スキル、訳あり品召喚でお店始めます!

猫 楊枝

文字の大きさ
5 / 9
第一章 開店準備

四話 この世界での現実

しおりを挟む
「絶滅なんて、嘘ですよね」

 驚きを隠す様に、あえておどけて訪ねて見る。でも返ってきたパッドの答えは真剣そのものだった。

「魔獣はこの世界に存在するモンスターと同等の存在なんだよ。人間を襲う事もあるし、実際に魔獣の牙によって息絶えた人たちが何人もいる」

 パッドの答えに不安を覚え目が泳いでしまう。カルちゃんはそんな狂暴な子に見えなかったから信じられない。

「でも、人間の役に立とうとする、良い魔獣だっているんですよね?」

 私の問いにパッドが困ったように笑って答える。

「勿論ゼロではないよ。結構昔の話だけど、魔獣の子供をさらって従魔として使役しようとした悪い輩がいたんだ。魔獣の子供は純粋だから誰にでも良く懐いてね、賢い子は人間の言葉も喋れるようになった。だからかな、驚くような高値で取引されてさ。でも……」


 パッドが言葉に詰まって黙り込んでしまったので、私は続きが気になり「でも?」と、パッドに聞き返す。

「子供をとられた事で魔獣達が狂乱して一つの村を滅ぼしたんだ……。その村を管轄していた国の王様が激怒してね、冒険者に魔獣狩りをさせた、バカ高い懸賞金を出してさ。それで魔獣は絶滅したんだ」
「そんな……」

 なんで酷い話なんだろう。私は言葉に詰まってしまう。
 だって、大切な子供をとられてどんな思いをしたか、魔獣のパパやママ達の気持ちになると居た堪れなくなる。

「その滅んだ村が僕の生まれ故郷アーメリア」

 パッドが自虐的な笑みを浮かべる。

「……ごめんなさい。嫌な事を思い出させてしまって」
「別に君は悪くないよ。もう過去の事だし、今はこうやって商人として強く生きてる」

 パッドが拳を振り上げる。でも、無理に作った笑顔からは、さっきまでのあどけなさを感じなかった。
 
「パッドさんは強いんですね……」
「うーん、強くならざるを得なかったのかも。ボクの場合。とにかく生きていかなきゃいけなかったし、父も母も生粋の商人でね。商品の売り方が上手かったし、困った人の役に立とうと道具袋目一杯に商品を詰め込んでさ」

 パッドの目が急に輝きだす。お父さんとお母さんの事が大好きなんだなという気持ちが良く伝わってくる。

「そんな両親に憧れて僕も商人になった。君も、もし商人としてこの世界で生きていくんなら、ライセンスは取得した方がいいよ」

 そう言って首からぶら下げたカードを見せてくれた。カードにはパッドの写真が貼られていて、名前と、有効期限が刻印されていた。

「商人ライセンスは実技もないし比較的簡単だから取りやすいよ。じゃあ、お近づきの印に君にこれを上げる」

 パッドが袋の中から何かを取り出し、私に手渡す。
 手の平に置かれた冷たくて硬い感触に懐かしさを覚える。

「バッジ?」
「そう、可愛いでしょう?」
「うん、とっても」

 ワンちゃんの顔が描かれた金属製のバッジだった。どことなくカルちゃんに似ている。

「大魔導士リヴァイアスが使役していたハーフの魔獣らしいんだ。ボクはその大魔導士が亡くなったこのダンジョンに、彼の遺品を探しに来たんだ」
「リヴァイアス……」
「どうかした?」
「ううん、なんでもないんです」

 カルちゃんが名乗っていた名前を思い出す。

(カルベロッサ、ケルベロシアン、リヴァイアス3世……)

 それって、カルちゃんのご主人様は……。いや、ご主人様だけじゃなくてカルちゃんも……。

 私はカルちゃんの冷んやりとした肉球の感触を思い出す。
 私が黙り込んでいるのを心配したのか、場の空気を変える為にパッドが明るい声を出す。

「そのバッジ、意外と高かったから大事にしてよ」
「はい! ありがとうございます」

 私は頭を下げる。その時、暗闇の奥からぞろぞろと足音が聞こえてくる。

「やっと、追いついた。先にセーフポイントに逃がしたから解らなかったと思うけど、下の階層のモンスターの攻撃えげつねぇわ。HPの減りがヤバい」
「パッド回復薬頂戴。私もう限界よ」
「俺にも頼む」

 パッドの仲間らしき人達が、パッドに何やらお願いをしている。
 羽帽子を被った身軽そうな細見の男性に、同じく細見だけどしっかりと筋肉がついた、腰に大剣を背負っている人、その後ろには三角帽子に杖のようなものを持ったグラマーな女の人がいた。

「皆、待ってて今お高いポーション用意するから」

 パッドがそう言って道具袋から小瓶を3っつ取り出す。中にはトロっとした緑の液体が入っている。
 3人はそれを受け取ると美味しそうにグビグビと飲み干し、物珍しそうに私の方を眺めて

「誰、この子知り合い?」
「こんな危険なダンジョンに女の子のソロなんて珍しいわね」
「お嬢ちゃん、こんな所に何しに来たの?」

 同時に聞かれて、しどろもどろしてしまう。

「転移してきたみたい、ここに」

 転移!? と3人が声を揃えて言う。それに続いて無理ゲーだな、と3人が同じ感想を漏らす。

「それは気の毒ね。パッドお嬢ちゃんにあれを上げたら」
「あーそうだね」
「そんな、もらってばかりで悪いです」

 パッドが道具袋をごそごそと漁る。何やら、ブツブツと呟きながら困ったような表情で

「持ってくるの忘れたっぽい」
「マジか!?」

 大剣を背負っているお兄さんが驚きの声を上げる。

「アドアの糸っていうダンジョンを脱出する為のアイテムがあるんだけど、そもそも自力で脱出出来る実力のあるパーティーだから持ってきてなかった」
「それは瀕死の時は俺に死ねという事か?」

 羽帽子の男性がため息をつく。

「……いや、そういう事ではないんだけれど」
「パッドのスキル、がまた発動したわけね」

 グラマーな魔法使いらしきお姉さんが呆れたように言い放つ。

「まぁ、いいさ。俺らが大魔導士様の遺産を手にするまでお嬢ちゃんはここで待ってれば安全だから。俺らが無事遺産を手に入れたら迎えに来てあげるよ」
「ありがとうございます」

 お礼を言う私をよそに、魔法使いのお姉さんが

「無事に帰ってこれたらね……。でもここ、中難度ダンジョンと言っても嫌らしい罠が多いし、罠解除の名人の盗人がいるからって、Sランのあたし達でも油断したらヤバいわよ。何事もなく帰ってこれればいいけど」

 不安な気持ちが垣間見える物言いに、私も不安になる。そんな凄い所に転移してきちゃったなんて……。

「よっしゃ、体力も回復したし更なる階層を目指そう」

 大剣を背負ったお兄さんの掛け声で座り込んでいた皆が立ち上がる。

「じゃあね、リコ。また来るからここでじっとしててね」
「はい。ありがとうございます」

 私は深々と頭を下げ、パッド達パーティーを見送った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

嘘つきと呼ばれた精霊使いの私

ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。

姉が美人だから?

碧井 汐桜香
ファンタジー
姉は美しく優秀で王太子妃に内定した。 そんなシーファの元に、第二王子からの婚約の申し込みが届いて?

私の容姿は中の下だと、婚約者が話していたのを小耳に挟んでしまいました

山田ランチ
恋愛
想い合う二人のすれ違いラブストーリー。 ※以前掲載しておりましたものを、加筆の為再投稿致しました。お読み下さっていた方は重複しますので、ご注意下さいませ。 コレット・ロシニョール 侯爵家令嬢。ジャンの双子の姉。 ジャン・ロシニョール 侯爵家嫡男。コレットの双子の弟。 トリスタン・デュボワ 公爵家嫡男。コレットの婚約者。 クレマン・ルゥセーブル・ジハァーウ、王太子。 シモン・グレンツェ 辺境伯家嫡男。コレットの従兄。 ルネ ロシニョール家の侍女でコレット付き。 シルヴィー・ペレス 子爵令嬢。 〈あらすじ〉  コレットは愛しの婚約者が自分の容姿について話しているのを聞いてしまう。このまま大好きな婚約者のそばにいれば疎まれてしまうと思ったコレットは、親類の領地へ向かう事に。そこで新しい商売を始めたコレットは、知らない間に国の重要人物になってしまう。そしてトリスタンにも女性の影が見え隠れして……。  ジレジレ、すれ違いラブストーリー

あっ、追放されちゃった…。

satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。 母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。 ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。 そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。 精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?

咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。 ※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。 ※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。 ※騎士の上位が聖騎士という設定です。 ※下品かも知れません。 ※甘々(当社比) ※ご都合展開あり。

処理中です...