29 / 67
第2章
ミミルside②公爵令嬢消滅前
しおりを挟む数ヶ月の時が経った、悪役令嬢は相変わらず自分の役割を果たそうとしない。
本当に図太く、何を言われようともされようとも、全然怒らないもんだから、賢い私は気付いた。
彼女は私と同じく転生者で、己の運命を変えようとしているのだと。
周りの状況を見ていたら分かるけれど、此処は所詮ゲームの世界だからリディアも既に気付いているだろう。
世界の異物であるリディア以外全て、どんなにご機嫌取ろうともゲーム通りに進むのだと。
でも、そうなると私も少し心配だわ。万一異物のせいで王太子ルートに支障が出たら…実際ラブイベントが全然起きてないのも、異物のせいだったのね。
異物に気付いた頃、ゲーム通り私は王様に王宮へ呼ばれた。
これは実の親に対面するイベントなのだ。
部屋に通された私はこうして実の父、トラビア王と感動の再会をした。何でも私の母とは身分違いの赦されない恋をして、私の母は私を孕んだままセレイア国に逃げて来たのだとか。
父はずっと、母を探していたそうで、私の存在を探し当てたのは学園入学前らしい。
顎周りにダンディな髭があり、私と同じくトラビア王家特有の橙色の瞳。
トラビア王は私と感動の再会を果たし、こうなった経緯を語った後、私に質問してきた。
「…学園で何か困りごとは無いか?」
「いいえ、王太子殿下がいつも助けてくれます」
「王太子と仲が良いのか。
そう言う事ならば将来トラビア国とセレイア国の友好の証として2人の婚姻を考えても良いな!はっはっはっ」
「そんな、私は平民で…」
「そんなもの、学園で作法と学を身に付けたら、セレイア国の何処か貴族にでも養子にして貰えば良いのだ」
機嫌良さそうにしているトラビア王に、セレイア王は「妙案ですな」と頷いている。
私は戸惑うふりして言った。
「ですが、王太子には既に婚約者の方が…」
「政略結婚なのだから、何とでもなるだろう。そちらを側室にするとか。王族には良くある話だ。もしこれが叶えばセレイア王家は余の家族同然だ。なぁ、セレイア王よ」
話をふられたセレイア王は、笑顔で頷いた。
「そうですな、トラビア国王との強固な関係構築程優先されるものはありません」
「ですが…アルレシス公爵令嬢のリディア様は本気で王太子を愛しています。今でさえ嫉妬で…」
私はリディアが如何に酷い事をするのかを話をすると、セレイア王は青ざめた顔をして厳粛な態度で謝ってくれた。
トラビア王はきちんと無礼者を罰するように言付けて、その日は帰っていった。
凄く順調に断罪へ向けての話が進んでいる。王太子との婚約話も順風満帆だ。
まだ学園生活は始まって数ヶ月しか経っていないのだから焦る事は無かったのかも。
あまりにも手応えが肝心の王子からも悪役令嬢からも感じなかったから、焦っていたせいか展開が早いけれど。一先ず此処まで全く問題なくて良かったわ。
ーー今から卒業式が楽しみね。
これからセレイア王は悪役令嬢の行った虐めについて必死で捜査するだろう。
卒業式に悪役令嬢を庇おうとする者は1人もいなくなる。何故ならアルレシス公爵家は事前に王家から事情を説明され、あまりに酷い悪の所業に、娘であるリディアを勘当して縁を切るのだ。
そして娘の犯した罪を赦す贖罪の代わりに、王太子の妃になれるよう私を養女として引き取ってくれるのだ。
もう少しでアルレシス公爵とのご挨拶イベントがあるはずだ。ご挨拶という名の謝罪だけれど。
ーーぁあ、今から想像しただけでスカッとする!本当に正義のヒロインに生まれた私はラッキーだわ!
そう思いながら、私はこの世界でちゃんとヒロインをして過ごしていた。相変わらずの王太子との関係だったけれど、少し冷静に向き合えるようになってきた頃
いつも通り悪役令嬢の役割を与えてあげた直後に、この世界の異物は皆の前で消えて無くなった。
よっぽど悪役令嬢になるのが嫌だったんだろうと思う。気持ちはわかるけれど仕方ない事なのに我儘だと思い腹が立った。
王太子が私の事を好きになり味方するなんて初めからわかってただろうに。今更何を悲観したのか。
折角、卒業式の断罪イベントの準備は整いつつあったのに、全て台無しにされた気分だ。
ーーでもまぁ、あの子に沢山イライラしてたから跡形も無くなってスッキリもしたけど。これで王太子も手紙をいちいち書かなくて済むから良かったよね。
ちらりと王太子に視線を向けると、目の前で悪役令嬢の衣服にみっともなく縋り付いて「嘘だ、嘘だ」と繰り返している。それが何だか面白くない。
昔からの知り合いが急に消えたからと言ってショック受け過ぎじゃない?この王太子は誰にでも優しい設定は要らないよねほんと。
ーーうん、やっぱりあの子は自分の役割を理解してなかったから神様に消されたんだ。
なら、消えて正解だったのだ。役割を果たさなかったあの子が悪い。
942
あなたにおすすめの小説
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。