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第1章

獣人の隠れ里5

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「ならば、アリスティナ姫をこの村に住まわせていただけませんか?」

「…。この国の、姫君をか?」

「はい。此処でしかその聖水が手に入らないならそうする他ないでしょう。」

「…その申し出は受け入れませぬの。」

「それは、何故ですか?」

「問題はいくつかある。
まずは先程言った混血種を忌み嫌う者はこの里にとて多い。

獣人は鼻のきく種族が多いでな。直ぐには分からずとも、よく良く嗅ぎ分けられれば、見た目で騙されまいて。


例えば…テリア様の執事じゃったか?あの若い男も妙な臭いをしていた。ワシじゃからこそ気付いたくらいの微かな臭いじゃが…あれは…。」

 
「……。」

  途端に唇を引き結び、雰囲気の変わったテリアに、マンジ村長に何かを感じとった。

「…知っておったか。これは失礼した。
話が逸れてしまったのぉ。

まぁじゃからあの姫の世話を買って出る者はおらぬ。かと言って宮殿から人間をこの村に入れる訳にもいかぬ。

そして、1番の理由が、本来この場所を王宮に知られてはならぬのじゃ。アリスティナ姫が居るとなれば、居場所を王宮が管理する事になる。

それだけは避けねばならぬ。1人の禁忌の子の為に、この村を危険に晒す事は出来ませぬ。」

「…。でも、そんな。アリスティナ姫が一体何をしたと言うのでしょうか?
禁忌の子と言うだけで、生を諦めろと?」

「では問いましょう。獣人は人に何もしていないのに見つかれば、たちまち捕らえられ奴隷にさせられる。最低限の権利もない。
その人間が獣人の住まう場所に湧き出る聖水を知ればどうなりましょうか?

その地は奪い取られ、聖女様がその身を捧げて獣人達の為に作ったこの安寧の地を追われる事になります。」


「その身を捧げて…?」

「そうじゃ。聖水がそう都合よく聖女の力で永遠と湧き出るのは何故だと思うとりました?

昔此処で我ら獣人の安寧の為に、聖女様恩自らがその身を人柱として捧げられたからなのですぞ。」

「…!」

「だからこそ、此処に住まう者達は皆、人として生まれた聖女様を崇め、奉り、感謝の念、尊敬の念を抱き、命懸けで此処を守ろうとする者ばかりです。

言わばこの場所も聖水も、聖女様に託された我等の命。

アリスティナ姫がせめて人の姫ではなく、唯の獣人であったなら受け入れも考慮いたしました。

今日のみ聖水を分け与えるには良いでしょう。
明日までの寿命が少しは伸びるでしょう。じゃが、それ以上を望みは叶えられぬとお分かり頂けませぬか。」


 マンジ村長の話から、事の重要性は充分に伝わってきた。
 言う事も分からない訳じゃ無い。だけど…

「…お話は、理解出来ました。

なら、何故そんな情報を、貴方が警戒する人間に教えてくださるのですか?…いえ、其れだけではありません。
此処に入るのも許可しての事だったんですよね?

そこまで仰るのなら、何故…」

「それは…。」


 マンジ村長は、テリアの膝に乗っている猫に視線を落とす。
 

「そちらの、テリア様のお膝にいらっしゃるお方は、昔この地を作った聖女様の傍にずっといたお方。

聖女様以外に宿り主を決める事なく、この地にフラリと現れては消える。言わばこの地の青の聖獣様とも言われており…」

〝青の聖獣〟…猫が水色だからかな?
それを、それっぽく語り継いだのかな?

「え?猫、貴方歳はいくつなの?」

「にゃんにゃん。」

 まだ習得し切れていない単語も多く、数字についてはまだよく分からない。聖女様が居たのは今から数百年前と言われてるから…。…え?どう言う事なんだろう。

「そんな青の聖獣様が宿り主を此処に連れて参られると仰るので。」

 うわ。それは断れない。なんか申し訳なくなってきた。

「宿り主って。アリスティナ姫の事でしょうか?」

  猫耳同士仲良さそうだったからね。そうだとすると、アリスティナ姫とんでもない才能があるのでは…


「いえ、テリア様です。」

「ん??」

 不意打ちの言葉に、猫に視線を向けると、にゃんにゃん言いながら相槌をうっている。

「…聖獣様は、神に賜りし神力の強い聖女にしか懐かないと言います。
もしかしたら、テリア様が聖水を作る事が可能かもしれません。」

「ほう…?」

「此処の聖水のように、己が朽ちてもなお永遠に聖水を湧かせようと考えると、聖女様自身を対価にせねばなりませんが。

その都度となれば…。」

「己の持つその場の神力とやらだけで、作れる…かも?」

   聖水ってどう作るんだろう。でも、私がその都度作る事が出来たなら、此処に頻繁に出入りする必要もなく、アリスティナ姫も元気になるかも…。1番平和そう。

 いやいや、好条件だけ見たら良さそうだけど、現実無理だよ。そんな万能薬作れませんよ私には。
 猫は、ほら、暇つぶしの遊び相手に私に懐いてるだけだし。
 宿り主と言うか、友達な訳で。とんだ勘違いをされてしまった…。

「…なんて、冗談ですぞ。
この世に生まれた人間にそのような事が出来たら、この数百年異世界の聖女を待ち望んでおりませんからの。ほっほ。」


「ですよね!
あははっ。ちょっと良いかもとか思っちゃいました!」

 幾ら私が異世界から聖女が現れなかった時のために聖女の勉強をして、もし聖なる力の才能があったとしても、この世界にいる私が神力を司るほどの聖女にはなれないし、そんな例は無いと授業でもやってたなぁ。

 でも、異世界の聖女が来てしまったら私の身の危険が…いやいやそんな事言ってる場合では……。


「~…。一先ず、今日連れてきた者達に相談したいと思います。

私だけでなく、アレンやユラも受け入れていただき、また、貴重な話をしていただき、有難う存じます。」

「いえの。これも天の導き。かの聖女様の計らいでありますからの。聖女様に感謝を申し上げられるが良いでの。」

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