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見切り処分
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この国では当然のことながら爵位は国によって管理されている。当たり前のことで、他の国でも同様の取り決めがある、はずだ。
そしてそれに基づき、爵位持ちの貴族が他国の人間と婚姻を結ぶ場合は国の許可を取る必要がある。しかしフィールズ家はそれを知らないのか無視しているのか、国への届け出をしていない。
「それだけでも、国の調査対象になりますわね」
ジョゼフィーヌはおっとりと宣い、同じ卓を囲んでいる他の者たちもあっさりと頷く。
「貴族として生きていく以上、それくらいはわかっていなくてはなりません」
「あの家はその辺り、あまりに脆弱というか考えが浅いというか。言ってしまえば自業自得ですもの」
騎士団に馴染みの深いレイチェルも、商事に長けた家のアンリエッタもその辺は完全同意だ。
小さな領地と僅かな領民しかいない弱小の貴族家など幾らでもある、だがそうした家の多くはもっと力のある家に恭順を示して傘下に入るのが常。子どももそのために教育し、幼いうちにスキルの確認をして少しでも家の力になるよう育てるのが、貴族の親としての努めだ。
しかし今彼女たちが話題にしている、フィールズ子爵家は全くそうした行動が見られない。 調査の限りでは、少なくとも問題のリリィが生まれてしばらくしてからはその状況だったようだ。フィールズ子爵自身、ごく小さな領地を何とか切り盛りしていた程度の小貴族で特筆するようなことは何一つなく、殆ど注目されることもなかった。しかし国が気づかない間に、隣国の商会が彼の領地に店を構え資金を援助し、しかも何やら縁組みさえ予定しているという。
フィールズ家の子どもは、問題の令嬢・リリィだけだ。本来もう一人、双子の姉がいたはずなのにそちらは姿を消しており、葬儀をあげた様子もない。よその貴族夫人がお茶会で世間話を装って探りを入れても、フィールズ夫人の返答は要領を得なかった。夫人の実家もごく小規模な男爵家で、殆ど目立った活動もない。要は、どこにでもあるさして役にも立たない、反面警戒も必要としない類いの小家でしかないはず、だったのだ。
だが今は、悪い意味で注目の的になっている。
発端は娘のリリィが、貴族学院で普通の貴族家では到底考えられないほど不作法な振る舞いを繰り返したことだ。いったいどんな教育を、と家のことを調査させるといろいろと問題点が沸いてくる。
「……フィールズ家には、詳しい調査を行うそうですわ」
お茶で唇を湿したジョゼフィーヌが僅かに口調を変えて切り出す。それに合わせ、周りの令嬢も僅かに姿勢を正した。
「まず、リリィ嬢がスキルの審査を受けていないらしいこと、その再審査。更に他国の商会とやらとの関わりについて。……そして、もう一人の娘の所在」
「……ジョゼフィーヌ様、僭越ではございますが……」
「その、もう一人の子ども、というのはいったいいつからいないんですか」
アンリエッタが言いかけたところに、レイチェルがはっきりと聞く。正直、アンリエッタの方も彼女の言いたいことはわかるから任せて友人の顔を見やった。
「今のお話だと、ずいぶんと幼いうちに姿を消したようでしたが。……さすがに家族もなく一人では……」
既に亡き者となっているのではないか、と。その危惧は二人の共通するものだ。そして、ジョゼフィーヌももちろんそれは認識しているのだろう、一つ頷いて続ける。
「彼女が、消えたらしい同時期に長年子爵家に仕えてきた執事とメイド長の夫婦も職を追われていることがわかりました。……その夫婦が、ご令嬢を匿っているのではと考えられるのです」
そしてそれに基づき、爵位持ちの貴族が他国の人間と婚姻を結ぶ場合は国の許可を取る必要がある。しかしフィールズ家はそれを知らないのか無視しているのか、国への届け出をしていない。
「それだけでも、国の調査対象になりますわね」
ジョゼフィーヌはおっとりと宣い、同じ卓を囲んでいる他の者たちもあっさりと頷く。
「貴族として生きていく以上、それくらいはわかっていなくてはなりません」
「あの家はその辺り、あまりに脆弱というか考えが浅いというか。言ってしまえば自業自得ですもの」
騎士団に馴染みの深いレイチェルも、商事に長けた家のアンリエッタもその辺は完全同意だ。
小さな領地と僅かな領民しかいない弱小の貴族家など幾らでもある、だがそうした家の多くはもっと力のある家に恭順を示して傘下に入るのが常。子どももそのために教育し、幼いうちにスキルの確認をして少しでも家の力になるよう育てるのが、貴族の親としての努めだ。
しかし今彼女たちが話題にしている、フィールズ子爵家は全くそうした行動が見られない。 調査の限りでは、少なくとも問題のリリィが生まれてしばらくしてからはその状況だったようだ。フィールズ子爵自身、ごく小さな領地を何とか切り盛りしていた程度の小貴族で特筆するようなことは何一つなく、殆ど注目されることもなかった。しかし国が気づかない間に、隣国の商会が彼の領地に店を構え資金を援助し、しかも何やら縁組みさえ予定しているという。
フィールズ家の子どもは、問題の令嬢・リリィだけだ。本来もう一人、双子の姉がいたはずなのにそちらは姿を消しており、葬儀をあげた様子もない。よその貴族夫人がお茶会で世間話を装って探りを入れても、フィールズ夫人の返答は要領を得なかった。夫人の実家もごく小規模な男爵家で、殆ど目立った活動もない。要は、どこにでもあるさして役にも立たない、反面警戒も必要としない類いの小家でしかないはず、だったのだ。
だが今は、悪い意味で注目の的になっている。
発端は娘のリリィが、貴族学院で普通の貴族家では到底考えられないほど不作法な振る舞いを繰り返したことだ。いったいどんな教育を、と家のことを調査させるといろいろと問題点が沸いてくる。
「……フィールズ家には、詳しい調査を行うそうですわ」
お茶で唇を湿したジョゼフィーヌが僅かに口調を変えて切り出す。それに合わせ、周りの令嬢も僅かに姿勢を正した。
「まず、リリィ嬢がスキルの審査を受けていないらしいこと、その再審査。更に他国の商会とやらとの関わりについて。……そして、もう一人の娘の所在」
「……ジョゼフィーヌ様、僭越ではございますが……」
「その、もう一人の子ども、というのはいったいいつからいないんですか」
アンリエッタが言いかけたところに、レイチェルがはっきりと聞く。正直、アンリエッタの方も彼女の言いたいことはわかるから任せて友人の顔を見やった。
「今のお話だと、ずいぶんと幼いうちに姿を消したようでしたが。……さすがに家族もなく一人では……」
既に亡き者となっているのではないか、と。その危惧は二人の共通するものだ。そして、ジョゼフィーヌももちろんそれは認識しているのだろう、一つ頷いて続ける。
「彼女が、消えたらしい同時期に長年子爵家に仕えてきた執事とメイド長の夫婦も職を追われていることがわかりました。……その夫婦が、ご令嬢を匿っているのではと考えられるのです」
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