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番外編
僕の優しい婚約者 ⑤
しおりを挟むお見合いから一週間が経った。
「す、凄かった、凄かったです……!僕全然犯人分かんなくてずっとドキドキしました!」
パタパタと身振り手振りで興奮を伝えた。
お見合いのお相手さんであった花菱燈夜さんとはお見合い以降初めて会うことになった。僕とは九つ離れていて、二十四歳だという。映画なら肩肘張らずに楽しめるだろうと連れてきて貰った。
あんまり映画もドラマも観ないのでよく分からないと燈夜さんに伝えると、自分の観たい映画でも良いかと聞かれて了承した。もちろん事件が起こった所は怖かったけど、解決していく怒涛の展開に僕は目を離せなかった。
「まあ最近の推理映画じゃ当たりだって言われてる作品だからね。気に入ってもらえて良かった」
「ドラマもやってるんですか、これ。どうしよう、見たい…!DVD借りなくちゃ…っ」
燈夜さんが買ってくれたパンフレットでニヤけてしまう口元を隠しながらくふくふと笑っていると、燈夜さんが僕の腰を抱き寄せた。
突然のことにびっくりして居ると、僕がさっきまで居た所にスっと急いでいるおじさんが通った。すれ違った瞬間なんかチッて声がした気がした。
「紬、DVDじゃなくても今はネットで見れるよ。教えるからどこかカフェに行こうか」
「え、あ、はいっ」
腰に手を回されたままだったとおじさんに向けていた意識を戻した。燈夜さんの甘くスモーキーな大人の香りがまたふわりとする。近くて胸が爆発してどこか飛んでいきそう。少し離れないとダメだ。
「と、燈夜、さん……! あ、あの、あの…っ」
「おいで」
「は、はぅ……はひ……」
さっき誰かにぶつかりそうになったことが一瞬で吹っ飛ぶほどの迫力だった。燈夜さんが大人の男の人に見えて、カッコよくて直視できない。いや、大人の男の人なんだけども……!
お見合いのお相手さんは、燈夜さん以外にも何人か候補がいた。燈夜さんと縁がなかったら次の人に代わるらしいのだけど、僕は他の人でもこんなにドキドキするんだろうか。
祈里さんは、『旦那様と会った時は分からなかったかなぁ…何度か食事して、この人と一緒にいたいって感じたかも。会った時から婚約者だったのにね』と言っていたのに、僕は会ったあの日からずっとおかしい。僕が変なんだろうか。
落ち着いたカフェに着いて、端の方の目立たない席に座って対面でお茶をした。二人でお茶を飲みながらネットでのドラマの視聴方法を聞いて、お礼を言うと、燈夜さんは少し考え込み始めた。
「そういえば、ちょっと気になるんだが」
「? はい」
「紬はもう発情期は来てるのか?」
「え! あ! は、はつ、あぅ…っ」
いきなり尋ねられたことに驚いて顔が真っ赤になるのを感じながら口をパクパクさせる。燈夜さんは意地悪で言ってるのではなく、真剣そうな顔付きだ。そうだよね、来てるか来てないかって大切。男Ωにとって子供が出来るか出来ないかの重要な事だからだ。
「来てなくてもこのお見合いを破談させるつもりはないからね?」
「あ……は、はい。えと、来てますが……?」
「じゃあもう大人って事だ」
「……?」
成人はまだ三年先なのに、なぜそんなことを聞いてくるのか分からない。けど燈夜さんはにっこりと微笑むだけで答えてはくれなかった。
カフェを出て、燈夜さんは高そうな車で僕を霜永本家まで送ってくれた。
車を出ようとシートベルトを外し、燈夜の方に向き直ってお辞儀をした。
「今日はありがとうございました。とっても楽しかったです…!」
「良かった。ああ、紬。ちょっと待って」
「?はい……っ?!」
燈夜が突然シートベルトに手をかけていた僕の手を掴む。反対の手は僕の肩の後ろのシートを掴んでいる。僕は燈夜さんに囲われている状況でピタッと動きを止めた。
動きは止めたはずなのに、燈夜さんのカッコイイ顔が凄く近いし、いい匂いはするしで心臓がまた壊れそうなほどドッドッドッと早鐘を打ち始めた。
「と、とぅや、さ……」
「紬はまだ若いから沢山出会いがあると思うけどな」
「……っ!ひゃっ!」
鎖骨の上あたりに顔が近づいて、チュッとなにか痛い。痛いのに、ジンとして気持ちいいって思ってしまった。
燈夜さんを見るとギラギラと力強い瞳。さっきまで優しかったはずの燈夜さん。なのに僕は、まるで肉食獣と対峙している気分にさせられる。
けど、なんだかそれが全然不快じゃない。むしろずっとドキドキして、燈夜さんの瞳から目を逸らせない。
「ぜってぇ余所見させねぇから、覚悟しとけ」
ついに僕の頭は爆発した。
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