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選択の時偏

第1話

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入ってきた男の姿に私は驚いた。
男の顔がおとぎ話に登場する、王子様のようだったからだ。
髪は金色で、瞳の色は海を切り取ったように美しい蒼色だったのだ。
まさに金髪蒼眼といったところか。
男の格好はラフな感じで、特に着飾っているようには見えない。
しかし私の目は、男の顔よりも、身体のほうに向いた。
男の身体は、服の上からだとわかりにくいが、相当鍛えてあると伺える体躯だ。
ちなみに私の男の好みが、細身に見えても女性を簡単にお姫様抱っこできるくらいの腕力を持っている人だったりする。
しかしこの状況なのでそんなことは脇において置く。
幸い私が男を観察していたのはほんの数秒だったので、男は気づいてないようだ。
私の意識が男に向いていると気がついたのか、男は私が寝転がっているソファーに近づき、わけの分からないことをした。
なんと、私にいきなり抱きついてきたのだ。
意味が分からない。なぜそうなる。
男の行動に混乱している私をおいて、男は私の耳元で感極まったような声を出し、こう言った。
「会いたかった俺の愛しい娘!」
わけ分からん。私の家族構成は、母と姉がいて、父親は私が生まれてすぐに事故で亡くなったと母は言っていた。
それなのにこの男は、私を娘と言った。どういうことだ。
しかし私は気がついた。今私は黒づくめの男たちに無理やり誘拐されて、ここにいるのだと。
ということは今目の前にいるのは、誘拐犯の仲間あるいは、首謀者なのではないかと。
首謀者ならば私の文句を受け入れる必要があるはずだと。
そして私はこの男に文句を言うために男から離れる必要があると思い、放してもらおうと男の背中に回った手で、男の背中を叩いた。
しかし男は一向に私を放さない。
変だと思い男の顔を覗くと、ハアハア言いながら私の髪に顔をうずめていた。
私は生理的嫌悪感で、男を引き離そうとしたが男の力にはかなわず、思わずと言った体で叫んだ「この変態!!」と
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