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第9話
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賓客たちの混乱を納めたアイラは、会場を乱さないように静かに退出した。
「はあ、どうしたものかな」
会場から退散したアイラは、人がいないことを軽く確認してから、盛大なため息を吐く。
「アイラ様、大丈夫ですか?」
そのため息を目敏く察したグレイス(アイラと共に会場から静かに退出していた)は心配の声を発する。
「いやまあ、体調は別になんともないよ、あそこから逃げるための演技だから、でも、アリク兄様をどうするか考えたら頭が痛くなって」
「ああなってしまうと確かに手がつけられませんが、どうしようもないと思いますよ、俺は」
「そうも言ってられないじゃないか、国際問題になるし後々めんどくさいことになるのは目に見えてる。それに、アリク兄様はなんであんなに怒ってしまったのか」
怒って消えたアリクをどうするかで頭痛が起こってしまったアイラを、諦めましょう、という言葉で諭そうとするグレイス。
グレイスはそういいながら、アリクの不憫さを哀れんだ。
アリクが怒る理由もグレイスにはよく分かっている、そして自分にも胸に燻る怒りがあり、ぶっちゃけると自分もアリクについて行ってギャラストを滅ぼすくらいしたい、そう思っているが、そのために主であるアイラの迷惑になりたくない、という感情とアイラの傍を離れたくないという感情のほうが強いから、ここにいるというだけだ。
アイラも彼の言い分が理解できないわけではない、いやむしろそうしたほうが(今は)楽なのは分かっているが、その楽さを引き換えに後々めんどくさいことになるのはいやだと思ってしまうことにより、アイラは頭痛と戦いながら、今後の策を練りだす。
「とりあえず、ここでうだうだ言ってもしょうがないから、はやく帰らないと」
アイラがシルフィスに帰ろうとしているころより数日前、グリュン王国とギャラストの国境線
「くそ!なんなんだ、なんであんな短い棒でこれほどの味方がやられるんだ!」
ギャラストから軍を向けらた領の領主は、自軍を率いて応戦したが、わけのわからない武器のようなもので赤子の手を捻るように簡単に追い詰められていた。
追い詰められた領主たちは、領民の安全と引き換えに降服するという手しか残されていなかった。
国境線の領主たちは、皆良識と知識を兼ね備えているので、無駄に命を減らすような真似はしなかった。
カイルが連れてきた駿馬たちのおかげもあり、数刻ほどでアイラはシルフェスに帰ってきた。
アイラはすぐに旅の準備をメイドたちに頼み、自身は領主である父がいる執務室に駆け込む。
「父上、今帰りました、状況を教えてください」
ノックもそこそこに駆け込んできたアイラに、父である領主こと、アルファ・シルフェス・シルヴェスター(領主にはセカンドネームとして領の名がつく)は渋面になりながら、数日前の出来事を娘に聞かせる。
「アイラよく帰ってきてくれた。黒狗の報告によると、どうやらギャラストは新型の弓矢のような兵器を使ってきたようで、国境の軍では守りきれなかったようだ」
(新型の弓矢?国境の軍は優秀である者たちがいるはず、その優秀なはずの軍がこんなに短い期間で撃破されるなんて、もしかしたら、前世の世界にあった銃のようなものか?)
「弓、ですか。それはどういった兵器なのかは詳しくわかっているのですか?」
父の言葉にアイラは前世の記憶が戻ったことによって、一つの心当たりを思い浮かべながら、そう問う。
「ふむ、今現在分かっているのは、1メートルほどの長さの棒のような形状で目にも見えぬ速さで、皆射られているようだ。しかし、連射ができぬようなことも聞く」
(1メートルの長さで棒状、それで目にも見えず、矢そのものも視認できない、連射ができない、となるとやはり銃の可能性が高い種類は聞いた感じだと火縄銃だろう)
「なるほど、ギャラストは恐ろしいものを作りましたね」
父の持つ情報である程度の予測をしたアイラは、口では恐ろしいと言いながらも、その口は邪悪と言っても差し支えないほどの笑みを刻んでいた。
彼女の押し隠された言葉はきっと、こう語っている。
面白い、と。
「はあ、どうしたものかな」
会場から退散したアイラは、人がいないことを軽く確認してから、盛大なため息を吐く。
「アイラ様、大丈夫ですか?」
そのため息を目敏く察したグレイス(アイラと共に会場から静かに退出していた)は心配の声を発する。
「いやまあ、体調は別になんともないよ、あそこから逃げるための演技だから、でも、アリク兄様をどうするか考えたら頭が痛くなって」
「ああなってしまうと確かに手がつけられませんが、どうしようもないと思いますよ、俺は」
「そうも言ってられないじゃないか、国際問題になるし後々めんどくさいことになるのは目に見えてる。それに、アリク兄様はなんであんなに怒ってしまったのか」
怒って消えたアリクをどうするかで頭痛が起こってしまったアイラを、諦めましょう、という言葉で諭そうとするグレイス。
グレイスはそういいながら、アリクの不憫さを哀れんだ。
アリクが怒る理由もグレイスにはよく分かっている、そして自分にも胸に燻る怒りがあり、ぶっちゃけると自分もアリクについて行ってギャラストを滅ぼすくらいしたい、そう思っているが、そのために主であるアイラの迷惑になりたくない、という感情とアイラの傍を離れたくないという感情のほうが強いから、ここにいるというだけだ。
アイラも彼の言い分が理解できないわけではない、いやむしろそうしたほうが(今は)楽なのは分かっているが、その楽さを引き換えに後々めんどくさいことになるのはいやだと思ってしまうことにより、アイラは頭痛と戦いながら、今後の策を練りだす。
「とりあえず、ここでうだうだ言ってもしょうがないから、はやく帰らないと」
アイラがシルフィスに帰ろうとしているころより数日前、グリュン王国とギャラストの国境線
「くそ!なんなんだ、なんであんな短い棒でこれほどの味方がやられるんだ!」
ギャラストから軍を向けらた領の領主は、自軍を率いて応戦したが、わけのわからない武器のようなもので赤子の手を捻るように簡単に追い詰められていた。
追い詰められた領主たちは、領民の安全と引き換えに降服するという手しか残されていなかった。
国境線の領主たちは、皆良識と知識を兼ね備えているので、無駄に命を減らすような真似はしなかった。
カイルが連れてきた駿馬たちのおかげもあり、数刻ほどでアイラはシルフェスに帰ってきた。
アイラはすぐに旅の準備をメイドたちに頼み、自身は領主である父がいる執務室に駆け込む。
「父上、今帰りました、状況を教えてください」
ノックもそこそこに駆け込んできたアイラに、父である領主こと、アルファ・シルフェス・シルヴェスター(領主にはセカンドネームとして領の名がつく)は渋面になりながら、数日前の出来事を娘に聞かせる。
「アイラよく帰ってきてくれた。黒狗の報告によると、どうやらギャラストは新型の弓矢のような兵器を使ってきたようで、国境の軍では守りきれなかったようだ」
(新型の弓矢?国境の軍は優秀である者たちがいるはず、その優秀なはずの軍がこんなに短い期間で撃破されるなんて、もしかしたら、前世の世界にあった銃のようなものか?)
「弓、ですか。それはどういった兵器なのかは詳しくわかっているのですか?」
父の言葉にアイラは前世の記憶が戻ったことによって、一つの心当たりを思い浮かべながら、そう問う。
「ふむ、今現在分かっているのは、1メートルほどの長さの棒のような形状で目にも見えぬ速さで、皆射られているようだ。しかし、連射ができぬようなことも聞く」
(1メートルの長さで棒状、それで目にも見えず、矢そのものも視認できない、連射ができない、となるとやはり銃の可能性が高い種類は聞いた感じだと火縄銃だろう)
「なるほど、ギャラストは恐ろしいものを作りましたね」
父の持つ情報である程度の予測をしたアイラは、口では恐ろしいと言いながらも、その口は邪悪と言っても差し支えないほどの笑みを刻んでいた。
彼女の押し隠された言葉はきっと、こう語っている。
面白い、と。
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