銀翼のシャリオ ―転生盗賊団長、ホワイト改革で破滅エンドを回避する―

白猫商工会

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第9章

第11話 魔改造2

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広場では、一級兵装の残り二種が続けて披露されようとしていた。

まずは剣だ。
もともとは人の背丈を超える大剣に、鎧パーツが分離する仕様だった。
しかし携行性に難があったため、いまは双剣仕様へと改修されている。
それでも迫力は十分だった。

「うちのジジイ自ら鍛え直したんだぜ」

ドランが得意げに語る。
パーツ分離後は長めの片手剣だったが、それを少し短く調整し、さらにもう一本を新たに鍛え上げたという。

「鋼材が足りなくてな。二本目は竜のツノだ。
……こいつはすごいぜ。市場価値は想像もつかん」

あのときカレンが首を落とした竜。
その素材がドワーフ商工会に渡り、見事に武器へと昇華されたのだ。
結果として生まれたのは、元のアダマンタイト製ブレードと、竜素材のドラゴンソード。

さらに鎧化機構も改修されていた。
以前はアーマー一式――ガントレットにヘルムまで揃った装備だったが、いまは機動性と変形速度を重視し、簡素な胸当てと最小限のサポーターにとどまっている。
装着までわずか二・五秒。
実戦での瞬発力を考えれば、この差は決定的だった。

本音を言えば、俺自身が装備したいと思っていた。
だが――ここまでおあつらえ向きとなれば、使い手はひとりしかいない。

ヴィエールの戦士、ギルバート。

「へえ……新入りに随分と待遇がいいじゃねえか」

そううそぶきながらも、彼の手は迷いなく双剣へ伸びていた。
遠慮などしない男だ。

彼を魔獣ハントチームに加えたいと考えていた俺にとっても、この武装は渡りに船だった。
もともと化け物じみたスペックに魔導ギアが加われば、ブラック冒険者ギルドにも十分に対抗できる。

そして双剣について、ドランの説明はこうだった。

・アダマンタイトブレード
ただひたすら強度に特化。折れも曲がりもせず、刃こぼれすら許さない。絶対の耐久を誇る。

・ドラゴンソード
頑丈さではアダマンタイトに劣るが、魔力伝導率が抜群。斬撃に属性を宿す魔法剣として運用できる。

剛剣と魔法剣。
近接戦特化型のギルバートに、これ以上ない相棒だった。

さっそくギルバートは試し振りをする。
双剣は普段こそ鞘に収められているが、それこそが分離パーツなのだ。

操作を加えると瞬く間に鞘のパーツがキャストオフし、防具となってギルバートの身を包む。
この機構は、原理がわからない謎仕様だ。

そして現れたのは、黒いアダマンタイトブレードと、白いドラゴンソードの二振り。

ギルバートは重さを確かめるように双剣を振り抜く。
「重心は同じになるよう調整済みだ」――ドランの声が飛ぶ。
さすがドワーフの仕事だ。

続いて魔法剣。
鍔の形が変わっていて、円形のダイヤルが組み込まれている。

ギルバートがドラゴンソードを構え直し、鋭い斬撃を繰り出すと――炎が軌跡を描いた。

リスティアが得意げに言葉をかける。

「そのダイヤル回すと、三種類の属性から選択できるんだよ。上書きして別属性にもできるし。ちなみに、今の設定は火・呪・幻だよ~」

切り替えは便利だな。
ただ……火以外はだいぶマイナーな設定じゃないか? どういう趣味なんだ。

だがギルバートは気にした様子もなく、リスティアに向かってニヤリと笑う。

「気に入ったぜ」

変形を解除し、双剣を鞘ごと背中にかついだ。


――ちなみに、完全なる余談だが。

世界には「真竜」あるいは「古竜」と呼ばれる、不老不死にも近い知恵のある竜が存在すると言われている。
その素材の価値は爪一枚で国が買えるほどだが、そもそも誰も見たことがないレベルだ。

この世界で一般的に「ドラゴン」と言えば、恐竜に近い動物の「亜竜」。
そのなかでも精霊の加護を受けた強力な個体は「真亜」と呼ばれる。真竜ほどではないものの、火竜・雷竜・嵐竜・氷竜といった魔法を操る脅威の存在だ。

カレン率いる魔獣ハント部隊が戦ったのも、この真亜だった。
数十年、いや百年に一度現れるかどうかのレアものだ。

胴体はゴーレムの一撃で吹き飛んだが、手足や尻尾、首から先は残り、素材の一部はドワーフ商工会が買い取った。
それらは魔導ギアへと加工され、さらに市場へと流れていった。

エルフ国のオークションでは、真亜の目玉を加工した魔導ギアが出品され、エールーン社のCEOが五百億で落札して騒然となったという。
もちろん、ドランは笑いが止まらない様子だった。


閑話休題。

そして、最後に弩砲。

以前は、射程十三キロの距離から土魔法で整形した砲弾を雷魔法の電磁力で打ち出すモードと、鎧化して中距離で使えるボウガンモードを切り替えられる仕様だった。

だがもはやその原型は一片も留めておらず、何がどうしてそうなったのか、巨大な対戦車ライフルを思わせる風貌。

これについてライナが解説を始める。

「弩砲は単体運用だと限界があったわね。長距離射撃は弾道計算が複雑すぎて、誤差が数十メートル単位で出ていたの。着弾確認も“当たった”かどうか程度で、ほとんど博打みたいな運用だったわ」

……確かに、もともと砦や城壁を狙う攻城兵器だ。的が大きければ問題ない、という設計思想だろう。

ライナは目を細めて説明を続ける。

「そこで、ゴーレム支援システムと直結させたの。地図データとゴーレムの索敵システムから得た座標情報を統合して、センチメートル単位で着弾点を演算できる。これでようやく実戦兵器になったわ」

射撃管制システムとのリンク――。
それをファンタジー世界で実現するとは。
どこまでがWSO違反じゃないのか、だんだんわからなくなってきた。

「加えて、こちらはリスティアとの共同研究段階だけど。高電圧をかけた粒子を亜光速で打ち出す術式も組み込んでみたわ。ぜひ実戦データも欲しいわね」

……なんだかよく分からないが、すごそうではある。

そして、この大きさはやはり携行性に難があるということで、ランス……いや、いまは魔導バイクとの連携を前提としていた。

鎧化でパーツ分離すると、とたんにゴツい武装バイクが仕上がる。本体はショットガンのような形状。

「本体は土魔法で整形した弾丸を火魔法の爆発で打ち出すわ。
散弾モードは面で制圧できて有効射程距離は五十メートルくらい。一粒弾モードは二百メートルくらいね。
一回の射撃につきチャージ時間は三十秒程度かかるけど」

モヒカンの目が途端に輝きだした。
さっきまで釘バットが一番馴染むみたいなことを言っていたのだが。

強面こわもてに分厚い胸板、素肌に革ジャン。
片手に釘バット、もう片手にショットガンを構えるモヒカン大男。
あまりにも馴染みすぎているその姿は、とても商社の社員とは思えなかった。

ご丁寧にも、武装バイクの脇にはショットガン用のマウントが組み込まれている。走行中でも操作が可能らしい。

安全第一。手放し運転は非推奨なのだそうだ。
……いや、それ以前の問題が山ほどある気がしてならない。

「なあ、ボス。ええか?」

モヒカンはドランに操縦法を叩き込まれ、気分は完全にツーリング。

仕方がない。

「ああ、あまり街から離れないようにな。それと、騒音は無しで頼む」

そう言うやいなや、モヒカンはバイクに跨りスイッチやレバーを操作する。

ヒュウウ……と音を立て、ふわりと五メートルほど浮上。
そしてドヤ顔とスロットルを全開にし、「ヒャッハー!!」と雄叫びを上げて飛び去った。

……なんか楽しそうでいいな。

俺が少し羨ましげな顔をしていると、魔王がそっと寄ってきた。

「団長にはこれを」

差し出されたのは、黒革の薄手のグローブ。

「ライナくんから魔力伝導効率の良い繊維素材を分けてもらいましてね。それを編み込んでいます。
革は真亜のもので、リズくんが加工を手伝ってくれました」

ふとリズを見ると、儚げにそっぽを向いて言い放つ。

「お師さまに頼まれたから仕方なくだ。べ、別にお前のためなどではない」

いろいろと属性を盛り込んでくるやつだ。
だが、素直にありがたかった。

グローブをはめると、柔らかく、不思議なほどに手に馴染む。

魔王は言葉を続ける。

「なめし材に竜の血を混ぜていましてな。鉄仮面くんの依代ほどではありませんが、下位精霊の加護で普通の武器はまず通りません。
そして、手の甲に仕込んだ鋲──ワイヤー射手としても使えます」

促されるまま、広場に転がる人の頭ほどの石へ鋲を射出。
バスッと食い込み、鉤爪と反しが開いて固定される。

「内蔵の小型ウインチで、人ひとりくらいなら引き寄せ可能ですな」

巻き取り操作を行うと、ズルズルと石がこちらへ寄ってくる。

ワイヤーアクション……これは熱い。
盗賊団首領のフィジカルがあれば、使い道はいくらでもありそうだ。
それに、俺にはこういうシンプルなやつのほうがしっくりくる。

するとライナが、つまらなそうに口を挟んできた。

「魔王様、電気ショックは要らないって言うのよ。ねえ、興味あるなら改造してあげるから!」

……どうしてそう物騒なギミックを足そうとするんだ。

俺は曖昧に返事をすると、魔王とリズに礼を述べた。

「ありがとうな。正直、素手で闘うのはキツかったからさ。活用させてもらうぜ」

他の団員たちにも追々、魔導ギアは普及させて行きたい。
だがまずは幹部クラスの戦力強化は果たされた。

あまり考えたくはないが、これからのブラック冒険者ギルドとの戦いは激化が予想される。

俺たちの戦いはこれからなのだ。

……いや、まだ最終回ではないのだが。
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