【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式

文字の大きさ
114 / 127
第3章

大司教と対面2

しおりを挟む


 リリィー・ケスラー公爵令嬢が元々カルロの婚約者最有力候補であった話は、後任皇妃を探していた時から既に知っていたから驚きはしなかったけれど。

 よもや、大司教とも繋がりがあるとは思わ無かったのでそのことにテリアは驚いた。

 彼女の姿は後任皇妃を選ぶお茶会で見かけたことがあるので、今でも覚えて…うん。まぁ沢山人が来ていたので、なんとなく…思い出せる。


 あの時、私は後任皇妃にロザリー・テンペル公爵令嬢を選んだ。彼女は初代異世界の聖女の子孫だとか。

 テンペル公爵令嬢も元々、第2皇子が生まれる前はカルロの婚約者として有力候補ではあったけれど、当時それを上回るほどに支持されていたのがリリィー・ケスラー公爵令嬢だったそうな。

 異世界の聖女の子孫よりも皇太子の婚約者として推されると言うのは、一体どう言う人なんだろうと。腑に落ちなかった。

 私は、王宮でのことはアレンとユラからの情報しか得られない。彼らは人一倍耳が良いので、使用人達の噂話を集められるし、普段はそれで充分なのだけれど、全ての情報を得られるわけでは無い。


 でも、これでやっと腑に落ちた。


「大司教の姪御様が…。そうでしたか」

 腑に落ちてすっきりしているテリアとは対照的に、後ろで控えていたユラは〝何でわざわざそんな話をテリア様の前でするのかしら?〟と苛立ちを滲ませていた。

「ははっ、お気に触りましたか?ちょっとした冗談ですよ」
「冗談?ですが、婚約者最有力候補であったのは本当の話では…」
「しかし、結果なれませんでした。
皇妃様は本当に、運が宜しく羨ましいかぎりですよ。
ははっ。

姪はあれほど陛下をお慕いしていたというのに…可哀想に、最近では側室でも良いと健気なことを言っております。どうか、その際・・・は良くしてやってください」


 大司教の言葉に、テリアの背中は苛立ちの沸点を超えそうになっているユラとアレンの気配をビシバシと感じ取ってテリアはふるりと身震いをした。


(……何だろう。空気が重たい様な、背中が熱いような…)


「…ケスラー公爵令嬢がカルロ陛下の婚約者となりたかったこと、公爵も、そして大司教も当時から分かっていたのですよね?何故、ケスラー公爵は当時皇太子と婚約をさせなかったんでしょうか??」

 これは、嫌味ではなく素朴な疑問での問いかけであった。第2皇子が生まれるまでは、彼女達は婚約者として候補に名を連ねていたのだ。それが、第2皇子生まれてからは潮がひいてく様に、どの家門もその座を押しつけあったと聞いている。


 ケスラー公爵令嬢の気持ちを思うなら…カルロに味方して婚約しても良かったのでは無いだろうか。そう思ってしまう。



「…ふふっ、これはまた手厳しい」

 
 後ろで見ていたアレン達はハラハラしていた。

 後ろ盾なんか無いも同然の皇太子。
 前皇妃と言う後ろ盾のあった第2皇子。

 そして、成り行きを見ているだけの前皇帝を見ていたら、高位貴族達は勝率の格段に高い方へ鞍替えするのは自然だろう。

 皇太子とて、味方になってくれる者全くいなかった訳では無い。

 しかしあまりにも前皇妃の後楯が強大で勝ち目など無かった。

 そもそも前皇妃は、ケスラー公爵家の家門出身の者。
 その前皇妃が第2皇子を産んだのだ。
 それを、ケスラー公爵令嬢を皇太子の婚約者にしてしまえば、家門同士の諍いになってしまう。安易に欲張り、同士討ちで衰退した家門は歴史上数多いる。

 故にケスラー公爵が応援する皇子は第2皇子一択でしか無かった。家門の発展を考えると、娘の恋心など、二の次だったと言うことだろう。

 他の高位貴族達は、大司教と言うつてを持つケスラー公爵家に表立って楯突く気はさらさら無かった。テンペル公爵家も例外なく第2皇子側へと傾いた。

 

ーーしかし、彼らの予想を外れてカルロが皇帝になってしまった。

 今更になって何とか皇帝に取り入らなければとどの家門も焦っていた。
 それは、ケスラー公爵家とて同じことであった。

 それもそうだろう。そのやり方は緩やかな政局の変化は無く、取り付く隙間も交渉余地を与えない一瞬のどんでん返しだったのだから。


 異世界の聖女が長らく現れないことで、増え続けるだけだった暗黒龍を、1人で討伐したと言う事実。これは建国以来初めての偉業である。
 世界中の人々が願ってやまないことを、唯一無二の偉業で成し遂げると言う力技で、皇位継承者の正当性を神殿に認めさせ状況が変わった。

 こんなこと、誰も想像出来なかったのだ。


ーーテリア様は恐らくそこまで複雑なことは考えないお方なので、純粋に、〝なんでだろう?〟と思って聞いたのだろうが。

 勝手に深読みした大司教が、ご立腹なのが分かる。瞳に宿る光が、鋭くなった。


「ーー皇妃様。
ところで、つかぬことをお伺い致しますが、陛下がどの様にして暗黒龍を討伐されたのかご存知ありませんか?」

「いいえ、知りません」

「カルロ陛下は異世界の聖女を連れていた訳では無いのに、討伐された暗黒龍は確かに斬られた傷がございました」

「陛下がお一人で、どうにかしたのでは無いですか?」
「そうでしょうな。でも一体どうやったのか。どうにも気になりましてな…」

ーーコンコン

 話の途中で鳴らされたノックに、外からは「大司教様!」と慌てた様な声が聞こえて来た。

「騒がしいな、皇妃様がいらっしゃるのだぞ。一体どうした」


「現在、伝手から報告があり、ケスラー公爵が皇国騎士団に捕縛されました」

「なんだと?!」

「皇帝陛下の勅命で、強制家宅捜査が行われ…横領の証拠が差し押さえられまして…」
「何故そんなことになる!馬鹿め」

「そ、それと…」

「まだ何かあるのか!?」


「リリィー・ケスラー様も、捕縛されました」





しおりを挟む
感想 110

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです

珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。 その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。 それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

ブサイク令嬢は、眼鏡を外せば国一番の美女でして。

みこと。
恋愛
伯爵家のひとり娘、アルドンサ・リブレは"人の死期"がわかる。 死が近づいた人間の体が、色あせて見えるからだ。 母に気味悪がれた彼女は、「眼鏡をかけていれば見えない」と主張し、大きな眼鏡を外さなくなった。 無骨な眼鏡で"ブサ令嬢"と蔑まれるアルドンサだが、そんな彼女にも憧れの人がいた。 王女の婚約者、公爵家次男のファビアン公子である。彼に助けられて以降、想いを密かに閉じ込めて、ただ姿が見れるだけで満足していたある日、ファビアンの全身が薄く見え? 「ファビアン様に死期が迫ってる!」 王女に新しい恋人が出来たため、ファビアンとの仲が危ぶまれる昨今。まさか王女に断罪される? それとも失恋を嘆いて命を絶つ? 慌てるアルドンサだったが、さらに彼女の目は、とんでもないものをとらえてしまう──。 不思議な力に悩まされてきた令嬢が、初恋相手と結ばれるハッピーエンドな物語。 幸せな結末を、ぜひご確認ください!! (※本編はヒロイン視点、全5話完結) (※番外編は第6話から、他のキャラ視点でお届けします) ※この作品は「小説家になろう」様でも掲載しています。第6~12話は「なろう」様では『浅はかな王女の末路』、第13~15話『「わたくしは身勝手な第一王女なの」〜ざまぁ後王女の見た景色〜』、第16~17話『氷砂糖の王女様』というタイトルです。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

処理中です...