74 / 127
第1章
元皇帝と皇帝
しおりを挟む裁判の後、数日間、カルロは後処理もあるので神殿に滞在し、その後やっと王宮に帰る事となった。
カルロが王宮から帰ってきて直ぐに向かったのは、独房のある場所だった。
元皇帝の収監された独房に向かったのだ。
カルロは自分が元皇帝と顔を合わせるのは、これで最後になるだろうと考えていた。
明日にも元皇帝は消えてもらう事になっているからだ。
民が驚かないようにひっそりとその身の生涯を閉じてもらう事が、神殿や王侯貴族側の総意だった。
大々的には体調不良により、帝位から退いたと記されるだろうやり方で、玉座から降りてもらう事がこの時点で決まっていた。
独房の中に居る元皇帝は、姿勢を崩さずその瞳に宿る猛々しさもそのままだった。
「余に最後、用事でもあったか?それとも今までの恨み言か?おまえの腹心だけで無く、罪なき者共をわかっていながら捌いて来た余に。
余程思う所があるようだな。」
そう問われて、カルロは小さく深呼吸してから声を出した。
「…貴方の事で、ただ一つわからない事があったので…。答えて貰えるかはわかりませんが。聞きにきました。」
「…。」
「俺が腹心を2人失いそうになり縋った時、貴方は俺に無関心な視線を向けていました。
でも、2人が居なくなったあと、貴方は自分の手駒の中から、スピアという護衛をつけてくれました。」
「……ぁあ。そうだったな。皇太子が身一つでは周りに示しがつかぬだろうから手配した。」
「だが、芯に俺をどうでも良いと思い、手配するのなら、もっと…スピアのように、セドルスに害されない身分を持つとしても…芯の置ける、そして仕事の出来るような者でなくとも良かったはずだ。」
「…それでおまえは、何が聞きたいのだ?本当はおまえに愛情があり、心配であったから人材選びを怠らず、手配したとでも言って欲しいのか?
そう言えば、皇帝の地位に返り咲かせてやるとでも?」
元皇帝の言葉に、カルロは押し黙って拳を握る。
「…いえ。何でもありません。俺がどうかしていました。」
くるりと反転して歩いていくカルロの背に向かって言う。
「言っておくがな、おまえは余を罰したつもりだろうが。おまえだっていずれ余と一緒になる。」
「…?」
「おまえが死に物狂いで得たその玉座とはな、血を血で争った末に今までの皇帝達も手に入れた。
手に入れた後も、人々に裁きを与え血を流し続ける。
己の采配一つで無実の者も、そうでない者の命もたやすく跳ぶ。
その中で、おまえにしか見えない物も見えてこような。」
「…ー。」
「おまえは、親兄弟の屍を超えて
今から余と同じ茨の道へ行くのだ。
覚悟しておけよ。」
足を止めて振り返ったとき、元皇帝の目が笑っているようで、その様子がカルロの勘に触る。
「俺は、無実の者を裁くなどしない。
それに、皇太子として生まれた時点で俺には、この道しかなかった。
セリウムが俺に何もしなければ、俺は奴に何をする気も無かった。」
「…余とて、そうだった。出来うるならば皇帝などやりたくは無かった。人を殺すなど持っての他。
そんな時期も、あったのだ。
だが今はこのザマだ。」
元皇帝が瞳に宿した猛々しい鋭い光の中にはこれまでの、道のりが重く鈍く陰りとして落ちている。
それを悟って、肺の中にある空気が重苦しくなるのを感じた。
「……。」
「この国の皇帝となると言う事がどう言う事か、おまえはこれから身を持って知る事になるだろう。」
「ー・俺は、貴方のようには、ならない。」
「ほう?何故そう言い切れる。」
「俺は自分の為にこの地位を得た訳じゃない。
俺の守りたい者の為に、この地位を手に入れたからだ。そいつらが存在している限り、俺が間違えた道を選ぶ事は無い。」
今度こそカルロはその場を立ち去ってゆく。
その後ろで元皇帝は、口元に笑みを浮かべて、口にした「面白い。あの世で、杯を片手に、見届けてやる。おまえの行く末を。」それは誰の耳にも届かない言葉だったー…。
ーーー
ーーーーーーー
24
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!
楠ノ木雫
恋愛
貧乏な実家を救うための結婚だった……はずなのに!?
貧乏貴族に生まれたテトラは実は転生者。毎日身を粉にして領民達と一緒に働いてきた。だけど、この家には借金があり、借金取りである商会の商会長から結婚の話を出されてしまっている。彼らはこの貴族の爵位が欲しいらしいけれど、結婚なんてしたくない。
けれどとある日、奴らのせいで仕事を潰された。これでは生活が出来ない。絶体絶命だったその時、とあるお偉いさんが手紙を持ってきた。その中に書いてあったのは……この国の大公様との結婚話ですって!?
※他サイトにも投稿しています。
ブサイク令嬢は、眼鏡を外せば国一番の美女でして。
みこと。
恋愛
伯爵家のひとり娘、アルドンサ・リブレは"人の死期"がわかる。
死が近づいた人間の体が、色あせて見えるからだ。
母に気味悪がれた彼女は、「眼鏡をかけていれば見えない」と主張し、大きな眼鏡を外さなくなった。
無骨な眼鏡で"ブサ令嬢"と蔑まれるアルドンサだが、そんな彼女にも憧れの人がいた。
王女の婚約者、公爵家次男のファビアン公子である。彼に助けられて以降、想いを密かに閉じ込めて、ただ姿が見れるだけで満足していたある日、ファビアンの全身が薄く見え?
「ファビアン様に死期が迫ってる!」
王女に新しい恋人が出来たため、ファビアンとの仲が危ぶまれる昨今。まさか王女に断罪される? それとも失恋を嘆いて命を絶つ?
慌てるアルドンサだったが、さらに彼女の目は、とんでもないものをとらえてしまう──。
不思議な力に悩まされてきた令嬢が、初恋相手と結ばれるハッピーエンドな物語。
幸せな結末を、ぜひご確認ください!!
(※本編はヒロイン視点、全5話完結)
(※番外編は第6話から、他のキャラ視点でお届けします)
※この作品は「小説家になろう」様でも掲載しています。第6~12話は「なろう」様では『浅はかな王女の末路』、第13~15話『「わたくしは身勝手な第一王女なの」〜ざまぁ後王女の見た景色〜』、第16~17話『氷砂糖の王女様』というタイトルです。
【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!
永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手
ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。
だがしかし
フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。
貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる