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番外編

僕の優しい婚約者 ⑥

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「では紬、婚約者は花菱燈夜さんで良いのですね?」

  僕はお母様と正座で向き合い、恥ずかしくてお母様をまっすぐ見られないまま、コクリと小さく頷いた。
  いつもならちゃんとお母様の顔を見てお返事しなくちゃいけないけれど、昨日の出来事が忘れられなくてずっとドキドキしている僕は上手く返事が出来なかった。

「良いでしょう。紬は優しいだけじゃなくて、あのくらい強引な御仁が良いのでしょうね」
「あ、う、で、でも燈夜さんは、とっても、優しいです……」

  恥ずかしくて恥ずかしくて、お母様の顔をますます見れなくて顔を覆って言う。

「……紬の方が優しい子だと思いますし、あの御仁は皆に優しいわけではないと思いますが……まぁバランスが取れてて良い感じなのでしょうね」
「え?」
「いえ。なんでもないです。紬が幸せなら、私も旦那様も、紬のご両親も文句はありません。むしろ自由に恋愛させてあげられなくて申し訳……」
「お、お母様!僕は、燈夜さんに会えて良かったと思ってます……! 普通には絶対に出会えなかったと、思って。だから、その…お見合いをして、本当に良かったと……!」

  そこまで僕が慌てて言うと、お母様は少し息を吐いて、そう言ってくれると嬉しいです、と微笑んだ。

  気を取り直し、コホン、と咳払いをしてお母様はもう一度姿勢を正す。

「さて紬。霜永家のΩで婚約者を作った後に重要な事があります」
「……? お稽古ですか? お勉強ですか?」
「それも大切ですが、違います」

  首を振って否定される。なんだろうと上手く思いつかない僕はハッと気づく。

「Ωの双子を産む……!」
「それも大切ですが、ぶっちゃけそこは運なので違います」
「え……お母様がそれ言って大丈夫なのですか?」
「だって狙って出来るものではありませんし。というか双子って出産は危険ですし、先々代の当主も二人の年子を双子だと偽って育てていましたし」

  さらりと重要な事を言われる。えっ、と僕が漏らすと、絶対に内緒ですよとお母様はコロコロと笑った。分家や他家に知られると面倒なことこの上ないらしい。僕はあんまり分からなかったけど、コクコクと頷いて内緒なことは理解した。

「そうではありません!紬!良いですか! 祈里にも口を酸っぱくして言い続けましたが、霜永家のΩはどこのΩよりも魅力的でなくてはなりません!それも!旦那様限定で!」
「え、ええ?!」
「他家のΩは旦那様に愛される事で魅力的になるでしょうが、霜永家のΩが選ばれる理由はそれだけではありません!婚約者といってそれに奢ることなく、紬は燈夜さんをメロメロにし続ける努力を怠らないようにするのです!!」
「お、お母様……?!」

  ここ最近のお母様はなんだか壊れちゃったのかと思うほど激しい。どうしてしまったんだろうか。僕は訳が分からなくて、クルクルと頭を回した。

「この方と決めたのなら、燈夜さんと決めたのなら!絶ッ対に逃れられないように紬がメロメロにされるのではなく、メロメロにするのです……!!」
「ひぇ……」
「前にも言いましたが、紬が!婚約者様を誑かすのです!良いですね?!」
「は、はひぃ……!」

  お母様の迫力に負けた僕は、クルクルと目を回しながら情けない返事をしたのだった。


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