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第2章
それは、時を遡る前の皇帝1
しおりを挟むーそれは、時間を遡る前の、とある皇帝の話ー
王宮内で味方を付けた俺は、第2王子の謀にごとにより、先帝が崩御したことを暴き、裁きを下す判決を言い渡した。
その瞬間、ひたすらに突き進んだ道を、振り返る余裕と言うものが生まれた。
そうしてみれば、皇帝となると同時に、自分は、これで全てを失ったのだと自覚した。
肉親である第2王子を裁き、処刑を言い渡す声は、どこか他人の声のようにも思えていた。
今、自分の仲間として残った者達は、損得勘定で動く者ばかりで、俺が隙を見せれば瞬く間に利益をむさぼり争い出すだろうと言うことは明白だった。
信頼のおける者達は皆死んでいった。
アリスティナが死んでから、自暴自棄になっている間、数少ない信用出来る味方も、腹心であったスピアも第2王子の陰謀で消されてしまった。
何故なら元より王宮内は敵ばかりで、その時俺には、何の力も無かったからだ。
俺はそれから、刺し違えることを念頭に、消されても良い人間だけを選び、皇帝の座をもぎ取るための駒として動かし、第2王子を裁いた。
その代償として、神殿や貴族の者達に都合の良いよう扱われる、傀儡の皇帝となろうとも、良かった。
それで国が疲弊しようが、民が困ろうが、顔も知らない者達のことなど、どうでも良い。
その時既に、俺は全てを諦めていた。どうあがいても変えられない現実ばかりを思い知らされてきたから。
俺のこんな状態を知れば、かつての腹心達も、アリスティナも怒るだろうな・・・。
だけど、俺にはもう、誰一人も傍には居ない。
ならばもう、俺の好きにしても良いんじゃないか?
俺はもう、政ごとなどどうでもいい。皆が好きに殺し合い争い、権力を我が物にすれば良いだろう。
形ばかりの皇帝。
そして、形ばかりの皇妃が即位式に歩み出た。
・・・そういえば、俺には一応伴侶となる皇妃が居たっけ。他の事で手一杯にしている間に忘れていた。
この皇妃は、俺の皇妃となったばかりに、俺と同じように抗いようの無いものに囲まれているのは、わかっていた。
先帝のときは俺と親しくすれば、皇太子妃も俺の政敵に目を付けられるだろうと考えていたから、一番離れた離宮に居を置いていた。
この皇妃が死ねば、また新しい利用価値の無い令嬢が皇妃となり、死体が増えるだけだと言うことを知っていたから。
せめて、運悪く俺の皇妃になった者が少しでも長く生きながらえる事が出来るように。死人を増やさないようにした為の判断だった。
しかし、いざ俺が皇帝となった今では、皇妃の座が埋まっていることを、煩わしく思う連中はごまんといて、俺にそれを止める力は無い。
形ばかりの皇帝が出来ることは、この皇妃を遠ざけることだけだった。近寄れば、皇妃の死を願う者達は過敏になって、すぐに動くだろう。万が一にも皇妃と俺の間に子供が出来てしまうと困るから。
元より、アリスティナが死んだ直ぐ後に迎えた初夜で、俺がかつてないほどに、暴言を吐きちらかしてから、皇妃は俺が近寄ることを怖がっていたから、皇妃からしても、ホッとしていたはずだ。
この皇妃が今死んだら、誰が当てがわれるのか、想像に易い。俺の苦手としている令嬢の顔が浮かぶ。そして皇妃の親となった者は我が物顔で、政権を振るい、性的にも魅力を一切感じない者を相手に子を産めだの何だの騒ぎ立てられるだろうと言うことは確実で。
それも何だか面倒くさいと思えた。
ならば、側妃を何人か娶り権力を分散させておいた方が水面下で牽制し合う状況を保てるし、俺は楽だ。
少しでも長く、この状態でいられるようにしよう。それは互いのメリットでもあるだろうと思えた。
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