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第1章
獣人の隠れ里2 アレンside
しおりを挟むわたしのお仕えしている主人、テリアお嬢様は良くも悪くも予測不可能なお人だ。
何を考えているのか分からないし、長年仕えて居ても予想が追いつかない時が未だにある。
正直、今回のアリスティナ姫との外出は反対だった。
わたしの最優先事項はテリアお嬢様の身の安全であり、その為には王宮の側で仕える必要があると熟慮を重ねて出した結論により此処にいるからだ。
アリスティナ姫の寝顔を横目で見ながら、昨日アレンが反対した時のテリアの言葉を思い出す。
『でもね、アレン。
その存在を知ってしまった今では、
貴方が1番、アリスティナ姫様を放って置いた事に心を痛めると思うのよ。違う?』
(獣人にして、人の国の姫…誰が手助けしようと幸せになどなれないだろう結末は見えている。)
この世界は人の定めた階級社会で成り立っている。主に上流階級、中流階級、下層階級。下層階級でも社会階級は何段階かに分かれているが、だいたいは普通の平民だ。貧困層はそのうち30%いると言う。
けれども、その貧困層よりも下の階級にいるのが、獣人で、人に飼われた獣人は言わば人では無く物。奴隷となる。
だから獣人は基本、人前には出て来ない。
テリアお嬢様のいた子爵領は王都から遠く離れた田舎も田舎。ど田舎だったからこそ実現出来た獣人にとっての夢の世界だと言う事をテリアお嬢様は知らない。
わたしの仕えていた子爵家には2人のご息女がおり、それぞれ似た容姿をしていても中身は全く正反対と言われていた。
妹君であるフェリミア様は田舎子爵家と言えども、王都に出ても遜色無いお方で、幼い頃から勤勉で聡明にして慈悲深きご令嬢。貴族の何たるかを心得ており、この世の決まりや規律の重みをきちんと理解している、貴族令嬢の模範其の物のようなお方だ。
だからこそ、その行動の原理は理解出来て予想が付きやすく仕えていて心地良かったし、仕事がやりやすかった。
対してテリア様は、幼い頃から子爵家を抜け出して村の子と共に駆けずり回って遊ぶわ、隠れんぼが上手過ぎて夜遅くまで帰ってこないで屋敷が大騒ぎになるわ、お稽古や勉学よりも好きな小説を読みふけったり、庭先で虫を飼い始めて奥様存命の際は散々叱られているわで。
目を離すと直ぐに消えるので、仕事は増えるしお陰で減給された事があるしで、仕えにくい。
要するにただの変わり者と皆からは思われていた。
だけど、テリアお嬢様は何処か憎めない。
寧ろ皆から慕われていた。
その理由は分からなくはない。
テリアお嬢様は良くも悪くも、階級や種族関係なく相手と対等だと言う価値観で動いて居る。それはお嬢様が上流階級に生まれながらも、家族に恵まれており現実を見たことがない故の事だとは分かっているが、そんなお方を嫌う使用人は少ないだろう。
だが、テリアお嬢様はそれ故に貴族としてやって行くのに苦労するのではと、皆が心配していた。
そんな矢先にテリアお嬢様が王宮に上がる事になってしまったのだから、皆の驚きは想像に難くないだろう。
わたしもあの時、かなり肝を冷やしたものだ。テリアお嬢様には今まで散々肝を冷やされてきたが、人生ワースト3に入るくらいは肝が冷えた。
因みに今回アリスティナ姫と外出すると決めた時はそのワースト3の中に入る。
(こんな世界で、獣人の姫が何故誕生されてしまったのか…悲劇としか言いようが無いな…。)
そう、テリアお嬢様はこの世界で変人と言われる部類だが、それに付き従い、手を貸したいと思っているわたしは、それを間違いだとは思った事は無いのだ。
なんせ、わたしもかつて、その変人と揶揄される行為に助けられた1人なのだから。
そんな世間知らずのテリアお嬢様に王宮の誰かが嘘を吹き込み罠を張って居る可能性を考えて、今から行く獣人の隠れ里は誰から聞いたものなのかを念のため確認したところ。
「まさか、テリアお嬢様はその猫が言葉を話したと言ってます?」
「そんな訳ないじゃない!」
「ですよね。安心しました。」
「私が猫の言葉を分かるようになって来たのよ。まだ単語少しだけど。
やっぱり言語を覚えるのは大切なのよね!」
(やっぱりただの変人かもしれない。)
やはり、この主人の考えている事は、本当に分からない。
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