【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式

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第3章

闇堕ちにはさせない1

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「何やらお取り込み中でいらっしゃる様なので、本日はここでお暇致します」

 ひそひそと話している内容をテリアは聞き取れなかったが、何やら物々しい雰囲気だ。
 アレンには聞き取れている筈なので、馬車で聞いてみようと考えていた。

 テリアの声にはっとした大司教は、ひとつ咳払いをした後に、姿勢を正して恭しく頭を下げた。
 
「申し訳ございません、皇妃様。お恥ずかしくも取り乱したところを…」

「構いませんよ、今日は沢山お話を致しましたので、そろそろお暇しようと考えておりました」

「お言葉に甘えて、続きはまた改めさせていただきたいと思います」

 何食わぬ顔をしているが、額に滲んでいる汗を見て、大司教の焦りを感じた。




♢♢♢





 馬車の中はしんと静まり返っていた。アレンが目を閉じて、遥か遠くにまで耳をすませているからだ。
 彼は通常の獣人の何倍もの潜在能力を保有している。それ故に、聴力で聞こえる範囲も何倍もの広域となる。

 聞こえる範囲を過ぎたのか、ようやく目を開けたアレンに、テリアは問いかけた。

「どうだった?」
「どうやら、大司教様のご親族と語っていたケスラー公爵家が皇国の財源を横領していた罪で、捕縛されたようです」

「…財務大臣がそれをやったら大変なことなのでは無いかしら」

「ぇえ。大変ですよ、それはもう。わたしが幼少期に飢えていた原因の大半が、奴等の罪によるものだと思うと、腸が煮え繰り返りそうです」

「…けれど、今まで見つかっていなかったと言うのに何故今更?」

「カルロ陛下が、勅命により騎士団を動かし、強引に家宅捜査をしたそうです。もはや反撃覚悟の襲撃同然で、家主の許可など取らずにいきなり」

「それは、何も見つからなかったら大変なことになったんじゃ?」

「そうですが…。
ここで踏み切っていなければ、彼らは横領よりも取り返しの付かない罪を犯すところでした」

「国の財源の横領よりも取り返しのつかないことって、そうそう思い当たらないのだけれど?」


「……彼らは、いえ。ケスラー家のご令嬢は、畏れ多くもー…皇妃様暗殺の計画を立てていた様です」







♢♢♢

スピアside
 


 王宮内は騒がしくなっていた。ケスラー公爵の横領、その他不正について邸宅にて押さえられた証拠と共に、その娘リリィー・ケスラーの部屋からは皇妃暗殺計画を企てる数十通もの手紙が応酬された。

 手紙の授受をしていた相手を含めて、複数の名門貴族の名が記載されていたから尚のこと関係各所への対応に追われていた。

「陛下、一体どうされたのですか?
この度のやり方はあまりにも短慮で軽率です。これで証拠が出て来なかったらどうするつもりだったのですか」
「だがあった。ここまで抜け目があるとは拍子抜けなほどにな」

「ですが、本件は陛下では無く、官庁に探らせて正式な段階を踏むべきてした。このやり方ではいつか、足元を掬われます」

「ケスラー公爵もその様に考えて皇室を馬鹿にしていたのだろうなぁ、ふっ、これで長らく不動であった財務大臣の席は空いた。無能が爵位を引き継ぐと悲惨極まりないな」

 
 忠言が聞こえていないかのように、くっと笑うカルロに、スピアは息を飲んだ。

ーー陛下の様子がおかしい。
 一体、どうしたと言うんだ。

 今朝から、陛下の様子が明らかに変だ。こんなやり方を続けていたら、いずれ足元を掬われてしまう。何を焦っておられる?いや…跳ね返ってくるリスクを何故厭わない?
 
 大貴族を裁くとすれば、充分に場を整える必要がある。それこそ満場一致で周囲を納得させられる様な説得力を持たせなければ、この有無を言わせない強引なやり方では、人はついて来なくなる。

 全貴族に未だ影響力のあるケスラー公爵が何か仕掛けてくるかも知れない。最悪国が瞬く間に割れてしまう。

「…ーー聞けば、本日神殿にも皇宮の騎士を潜り込ませたとか。無茶が過ぎますよ、神殿は不可侵の領域で規律遵守です。それを犯したとバレたら、神への冒涜だと皇位を剥奪されてしまいますよ」
「そうか。なら誰が皇帝をやる?おまえか?実に愉快だな」
「陛下、私は冗談を言っている訳ではー…「冗談では無い」

 ギロっと鋭く睨みつけられたスピアは、反論することに身の危険を感じてピタリと固まった。額からは冷や汗がつたった。

「俺は、皇帝だ。誰がこの国で1番偉い?おまえか?神殿か?それとも、貴族共か?」
「陛下…」

 流れる様な動作で、するりと鞘から抜かれた短剣を、喉元につきたれられ、ゴクリ吐息を飲むことしか出来ない。
 この先、私に赦された答えは〝イエス〟のみだと言うことを悟った。

「わかったなら結構。
俺の言う通りさっさとリリィー・ケスラーを処刑しろ。2度と巫山戯た考えを起こす者が現れないよう、可能な限り残虐に痛めつけた後、吊し上げーー…「カルロ」



 突然割り込んできた声に、陛下は目を開いていた。


「ー…カルロ陛下」


 私の後ろから聞こえて来た声は、紛れもなく皇妃様のもので、先程まで研ぎ澄ましたように鋭く、苛烈な怒気を宿していた陛下の瞳。

ーーそれが今は一転して揺らぎ、大きく動揺しているのが見てとれた。

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