「史上まれにみる美少女の日常」

綾羽 ミカ

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第7話 莉菜子、鏡に問いかけるの巻

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鏡よ鏡、

「世界で一番、美しいのは……私?」

鹿取莉菜子は、鏡の前に立ち、自分の顔を見つめていた。

団地の狭い六畳間、安っぽいドレッサーに映るのは、間違いなく 美少女 の姿だった。

――つややかな黒髪、完璧な曲線を描く睫毛、大きな瞳、すっと通った鼻筋、綺麗に整った唇。

まるで、漫画やアニメのヒロインが現実に飛び出してきたような 「絵に描いたような美少女」。

莉菜子は自分の顔をじっくり観察しながら、ため息をついた。

「……なのに、なんで私はこんな生活してんの?」

化粧水をコットンに染み込ませながら、心の中でぼそっと呟く。

美しいことは、幸せなのか?

莉菜子は昔から「可愛い」「綺麗」と言われ続けてきた。

小学生の頃から先生や親戚にちやほやされ、中学では男子がバレンタインに30人以上押しかけ、高校に入ってからは ナンパやスカウトの嵐。

けれど、それが幸せだったかというと 微妙 だった。

「可愛いからいいよね」
「可愛いから許されるんでしょ?」
「可愛いからモテるし、楽して生きてるんでしょ?」

まるで「美しいだけで人生イージーモード」みたいに言われるたび、腹の底で イラッ とする。

(だったら代わってみろよ)

(この顔のせいで、いちいち絡まれる面倒くささを味わえよ)

(美人だと女に敵視されて、陰で足引っ張られるのも知らねぇくせに)

莉菜子は、自分の完璧な顔を見つめながら、ゆっくり口角を上げた。

「……私は、世界で一番、美しい?」

「でも、美しさってなんなんだろ」

美少女は、幸せになれるのか?

莉菜子は思い出す。

昨日、優月(ゆづき)と廊下ですれ違ったときのこと。

優月は莉菜子の顔を見るなり、わかりやすく目を逸らした。

(あー、まだ根に持ってるわけね)

昔は仲が良かった。というか、 唯一の「友達」だった。

でも、嫉妬と悪意はあっという間に友情を壊した。

「莉菜子ってさ、美人だけど性格悪いよね」
「ぶっちゃけ、顔だけの女って感じ?」
「なんか裏で男に媚びてそう」

言われるまでもなく、自分の性格が悪いことは莉菜子自身が一番よく知っている。

でも、何かを努力して勝ち取ったわけでもない「美貌」を持つことで、勝手に敵意を向けられるのは 理不尽すぎる。

「私が可愛いからって、なんで嫌われなきゃいけないの?」

「私が美しいからって、なんで友達を失わなきゃいけないの?」

莉菜子は 「美少女」という鎧 をまとって生きている。
それは強力な武器にもなるけれど、同時に 重すぎる足枷 でもある。

「美しいって、いいことなの?」

莉菜子は鏡をじっと見つめた。

「鏡よ鏡、世界で一番美しい少女は誰?」

そう呟いてみる。

……鏡は何も答えない。

そりゃそうだ。これはおとぎ話じゃない。現実だ。

(もし本当に鏡が喋ったら、なんて言うんだろ)

「それはもちろん、鹿取莉菜子様です」

そう言われても、何の感動もない。

(結局、美しいってことにどれほどの価値があるの?)

その時、母親の奈津子が部屋のドアを蹴るように開けた。

「おい、風呂入るなら早くしろよ」

「……は?」

「お前、いつまで鏡見てんの? 自分が可愛いのはもう分かってんだろ?」

莉菜子は心の中で 「はぁ!? なんで今それ言う!?」 と思ったが、同時に少し笑えてきた。

「……いや、別に」

「また自分に見惚れてたんだろ? あんた、ほんと 無駄に可愛い よねぇ」

「無駄に、って何?」

「可愛いだけで食ってけるなら苦労しないっつーの」

「は? それ、めっちゃババアのセリフなんだけど」

奈津子は「あーやだやだ」と言いながら煙草をくわえる。

「で? 何? 世界一美しいのは自分かどうか確認してたわけ?」

「……」

図星だったので、何も言えなかった。

奈津子はククッと笑った。

「バーカ、そんなこと考える暇あったら働け」

「はぁ?」

「どうせ美人ってだけでチヤホヤされてんだから、うまいこと利用すれば?」

「……」

「でも、バカな男に捕まるんじゃねーぞ。あんたがそういうクソみたいな人生歩むのだけは、見たくないからね」

それだけ言って、奈津子はリビングへ戻っていった。

莉菜子は鏡を見た。

(……結局、美しいって何なんだろ)

美しいことで 得することもあれば、損することもある。
人を惹きつける力もあれば、妬みや嫉妬を生むこともある。

鏡の中の自分は、完璧な顔のまま無表情でこちらを見つめていた。

(……まぁ、いっか)

莉菜子はそう思いながら、メイク落としを手に取った。

(とりあえず、今日はもう寝よ)

「世界で一番美しい少女」が、団地の安っぽい布団にくるまりながら、静かに目を閉じた。
【続く】
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