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第2章
ミミルside③火炙りの刑とはじまり
しおりを挟むほどなくして、ヒロインである私が、何故か悪役令嬢のように断罪され、牢に閉じ込められた。
はじめは何かの間違いだと思った。
ーーなんで、なんで誰も私を助けに来ないの?何日此処に閉じ込められていたら良いの?
こんな、薄暗くて湿った牢屋にヒロインが閉じ込められていると言うのに、攻略対象者達は何してるの?特に王太子、貴方は一体今どこに居るの?さっさと助けに来なさいよ!!
カシャン
牢屋の柵を握る音がした事で、ベッドに寝転んでいた私は身を起こした。
ぁあ。やっと此処から出られるのね。
卒業後私を養子に迎える予定だったアルレシス公爵の姿を見かけたとき、私はやっと此処から出られると思った。
この人は先日私に娘であるリディアの悪行を謝って、〝娘を反省させる〟と約束してくれた。お詫びに卒業式の断罪には協力してくれると約束もしてくれて、娘の部屋からいじめの証拠を探しておくとまで言ってくれた。都合の良い脇役だ。
攻略対象者が助けに来ないのは腹が立つところだけれど、悪役令嬢が怠慢にも急に消えたせいで何かのバグで起こったのだろう。牢屋から出たらちゃんと反省してもらわないとね。
まずは、此処から出るのが先決だわ。
「助けに来てくれたんですね!アルレシス公爵様!」
「ー・私は、おまえを決して赦しはしない。楽に死ねると思うなよ」
「??え?」
「…宝だった…愛する妻が残した忘形見を…、私の娘をこの手で死に追い詰める事に加担させた。」
「宝…悪役令嬢が?」
(本当にバグが発生してるわ。ちゃんと治るんでしょうね?)
「私だけじゃない。
リディアが気にかけていた孤児院の子供達は、将来リディアの役に立ちたいと王宮仕えのメイドや文官となる為に寄付された教材で勉学に励む者も多くいた。そんな子たちを操ってリディアに石を投げつけさせるなんて……」
「……。メイド?文官?」
「それだけじゃない。リディアと仲良くしていた令嬢達は己の口から親友の悪評をばらまき、リディアを社交界から孤立させてゆき、リディアに濡れ衣を着せた。
幼い頃からリディアとそれは仲の良かった子達だ。
他にも、どれ程多くの者が正気に戻ってから自分達が魅了されている間にした記憶で今尚苦しんでいると思っている?
愛し、尊敬し、親愛を抱いた者を己の手で苦しめ追い詰め死に追いやる。
ー・これ程の地獄があるか?
正に 悪魔の所業だ。
間違いなくおまえは悪魔であり、他の何者でもない。
力を制御出来なかったでは済まされぬ。
おまえが望み、皆に実行させた事に変わりはないのだ。
その望み自体が到底許せない。
慈悲などかける者はこの国に1人もいないと思え」
柵の隔たりが耐え難いと言わんばかりに、格子を掴んで力を込めている手から血が一筋伝い落ちるのが見えた。俯いていた公爵が、スッと顔を上げて私を見た。
暗く深い闇にこちらを引きずり込もうとする引力を感じて、背筋がゾッと凍りつく。
…でも私が悪魔?聞き捨てならないわ。
「……あ、悪は私じゃなくてリ…」
アルレシス公爵の表情を見て発しかけた言葉を飲み込んだ。 これ以上、言葉を紡げばギリギリの理性を切ってしまう気がして…。
「業火に焼かれ、血の涙を流す皆に蔑まれながら己の所業を悔いるが良い。」
(こいつ、頭おかしいんじゃないの?先日はあんなに協力的だったのに。私が皆に蔑まれるですって?その役目はリディアの役目よ。いつ迄バグに付き合っていれば良いのかしら)
ヒロインの私が悪役令嬢の役割をする必要もないのに理不尽な事を言い出すアルレシス公爵に憤りを隠せなかった。
(ま、王太子妃になるためにアルレシス公爵を利用したかっただけだから、王太子妃になった暁には、こんな酷い事言う人と顔を合わせなきゃいいわ)
ーーそろそろ王太子様が助けに来る頃かしら?
────────────────────────────────────────
数日後ー…
まだ助けは来ないまま私は牢から出された。
何かがおかしい。
理不尽な役人達や聖職者に囲まれて、罪人のように質素な服にを着せられ、後ろ手で固定されている私への民衆の視線は激しい憎しみを宿していた。
おかしい、此処は哀れみとか、私を助けたくても助けられない事に悔しそうにするところでしょう?
私は人々に愛されこそすれー…
「悪魔め…」ポツリと誰かがそう言った。
私はヒロインなのよ?物語の絶対的正義のはず。
なのに皆何故そんな目で私を見るの?
攻略対象者達は?王太子様は何処?ゲームのメインヒーローでしょう?何故私を助けに来てくれないの?
連れられた道の先には、私をくくり付ける為の棒があった。
抵抗しようとしても無駄で、瞬く間に棒に括り付けられ、地面が視界から遠ざかる。
罪状を読み上げられている。私は世界の禁忌である悪魔であり関わったら皆が不幸になるとか。今回の事件で皆身に染みたようだから慈悲は無用だとか言ってる。下手したら国が傾いていたかもとかなんとか…。
言い掛かりも甚しかった。
足元には火が灯されて、そろそろ誰かが私を助けに来るのではないかと待ち受けていても誰も来る気配がなく、流石に少し焦りが出てくる。怖くなってきた。
(え?大丈夫…私、ゲームのヒロインだし……誰か助けに来るよね?)
ーーそれから、結局 暫くしても誰も来なかった。
だけど足元はもう炎に包まれている。
口には布を噛まされているので、悲鳴もまともに上げられない。
熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い!!!!
ーー何で私がこんな目にあっているの?なんでーー
「悪魔!」
「永遠に姿を現すな!消えろ悪魔ぁあ!!」
私に向かって小石が追い討ちをかけるように投げ込まれて、額に当たる。
炎の隙間から、リディアを〝悪女〟と呼んで小石を投げていた平民の子供達が見えた。
リディアに向けていた表情よりも、苦痛にみち心底私が憎いというように涙を流し、次々と私に石を投げてくる。
悪魔?
悪?
私が?
それは、だから、悪役令嬢の役目だ。
私じゃない。リディアの役目だ。
ーー熱さでどうにかなってしまうのではないかと、死への恐怖と焼け焦げる痛みで絶叫をあげる私を見ているのに、哀れみ一つ見せぬ民衆の目が見える。
先日のアルレシス公爵と同じ闇の深さを感じて恐ろしさが込み上げてきた。
『業火に焼かれ、血の涙を流す皆に蔑まれながら己の所業を悔いるが良い』
ーー彼等は本気で私を憎み、殺しに来ているーー
ヒロインとして皆に愛されながら学園生活を送っていたのに、悪役令嬢がこの役割を果たす筈だったのに。
ゲームの攻略対象者達は全員何処なの?
私を王太子妃にしてくれると言っていたセレイア王は?
隣国の父は愛娘が不当な扱いを受けていると言うのに助けにもこないのは何故?
身が包まれてゆき、噛まされていた布も燃えてしまった事で
この日 ミミルの絶叫は事さら大きく広場に響き渡った。
「いやぁああああああ!!!!!アヅイィィィイイイイだれか!だれかぁ!!!だれかたすけてぇぇえええええ!!!!!!」
全身が炎に包まれているというのに
私は意識を失う事もできずにいた。
♢♢♢
永遠にも思える苛烈な苦痛の中でも、いつの間にか静寂が訪れた。
もう私を苦しめていた炎による激痛はないのにーー牢獄で私を見下ろす公爵の顔が私の心を何時迄も地の底に落とし込むようで、恐ろしい。
どうして突然、皆あんなふうに冷たくなったのだろう。
私が、悪いというのだろうか、何が良くなかったんだろう。
私はただ、ゲームの通りにこの人生を楽しもうとしただけだ。
1人の小国の公女が自殺したからなんだというの?しかも彼女は元々処刑されて死ぬ予定の悪役令嬢。
少し死ぬ予定が早まっただけ。
だというのに、こうも話がおかしな方向へ進むものだろうか?
それでも、公爵とセレイア王国の民達の私を攻める言葉や視線の数々が忘れられず、暗い夢の中で私は考えた。
ーーどうして、私が悪だと言われることになったんだろう。
そうするとすぐに思い当たる節が一つだけあった。
リディアだ。
思えば彼女が勝手に動き数多の改変をし、あろうことか自殺してまで、物語を強引に変えてから思う通りに物事が進まなかった。
きっとあの子は…悪役令嬢は、悪役令嬢として必ず処刑される存在でなければならなかったのにーーあの子がそれを放棄した。
悪女の役割が突然居なくなって、この世界がおかしくなったんだ。
あの子のかわりに私が悪者にされて、処刑されたのだ。
私はセレイア王国の出来事で確信した。
やはりーーヒロインに起きる悲劇全て悪役令嬢が諸悪の根源なのだと。
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