「はなれ…?だいじょうぶです。僕、一人で……」
「一人?何言ってるんだ。お義母さんに聞いたが、君はまともに発情期を迎えたことがないそうだな。発情期の辛さを知らないでよく言えたものだ」
この短い時間で母に会ってきたらしい慧さんは、少しだけ厳しい口調で聞き分けの悪い子供を叱るように言う。
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